性描写アリ
ほんのりスペジョ要素アリなのでご注意!


綱吉はとても驚いた。

それはもう目と口を限界まで開いてしまうほど。


骸の家にただいまと帰ってくるようになって1週間経った時、骸の両親が新婚旅行から帰って来た。
写真で見た限りまったく気付かなかったのだけれど、ご両親は男だったのだ。
二人共。

そこでようやく骸があんなにもあっさりと大丈夫と言ったのに合点がいった。
骸が母親と言っていたのは便宜上そう言っていただけとのことだが、いわゆる「母親」にその事を尋ねたらベッドの上で云々言い出して、骸に止められていた。

「父親」は骸とよく似ていた。房が。
凪とも似ていた。房が。
瓜二つ、もとい房三つ。
血を分けていないのが逆に不思議だったが、房族曰く、全然似ていないらしい。他人から見ると見分けが付かないのだが、本人達はまったく別物と捉えているらしい。
「母親」は金髪で小柄だ。だから写真の中で見るとボーイッシュな女性に見えなくもない。顔の造りも大層美人なのもある。が、一緒にいると性格は酷く男前だった。どちらかと言うと「父親」の方が甲斐甲斐しい。

そして骸の言う通りラブラブ過ぎてなんかもうごめんなさいと無意味に謝りたくなる衝動に駆られた。

家族が揃った家は更に明るく騒がしくて、酷く静かな一人の家ではもう暮らせないだろうと、そんな事を思った。

両親はまたしばらくして、今度は仕事で海外に旅立った。
その際みんなで新婚旅行に行こうと言われ、連れて行かれそうになったのだが綱吉がパスポートを持っていなかったのと、骸が丁重にお断りして、結局凪はついて行く事になった。

空港まで見送りに行った時、凪は小さなキャリーケースを持ちながら「いっぱいイチャイチャして大丈夫だよ」と耳打ちしてきたので白目を剥きそうになった。


そして骸はと言うと、最近時間があると物件を探すようになっていた。


今日も床に座り込んで携帯で物件を見ているので、綱吉はソファに寝転んで骸の肩越しに画面を覗き込んだ。
綱吉に気付いているのかいないのか、骸は相手をしてくれないので、顎を骸の肩の上に置いた。

「いい物件あったか?」

骸はぴくんと体を動かして、些か恨めしそうに綱吉を見た。

「……耳元は止めなさい」

綱吉がにやっと笑うと骸は瞼を半分落とし、無防備な綱吉の頬を抓った。

「ひひゃひ!」
「わざとか!」

綱吉は痛いのを覚悟の上で、骸の手を払って体を起こした。

「わざとだよー!」
「くっそ!」

骸はムキになって携帯を放り、綱吉に馬乗りになる。華奢な綱吉は簡単にねじ伏せられソファに押さえつけられた。

「ぐふ」

骸は綱吉の上に腰を下ろして足を組んだ。

「ちょ、おも」

ぐえ、と綱吉の潰れる声も無視して骸は余裕な仕草で携帯を拾い上げた。
綱吉は何度か身じろいで、潰されながらも内蔵の座りのいい場所を見つけ出すと一息ついた。重いのは重いままだけれど。

骸は淡々と携帯を見詰めている。
綱吉は静かに瞬きをしてから、少し寂しそうに眉を下げた。

「本当に家を出るのか…?」

骸は携帯を見ていた顔のままちらと綱吉を見下ろした。

「学生の内は居ますよ」

再び視線を戻した骸の横顔を、溜息のように見遣る。

「……お父さんとお母さんは、居て欲しそうだったけど」

そうですねぇと骸は言うも、視線は画面を見たままだった。綱吉はますます眉を下げる。

「凪ちゃんはオレと骸が一緒に住むなら、両親について行くって言ってたけど、そうしたら転校が多くなると思うんだよ…しかも国を跨いで」

はぁ、と溜息混じりに視線を天井に向けると、今度は骸が綱吉を見遣った。

「せめて高校までは、日本の方がいいんじゃないかなぁ…お友達の京子ちゃんとハルちゃんとさ、一緒の学校に通って…」

最早独り言のトーンでぶつぶつと言う綱吉に、骸は緩く眉を寄せる。

「お父さんもお母さんも、帰って来れる日本の家があった方が」
「僕は君の為に言っている部分もあるんですけどねぇ」
「へ!?」

驚いて視線を骸に戻すと、骸はようやく綱吉から降りてソファに座り、瞼を半分落として綱吉を見ていた。

「僕の家族は特殊ですからね。まぁ君はもう馴染んでいるようですが…結婚前から家族と同居出来るなんて君は本当に凄いですよね」

すごいすごい、と馬鹿にしくさった様子で言うので、いつもならこのやろう!と食ってかかるところだが、それよりも綱吉は口をだらしなく開きっぱなしで固まってしまった。頬は熱くなって、呆然とし過ぎてよだれが垂れそうだ。

