綱吉は裏窓から外へ飛び降りた。
さっきまで降っていた大雨が庭の草木を濡らして大きな水たまりを作り、それなのに空は馬鹿みたいに晴れて月が満ちていた。
土の匂いを孕む風に髪を靡かせて綱吉は走り出した。  ★
本部の明かりを背に濡れた石畳の上を走る。
大きな水たまりが月を映し、綱吉の革靴がそこを踏んで水面が揺れた。
深夜の街に人影はなく、靴の底が床を叩く音がやけに大きく響いた。
行く宛がある訳ではない。けれど綱吉は出来るだけ本部から遠くへと走る。
骸が来る。
この直感は外れない。
きっと今にも本部のドアを潜るだろう。
綱吉は走った。出来るだけ遠くに。入り組んだ街の裏路地を。
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やがて息が切れて額に汗が滲んだ頃、綱吉は足を止めた。      ★

忙しなく息を吐き出し壁に寄りかかるとジャケットがじんわりと水を含んだ。構わずに見上げた空は濃い藍色だった。    ★
「Buona sera、vongole」
柔らかな声にハッと顔を向けると、いつの間にかそこには骸がいた。色の違う瞳は綱吉だけを映し、限りなく優しい色に染まる。夜の色に藍色の長い髪が揺れる。綱吉は見開いた目に光を弾かせ、一気に駆け出そうとしたが、骸の長い腕が綱吉の腰に絡まり安易に阻まれてしまう。
「おっと」
大した事もない様に骸は言って、綱吉を壁に緩く押し付けた。      ★
「どこに行こうと無駄ですよ」
骸はくすくす笑って汗ばんだ綱吉の頬を指でなぞった。そしてその指を自身の唇に押し当てると柔らかく目を細め笑い顔を寄せると、綱吉の耳元で囁いた。
「君の体の中にはねぇ、僕専用のICチップが入っているのですよ」
骸の唇を辿っていた指先が綱吉の喉をとんと緩く突いた。綱吉の喉の皮膚がひくんと引き攣る。
「どこに居ても分かります…ここに入っているかな」
とん、と指の先が背骨を突く。綱吉はぎゅうと瞼を閉じた。
「それとも、ここかな」
とん、と左胸、心臓の上に据えられた。    ★
ひくと体を引き攣らせた綱吉の顎を取ると、骸はくすと笑い、緩く頬摺りをした。
「いやらしい顔…」
細められた綱吉の瞳は濡れた熱を乗せ、溢れた吐息は湿っていた。
綱吉はとうとう骸の首に腕を回し、自ら骸に頬を寄せ呟いた。

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『捕まえて』   ★