「潰しておきました。そこまで晒す必要はないでしょう。
この部屋にメンテナンスで入る人間も固定した方がいい。あと、窓の鍵くらい閉めたらどうですか。」
淡々と告げる骸に、それでも綱吉は大きく瞬きをした。
骸は小さく口元を緩めた綱吉に気付いて眉根を寄せた。
「何ですか。覗かれて興奮する趣味でも?」
「ば・・・っある訳ないだろ・・・!」
頬を染めて眉を吊り上げた綱吉は、それでもすぐに頬を緩めた。
「じゃあ骸にはこの部屋の鍵、渡しておくよ。」
窓から入って来なくてもいいように、なんて照れたように言われたら
まるで自分のために開けておいたように思えてしまう。
「髪、乾かしてやるよ。」
綱吉はベットを横切ると、ドライヤーを手にして骸の後ろに膝立ちになった。
静かな部屋には煩いくらいの、風の音がたった。
綱吉は骸の髪を柔らかく梳いていく。
骸は止める術もなく、されるがままだった。
こんな所に来るのはきっとこれが最初で最後だから、
綱吉が渡す鍵は何の意味も持たない。
そんな事はもう綱吉も分かり切っている筈なのに、それでも鍵を渡すのだろう。
それでも窓を開けておくのだろう。
意味のないものでも繋がっていたいのだと、
それは骸も同じ事で、だって現にそれこそ「こんな所」にまで会いに来てしまったのだから。
連絡を入れる時間さえ惜しんでただ会いたくて「こんな所」にまで来てしまったのだから。
だから骸も何の意味も持たない鍵を受け取るのだろう。
「・・・伸ばしてたんだな。」
「ええ、」
会えないでいた時間を埋めるように髪を撫でる指。
撫でるように差し込まれては髪を滑っていく指が心地よくて
うっかり瞼を落としそうになる。
「・・・綺麗、」
呟かれた声にほとんど反射的に振り返ると、綱吉は柔らかく微笑んだ。
「むくろ、きれい。」
そんな言葉をこの人の口から掛けられていいのだろうか。
「きれい」とは程遠い所をずっとずっと歩いて来た。
それなのにこの人は、この「きれい」な人は、そんな言葉を囁き掛けてきて、
この人にそんな事を言われたら、全てを許された錯覚に捕らわれてしまう。
そんな馬鹿げた事、ある訳がないと分かっている筈なのに。
細い体に腕を回して抱き付いて、その胸に顔を埋める。
綱吉は微笑んで、骸の頭を柔らかく抱き締めた。
心臓の音がする。
柔らかな音は確かにここにあって、酷く、安心する。
「・・・ボンゴレ、」
「綱吉。」
小さな子供に言葉を教えるように囁き掛けると
骸は長い睫毛を持ち上げて目だけで綱吉を見上げた。
「綱吉。」
もう一度囁き掛けると、骸はふい、と視線を逸らしたので綱吉は小さく笑った。
初めて会った日だけはそう呼んでいて、それ以降は君、かあなた、か貴様、だけだったから
固有名詞で呼ぶようになっただけで大した進歩なのかもしれない。
だけど、名前で呼んで欲しい。
ボンゴレ、ではなく、名前で。
それなのに骸は、決して名前で呼ばない。
「あなたはボンゴレです。」
あたかもそれが正当のように。
些か乱暴に綱吉をベットに押し倒す。
「お前のものだよ。」
本心で言って、その体を抱き締めるのに、
首筋に押し当てられた柔らかい唇は、全てを遠ざける。
「あなたは出会った時からボンゴレだった。」
それでもお前のものなのに、と綱吉は呟いた。
骸「だけ」のものと言えない事が歯痒くて悲しくて悔しくて、
これ以上何を言っても骸に届かないのは分かっていたけれど
それでも綱吉は骸への想いを紡ぎ続けた。
What does the bird sing in a cage?
−籠の鳥は何を歌う?
The bird sings love to beloved him
−あの人への愛を歌います。
09.04.24
ボンゴレという籠の中
鳥=綱吉
一見簡単に抜け出せそうな籠はそれでも檻のようで二人の間には鉄格子。
だから綱吉は言葉で伝えて、なのに骸は触れられるのに連れ出せないもどかしさで拗ねるんです(笑)
綱吉から受け取った鍵はネックレスにしてお守り代わりに
首からぶら下げていればいいと思います(鍵っ子?)
ちゃんとパンキッシュに格好よくキメてくれます骸さん。
骸が帰る時は骸が出て行きやすいように
綱吉はいつも寝たふりをするんだと思います。
骸もそれを分かっててキスして出て行くんだと思います。
そうでもしないとお互い離れられないんだと思います。
あとがき長いな・・・