「け…え、けっこ…ん」

骸が相も変わらず瞼を落とした顔で綱吉を見やるので、綱吉は思わずびくんと過剰に反応してしまった。

「あ!風呂だ、風呂!風呂入ってくる…!」

それが恥ずかしくて誤魔化そうと立ち上がるが、動きがぎこちなくて不審だ。骸がそのままの顔でじぃ、と見てくるのでますます恥ずかしくなる。
慌ててリビングを出て二階に上がる。階段で躓いて転んで「いてぇ!」と叫んだ綱吉の姿は見えないはずだけど、骸は目で追うようにその方向を見ていた。


綱吉は脱衣所で服を乱暴に脱ぎながら、赤い頬を摩った。

まさか骸の口から結婚なんて言葉が出てくるなんて。

(いや、でも…男同士だし結婚出来ないよな…)

うんうんと綱吉は鼓動を抑えるように自分に言い聞かせる。

バスルームに入ってお湯を出しながらバスタブの中に入る。
ばしゃばしゃと強く飛沫を上げる水分は瞬く間にバスタブを埋めていく。
綱吉は体育座りをしながらはぁ、と深い溜息を落とした。

両親を見ていると自分もあんな風に骸と過ごせたら、とどこかで思っていたのは事実だった。
けれど男同士の恋愛という思いも寄らなかった現実と、もしかしたらここにはいなかったかもしれないという事実がどうしてか引っ掛ってしまう。
そして凪も兄のように慕ってくれて、両親もまるで本当の家族のように接してくれる。

こんなに幸せで、いいのだろうかと、気後れしてしまう。

綱吉はきゅっと蛇口を締めた。

はぁ、と湯気の中でもう一度溜息を吐いて、肩まで浸かる。
静寂が訪れてちゃぽんと小さな音が鳴った時、バスルームの扉がいっそ乱暴なほど勢い良く開いた。
綱吉はびくんと体を跳ね上げた。

「うわ、うわあああ!むくろ…!?」

扉を開けたのはもちろん骸で、骸以外の知らない誰かだったら大問題なのだが、それでも驚きを禁じえない。
骸は見ている方が恥ずかしくなるほど堂々と裸体を晒していた。

「ちょ、え、おま」
「何ですか」
「いや、な、何ですかじゃないだろ…!」
「何でですか」
「一文字増やしてどうにかなると思うなよ…!」

骸は呆れたようにバスタブの淵に腰を掛けると、入浴剤の蓋を開けた。
鍛えられたしなやかな体が伸びている。筋肉質な太腿の影から局部が見えてしまいそうで、綱吉は思わず体を屈めて口元を湯に沈めた。
視線を感じて視線だけを持ち上げると骸がまたじぃ、と綱吉を見ていたのでびくんと睫毛を引き攣らせた。

「な、なに見てんだよ…」
「別に。今更まだ恥ずかしがっているのかと思って」
「そりゃあ…恥ずかしい、よ…」

綱吉は些か気まずそうに視線をふよふよと漂わせた。骸は気にもせずにざばんとバスタブに体を沈めた。波打った水面に少し溺れそうになる。

「げほ…っ鼻に入った」
「残念ですね」
「なんだよ残念って!」

プンプン怒り始めた綱吉を、骸はバスタブに肘を突いてじぃと見ているのでう、と言葉を詰まらせた。
骸がこうして見てくる時は、大体何か言いたい事があるのだ。

向かい合って浸かっている二人の間に湯気が揺れる。

「初めてですね、一緒に入るの」
「う………」

綱吉はじわじわと体を抱えた。明るい所で見られるのは恥ずかしい。
なのに

「僕は君を全部見てるので今更でしょう」
「う、いや、うん、そうなんだけど、お、おまえさ」

そんなハッキリ言わなくていいじゃん!という言葉は口をお湯に沈めてしまったので音にはならなかった。綱吉が苦し紛れにむう、と睨むと、骸が指で水鉄砲をして、まんまと綱吉の顔面に命中した。ぐ、と綱吉は声を詰まらせる。

「…そういうお前は、どうなんだよ。なんか…言いたい事あるだろ」

言えば骸はむと口を噤む。
けれどすぐに諦めたように溜息を吐いた。

「捨てられていた子猫を拾ったような気分です」
「へ!?こねこ…オレの事!?」

骸はそれこそが肯定のようにじろと綱吉を見遣って腕を引いた。
指先の抵抗も虚しく、綱吉はバスタブの底に尻をずるずるとぶつけながらすっぽりと骸の腕の中に収まった。
後ろを向かされてぎゅうと抱き込まれてしまったので、骸の顔は見えない。
ただただ背中に密着する骸の肌に、胸の鼓動は収まらない。

