!! 乙女骸×男前綱吉 !!



ただ真っ白い壁紙に、光を弾く水の波が揺れる。

レースのカーテンは時折強く吹く暖かい風にひらひらと揺れていた。

太陽の光を吸って熱を持つような骸の解かれた長い髪に、掌が滑る。

ベットの上でもうどのくらいこうしているだろう。

大きめの白い枕に背中を預けるようにしている綱吉の胸に頭を凭れて、
骸はその胸が繰り返す呼吸や心音を聞いていた。

綱吉は飽きもせず骸の髪を撫でていて、
骸も飽きもせずに髪を撫でられていた。

骸はこのまま猫になってもいいと思った。

それは自分を卑下しているのではなくて、
この掌に愛おしく撫で続けられるなら、猫でも構わないと、そう思っただけ。

「さっきね、君を待っているとき、子供に遊んでとせがまれました。」

「公園で?」

優しい声が胸を揺らして、骸はくすぐったくて目を細めた。

「そう。」

「困っただろ?」

「ええ。」

くすくすと笑う声はきっと、小さな子供を前に困った顔をする骸を思い浮かべているから。

意地悪な人ですね、と骸も小さく笑う。

「でも僕は君を待っていたので遊べないと断ったんです。」

「ちゃんと謝った?」

「謝りましたよ。」

どこか得意気な骸に、綱吉が笑う。

胸に声が響いて、くすぐったい。

「その子は帰っちゃったの?」

「ええ。子供は不機嫌な顔をして、それなら次に会ったときは遊んでと言って走って行きました。
次に会うことなんてないだろうに、」

言って骸はふと長い睫毛を持ち上げた。

「社交辞令ですかね?」

とうとう吹き出した綱吉に骸が不思議そうに瞬きをするから、
綱吉は笑いながら骸の耳元に鼻先を埋め、骸はくすぐったそうに小さく笑った。

「女の子だったんじゃない?」

骸は少し考えた後、風に靡くレースのカーテンを白い指の先で摘んだ。

「こんな服を着てたので、恐らく。」

何だよそれと耳元で笑う声に、骸は猫のように目を細める。

「きっとその子は骸のことが気に入ったんだよ。」

「・・・嫉妬を?」

「そうかもね。」

「めずらしい。」

「そうでもないよ。いつも、言わないだけ。」


強い風が吹いて、髪を揺らす。


きらきらと光の粒子が見える気がして、滑稽な気分の分だけ、幸せな気持ちになった。

幸せを光に例えることを、骸は知らなかった。

たとえばこの白い部屋を埋め尽くす柔らかい光だとか、
10年も前に暗い闇の中で見た強い光だとか、
そのどれもが綱吉に通じているのならきっと、幸せは光の中にあるのだろう。

骸は本当は世界なんてどうでもよかった。

壊れようが滅びようが何でもよかった。

でも、綱吉とこうして過ごす世界がなくなるのは耐えられなかった、それだけの話し。

「なあ、骸。また指輪の交換をしよう。お互い、無事に帰って来られたから。」

互いの無事を祈り交換した指輪、左手の薬指のリングの上を繊細な指先がすと滑って、
白いシーツの上に光と似た色の細い指輪が並ぶ。

嵌めてくれと言わんばかりに差し出された左手を取って、
自分がしていたリングを相手の薬指に嵌め直す。


そっと厳かに、指輪の交換を。


リングの上にキスをし合って、指先を絡め合う。


「ただいま、骸。」

「お帰りなさい、綱吉。」

「お帰り、骸。」

「・・・ただいま。」


指先が輪郭を確かめるように、確かにここにある己の体を滑って撫でていく。

骸はまた猫のように目を細めて綱吉の胸に頬を預けた。


屈辱的なこともあった。けれど、

「・・・無事でいてくれて、本当によかった・・・」

震える吐息に乗せるような声はどこか泣き出しそうに呟いて、
その言葉だけで何もかもなかったことのように思えてしまう。

それを屈辱と思わないのはきっと、すべてが綱吉に還るから。

細い指先を絡め合う。

「ねぇ、今日は傍にいて。」

「今日『は』じゃないよ。」


導かれるように上げた長い睫毛の先で、綱吉が、光りに透けるように微笑んだ。

眩しくて、目を細める。


「明日もあさっても、その先もずっと一緒だ。約束する。」



もう何もいらない。

あなたがそこに、いるのなら。



2010.04.15
未来編終了後くらいのイメージですv
普段しっかり者の骸でも綱吉の前では甘えん坊でいいんじゃないかな・・・っはぁはぁ
夜になれば骸が上に乗っかりま(略)