時の流れは恐ろしいとつくづく思う。
十年前に敵として出会ったのに今はこうして午前中の淡い光の中で
虫干しでもするみたいに公園のベンチに並んで座っている。

目の前のくすんだ白の噴水はばしゃばしゃと水を噴き出している。
たまに風が吹けば細かな水飛沫がベンチまで届いて涼しくていい。

特に何を話すでもなく、かといってずっと黙っている訳でもない緩やかな会話の中で
ふと綱吉が呟いた言葉に骸は盛大に眉根を寄せた。

嫌悪を相手に分からせるように、あからさまに眉根を寄せて顔を歪ませた。
そんな顔はもう見慣れているので、綱吉は軽く笑って流した。
気に入らない、と続けて吐かれた言葉ももう予想済みで、
綱吉の笑顔を深くする以外に何の効果も齎さなかった。

「何が可笑しいのですか。」

「何って、お前の顔だよ。」

全く可愛くない、と骸は心の中で毒づいて、光を受けて笑う綱吉を睨んだ。

気持ちいいくらい怯えていた昔の綱吉が今となっては懐かしい。
人より適応力があるのは薄々分かっていたが、まさかこんなにも図太くなるとは予想外だ。

軟弱な思考はそのままに、神経ばかりが逞しくなってこのアンバランス。
骸は忌々しげに溜息を吐いた。

「あなたが言っている事はおかしい。」

頭っから全てを否定したって

「そうかなぁ?」

返ってくる言葉は曖昧でも強固な意志が見え隠れする。

相も変わらず甘ったれた理想論を並べ立て、人を慮って泣いたりする癖に
土台が出来上がってしまっていて潰れそうで潰れない。流されそうで流されない。

性質が悪い。

「あなたと僕は相容れないものですよ。」

「まぁ、そうだろうな。価値観が全く違う。」

本当に性質が悪い。
何故こうも受け入れるのだろうか。

「そう思うのなら、すでにあなたの言葉は矛盾しているでしょう?」

「意外だ。」

心底驚いた綱吉は目を丸くした。
そしてこんな顔をする時は綱吉が決して意思を曲げないのを骸も分かっているので
うんざりと目を細めた。

「骸が恋愛に関して正論を言うとは思ってもなかったよ。」

「はぁ、レンアイですか。」と骸は言葉を放り投げた。
骸が戦意を喪失するのはいつもいつも綱吉が相手の時だけだ。
気力というものを一切合財持っていかれる感覚に陥る。

「でもさぁ」

綱吉がまだ幼さの残る声で続ければ、骸の不機嫌さは増すばかりだ。

「価値観が違えば、世界が広がると思わない?」

「なるほど。そういう考え方もありますね。」

ゆるりと綱吉に視線を向けて、

「などと言うとでも?」

綺麗に口角を上げて嫌味に笑えば、綱吉は瞳を閉じて笑いを堪える。

(本当に、図体ばっかでかい子供だよな。)

その言葉は飲み込んだ。



だって骸はそんな事を言いながら、ずっとずっと綱吉の手を握って離さないのだから。









大きな音に驚いた鳩が一斉に飛び立った。
穏やかな時間はここでおしまい。
「行きますか。」
「仕方ないな。」
けれど手は離れなくて、いっそこのまま遠くに行ってしまおうかとも思った。







09.01.11
サボる二人ってツボなんですね
サボるツナ骸またはサボる骸ツナ萌え