性描写アリ
「まだ性懲りもなく探してるんですか?」
いつも通り凪が寝た後骸の部屋で求人誌を開いていると、骸が呆れたように言って隣に座った。
ふんわりと風が起きて骸の体温にどきりとする。それを誤魔化すように綱吉はむう、と口を尖らせた。
「何だよ性懲りもなくって。明日面接行くし」
得意気に言ってみせるが骸の呆れたような溜息にますます口を尖らせる。
「そんなに急いでどうするつもりですか?」
「急がないよりマシだろ。急いでるのに呆れられるとか意味分かんないんだけど!」
「…別に呆れてる訳ではないですけど」
たっぷり間を置いてから骸が呟くように言う。骸の目線は手元にばかり注がれていて、その先の指は手持ち無沙汰に求人誌を捲る。
綱吉は緩やかに目を見張る。
まさかなぁ、なんて思うけど、直接訊くのは心臓が破裂してしまいそうになる。仕事を見つけたらこの家を出て行く訳で、もしかして引き止めてくれてるのかな、なんて。
元々骸には何の興味もない求人誌なので、すぐに飽きたように床に手を落とす。その先に綱吉の手があって、急に落ちて来た体温に綱吉は思わず手を引っ込めて、骸もはっとして手を引っ込めた。
「…」
「…」
手が触れたくらい何なんだ、と思うようにするけど、そう思えば思うほどかえって耳まで熱くなっていく。
不意に落ちてきた影に顔を上げればすぐそこに骸の真面目な顔があって、綱吉は考える前に瞼を閉じた。
柔らかく触れて離れたキスに、胸が震える。
もっとしたくてそっと顔を寄せるとまた短いキスが落ちる。離れるのを惜しむように短いキスが繰り返されて、やがて、戯れに始まったキスは深く長くなっていき、とうとう無視出来ない熱を帯びた。
泣き出しそうな気持ちになって堪え切れなくて骸の首に腕を回し、顔を見られないように抱き付いた。きっと今、泣き出しそうな顔をしているだろうから。抱き締め返されれば意味も分からず目元が滲む。喉を震わせるように息を飲み、綱吉は赤い頬のまま呟くように言った。
「むくろ…したい…」
言えば抱き締められたまま床に倒されて、骸の少し長い髪が赤い頬を擽った。ちゅう、と優しく首筋にキスをされただけで体が震えるようだった。
骸を受け入れることに、歓び、震える。
「あ…っ」
指で慣らされている間は嬉しくも、もどかしく焦らされている気持ちにさえなってしまう。だから、ようやく骸を迎え入れたときには思った以上に高い声が零れた。
恥ずかしいなんて思う隙間もないほど、体も心も骸でいっぱいになる。
「むくろ…っあっ」
骸が体の中を往復する。重ね合った皮膚が酷い熱を持って焼けてしまいそう。
溺れる呼吸の中で少し乾き始めた口内に骸の舌が入り込んできて、絡め合っていれば唾液が混ざり合いまた濡れていく。
溶け切った瞳が瞼の裏でじんわりと滲んだとき、繋がったまま不意に抱き起こされて思わず目を開く。
「ん…っ」
向かい合う格好になったら自分の重みでぐ、ぐ、と繋がりが深くなって思わず濡れた声を吐いた。ゆるゆると開いた視界の先で骸が艶に満ちて眉根を寄せていて、綱吉は思わず呼吸を震わせた。
「…背中、痛くないですか…?」
吐息混じりに囁かれてまた呼吸を振るわせる。優しく撫でられる背中に涙が落ちそう。
「へいき…」
潤んだ瞳を誤魔化してちゅうとピアスの付いた骸の耳にキスをすると、骸が淡い吐息を漏らした。綱吉は濡れた瞳を薄く開く。
「…骸、耳…きもちいい…?」
返事を待たずに赤い耳の縁を舌で辿る。汗で濡れた髪を舐め、ひんやりとしたピアスまで口に含むと、骸は濡れた呼吸を漏らし綱吉を抱き竦めた。
「君の…せいですよ…」
綱吉は濡れた瞳を緩やかに見開き、骸の背中から見た耳元を思い出した。寒くて、朝日のせいで、赤くなっていると思ったけれど。
綱吉は見開いた瞳を揺らした。
濡れた唇を震わせて骸の耳朶を柔らかく食み、そっと頬に顔を寄せる。
「…うれしい」
「…ん」
くちゅ、と濡れた音を鳴らして腰を落とすと、骸が切ない声を漏らした。
ぎこちなく腰を動かし骸の耳を愛しさを込めて舐め、食む。骸が喉を震わせて熱い呼吸を繰り返す。綱吉はその呼吸を感じて泣き出しそうに目を細めた。苦しげに爪先が毛布を押し遣る。
