こうなる事は予想してたが、全く期待していなかったと言ったら嘘になる。
自分に対する態度が、他の人間とは違うと思っていたから。
でも今となっては「思い込みだ」と言われたら、そうなのかもしれない、と思うだろう。
あからさまな拒絶の色が切れ長の瞳に揺れていた。
綺麗な肌の上にくっきりと刻まれた眉間の皺は、この距離でも分かるほどだ。
「君は、」
言葉の続きに僅かに期待して
「僕を舐めてるのか。」
すぐに打ち砕かれた。
いつものようにヒバリが嫌う類の冗談を言いそうになって、口を引き結んだ。
ヒバリの目が、それを許していない。
ここまできたら山本は苦笑するしかなくて、ヒバリはそれが余計気に入らなかった。
「舐めてなんかねーよ。本気、なんだけど」
「黙れ。」
言葉の語尾に被せて強く言う。
山本が真摯な表情に変わったので、ヒバリは一層眉間に皺を寄せた。
「好きだ。」
「違う違うそうじゃない。」
「ヒバリ?」
一瞬取り乱したかのように見えたヒバリだが、しかし再び眼光を鋭くさせた。
「二度と僕に近付くな。君は何も分かっちゃいない。」
口が滑った自分に短く舌打ちをして、ヒバリは踵を返した。
『近付くな』
その言葉が深く深く心に刺さって、山本は動けずに遠ざかるヒバリの背を見詰めていた。
痛々しい視線を背中に受けながら、ヒバリは逃げ続けた。
君は本当に何も分かっていない。
何のために僕の傍にいたんだ。
好きだとか、愛してるだとか、そんな言葉じゃなくて
ただ君が欲しいだけなのに。
頭で恋愛を考えたくない怖がりなヒバリと
手順を踏みたがる山本の遠回りな恋。
08.12.12