「オレ…変だ…」
はあはあと浅く小さい呼吸を繰り返しながら綱吉はますます瞳を潤ませた。骸はそっと睫毛を持ち上げた。
「…骸が気持ち良いと…オレが気持ち良くなる…」
頬に擦り寄ると、抱き締められたまま体を倒された。中が擦れて綱吉は体を震わせ「あ、」と短く声を上げた。
骸の唇が確かな重さを持って首筋にキスをした。
「……それは、僕も同じですよ」
思ってもなかった言葉に綱吉は目を見開いたけど、足を持ち上げられて中を擦り上げられて、すぐに何も考えられなくなった。
「ああ…っ骸…っむくろぉ…!」
骸が中に入り込む度、出ていく度に意識がどんどん白んでいく。体の中を往復する骸の熱は、次第に速度を増していった。
「むくろ…っ」
ぎゅうとしがみ付いて汗ばむ背に手を回す。骸が欲しい。もっと、欲しい。昂る気持ちは止められなかった。
「あ…っああ…っ中で…出して…っ」
いくらか躊躇いを乗せた骸に綱吉は懇願するようにしがみ付く。
「中で出して…っあ…っ!」
骸の熱が体の中で溢れる。脈を打って吐き出される熱に体が震える。綱吉は無意識に腰を反らせ、そして、吐精した。
「あ…ああっ」
どちらの鼓動なのか分からなくなるくらいひとつになった気がして涙が頬を滑った。
骸がその涙にキスをくれたから、また涙が零れた。
服も着ないで床に体を置いてふと見上げた天窓の外で、白い雪がちらちらと夜の闇に落ちていた。
綱吉はいつの間にか天窓の淵に薄く積もった雪をぼんやりとした目で見ていた。
「…雪、嫌いなんですか?」
「え!?」
まったく予想もしていなかった言葉に目を丸くして反射的に骸を見ると、思った以上に深刻な顔をした骸が体ごと横を向いて綱吉を見詰めていた。
綱吉は瞠目して思わず呼吸を止めた。
「…初めてだよ、言い当てられたの…」
驚きを隠せず掠れたような声で言って綱吉は瞳を揺らした。
「何で分かったの…?」
ハロゲンヒーターの橙色が骸の向こうにあって、ほんの少しだけ骸の顔を陰らせる。骸は少し考えるようにしてから結局首を捻った。
「何となく…辛そうに見えて」
その言葉だけで目の前が滲んでしまった。綱吉は誤魔化すようにまた天窓を見上げた。
白い雪。思い出はたったひとつだけ。
「…オレ、雪の日に捨てられたんだよね」
他人事のようにぽつりと言うと、骸が緩やかに目を見張るのが分かった。
「3歳くらい…だったと思う。それより前のことなんて少しも覚えてないんだけど、その日のことだけは鮮明に覚えてる。雪が、凄く降ってて、たくさん積もってて、母親が珍しく機嫌が良くて遊びに行こうかって言ってくれたんだ。母親も雪が好きだから機嫌がいいんだと思って、毎日雪ならいいのにって思った」
傘も持たずに外に出て、降り積もる雪が眩しかった。
「結構な時間車に乗ってて、いつの間にか寝ちゃってて、起こされた時は目の前一面が雪だった」
あれはどこだったんだろう、と綱吉は他人事のように呟く。
「山の中だったみたい。雪がまだたくさん降ってて…」
母親が機嫌良く笑っている赤い唇を覚えてる。
「母親はオレを車から降ろした後、すぐ戻ってくるからここを動かないで待っててって言ったんだ」
何の疑いも持たずに笑顔で頷くと、母親に初めて良い子って言われた。
「…最初は、雪が珍しくて一人で遊んでたけど、雪がタイヤの跡も消して…陽が傾いてきて、心細くなった」
真っ白い世界。上を向けばただただ薄い灰色の雲が広がっていて、止め処なく雪を落とす。車も一台も通らない、生き物の気配すらなくて、世界に一人きりのようだった。
「陽が完全に落ちて寒くて動けなくなって、子供ながらに死んじゃうのかなって思った。でも本当に偶然車が通り掛って、オレを見つけてくれたんだ。その人は見た目が凄く怖かったんだけど、オレのこと連れて帰ってくれた。その人はたまたま施設の園長の息子さんで、オレはそのままその施設で育ったんだ」
「君、殺しても死なないんじゃないですか?」
綱吉はぱちりと瞬きをしてから見る見るうちに目を見開いていった。
「へ!?」
我に返るように骸を見遣れば、骸はいつも通り瞼を半分落とすように綱吉を見ていて、綱吉は目を剥いた。
「お前さあ!もっとオブラートに包むように言えないの!?」
「君に対しては言えないみたいです」
「なあ!?」
目が零れそうなほど瞼を持ち上げている綱吉に、骸は「だってそうでしょう」と当たり前のように言う。
「山奥で偶然人に見つけられるとか、たまたま園長の息子だったとか、そんな都合のいい話し普通ありませんよ。しかもこの間だって、君はたまたま僕に止められて命拾いした。この先も例え事故に遭っても無傷で済みそうですよね」
綱吉はぱちぱちと瞬きをしてから、あまりにもいつも通りの骸に思わず吹き出した。
「そう、かもな」
確かにその通りだと思ってしまえば可笑しくて堪らなくなって、綱吉は肩を震わせてくすくす笑う。
そんな綱吉を抱き込んだかと思った骸の腕はすぐにずるずると綱吉を抱き寄せて、すっぽりと腕の中に納めてしまう。溶けて混ざるような温度に綱吉はどきりと心臓を跳ね上げた。
骸の体温に酷く安心する。
そっと擦り寄ると、髪を柔らかく撫でられて胸の奥が痛くなった。
オレの方が年上なんだけどなぁときゅうと締め付けられた心を誤魔化すように思う。それでも体温を求めてまた擦り寄った。
「……オレさ、…」
そう言った切り言葉を探して躊躇う綱吉の頭をぽんぽんと撫でて、骸は綱吉の髪に鼻先を埋めた。
「今じゃなくてもいいですよ」
目を見開いた綱吉は瞼を持ち上げて骸を見上げるが、抱き締められているから生憎その顔を見ることは出来なかった。
「話せる時に話してください。別に、今日明日で終わる関係でもないでしょう」
じんわりと滲んでいく視界。温かい体温。
「…うん」
頷いて閉じた瞼の縁から涙が落ちた。
涙を落としているのに骸は気づいているのかもしれない。柔らかく撫でてくる手が慰めてくれているようでまた泣けた。
でももう骸にだったらどんな姿を見られてもいいと思った。
出て来なかった言葉もいつか近い内に必ず、骸に話そうと思った。
ぼんやりしていると雪の積もる音も聞こえてきそうだった。
骸に抱き締められていると眠ってしまうのが勿体ないと思ってしまう。その事実に行き当たって、綱吉は一人じわと頬を赤くした。
骸はどうやらもう眠っているようだった。寝息が子守唄みたいに安心する。
うとうととしかけてふとまだストーブが点いているのに気付いた。
(…消した方がいいかな)
骸を起こさないように気を付けながらそっと体を起こすと、不意にぎゅっと抱き締められまた元の位置に戻されてしまった。
「ちょ、ちょっと骸…!」
恥ずかしさもあって腕を抜け出そうとしてみたが、かえってきつく抱き締められてしまう。
「む、むくろ…」
「駄目です」
骸は目を閉じたまま憮然と言い放つ。
「ストーブ、消そうと思っただけなんだけど…」
頬を赤くしてもごもごと言うが、骸は目を閉じたまま憮然と言う。
「そんなこと言って、どこかに行くつもりでしょう」
「な…っ寝惚けてるのか…!?」
ぎゅうぎゅうと抱き締めて綱吉の髪に顔を埋めた骸はまた穏やかな寝息を立てている。
「…」
何だか今、物凄く恥ずかしいことを言われた気がする。
一人でどきどきしているなんてどうしてくれるんだ。明日目が覚めたら言ってやろうかとも思ったけど、もし骸が言ったことを覚えていたら、それはそれで恥ずかしい。
言いたいけど言いたくない。悪いことじゃないんだけど、ただ恥ずかしい。
でも何だか幸せ。
一人でそう思っているのが少し悔しい綱吉は、骸の腕の中でむう、と口を尖らせた。
それでも幸せ。しあわせ。どうしよう。
しんしんと降り積もる雪。
見ても頭が重くなったり苦しくなったりしなかった。骸が、隣にいるだけで。
何て単純なのだろうと思う。でもそれでいいとも思う。好きな人が出来て、幸せで、そうしたらずっと苦しんでいたことがぜんぶ小さくなっていく。
単純過ぎて、笑っちゃう。
綱吉は一人くす、と笑い、潤む瞳をそっと細めて微笑むと、積雪の音に消えそうな程の声で呟いた。
「すき」
骸が起きている時に言えたらいいのに。
2011.03.10
施設長はノーノ、息子はザンザス、職員はヴァリア一がいいと思いますw凄い学園だ。
ザンザスは強面なのに子供に人気があったらいいです。せんせー!って言って群がられるw