「放っておくと、どこかに行ってしまいそうなんですよねぇ…君」
「えぇ!」

ぽつんと言った骸に綱吉は驚きを隠せなかった。
骸はこの手の冗談は言わない。それなら本心なのだろう。

「……」

綱吉は言葉を探し過ぎて思わず黙る。

骸以外に、帰る場所などないと言うのに。

「なぜ黙っているのですか?どこかに行くつもりなんですか?」

声が平坦な時は大体怒っている。
綱吉は探せば探すほど言葉が見つからなくなっていく。何を言っても嘘に聞こえそうだった。

骸の大きな掌が、平たい胸を滑る。

かぷ、と首の付け根を噛まれて体の奥が震えた。

綱吉の足の間に骸の手が伸びる。

やわやわと握られているだけなのに形を変え始めてしまったので、綱吉は恥ずかしさを誤魔化すように振り返って骸の首に腕を回した。
骸はすぐに綱吉の唇を捕らえてキスをした。
汗か湯か判別の付かない液体が唇に伝う。

骸の唇が、今度は鎖骨を噛んだ。
たったそれだけなのに、綱吉はふあ、と悩ましく吐息を漏らした。

骸の指が尻の割れ目を伝って、慣れた手付きで指を体の中に埋める。
綱吉は骸の頭を抱え込んで、強く頬を寄せた。

「ねぇ、君の命は僕が助けたんだ。だから、君は僕の物です。分かってます?」

痕を残すくらい強く首を吸われて、綱吉はふると揺れる。

「……もともと、たすける気じゃ、なかったくせに……」

負け惜しみのように口にすれば、骸はゆったりと瞼を持ち上げて、赤と青の瞳だけで綱吉を見遣る。

「それでも、僕のものだ」

強い言葉に目眩がした。

骸がぐい、と強引に体の中に入る。
骸に抱かれる事に慣れているそこは、躊躇いながらも受け入れてしまう。
ずるずるずると粘膜を擦りながら深く中に入っていく。

「あ…っぅ」

一番奥まで到達した時、綱吉は耐えていた声を思わず零した。

「…誰もいないのだから、声を我慢しなくていいんですよ…」

綱吉の腰を掴んで下に押し込みながら骸が言う。先端が更に奥へと入り込んで綱吉は「あ!」と大きな声を出してしまった。

「骸…むくろ…!」

一度声を上げてしまえば後はどうしようもなく骸が欲しくなる。
欲しくて体を揺らすと水面がばしゃばしゃと大袈裟に動くけど、水に浮くせいで思うように動けなくてもどかしい。

「あ…っ」

そこを一気に体を抜かれてしまったので、惜しむ声を漏らしてしまう。

けれどもそれは骸も同じだったようで、綱吉に後ろを向かせると水面から体を取り出し、再び中に入り込んだ。

「んあ!」

水の中とは違う、確かに擦れる感触に綱吉の体は悦びに震えた。
いつの間にかすっかり勃ち上がったそれが痛いほどで、綱吉は無意識に自分で握り、擦った。
骸は目敏く気付き、綱吉の手ごと掴んで擦る。
中と前の刺激に目が眩む。

骸がぎゅと柔く項に歯を立てたので、綱吉は震えてから堪らず吐精した。
脈を打って吐き出す精液がバスタブの壁を濡らして、緩く流れていく。

「あ…あぁ…」

骸はそれを見て悩ましく眉根を寄せると、綱吉の中で精液を吐き出した。

綱吉はまたその刺激でぴくんぴくんと体を引き攣らせた。

「大丈夫ですか?」

綱吉はくったりしている。気付けば心臓はバクバクと激しく鼓動を刻んでいて、頬を真っ赤に染めた綱吉は骸の腕の中にころんと落ちる。

「のぼせましたか」

呆れたように言って、骸はバスタブの栓を抜いた。湯が静かに渦巻いて排水口に吸い込まれていく。

素肌が空気に晒されていけば、体も心も落ち着いてきた。

耳元でもやしとか惰弱とか言われていて、むかっとする元気が出てきたので眉を寄せて顔を上げた。

そうしたら骸の顔がすぐそこにあった。
いつも見惚れる赤い色と青い色の瞳。

綱吉は分からないほどだけど目を見張る。

骸はまた襟足が伸びた。
育ち盛りは過ぎているけど、まだ背も伸びそう。
しっかりとした腕とか手とか、年を重ねればもっと、頼もしいものになるだろう。
自分はと言えば、人より優れたものもなく、年老いていくだけなのだろうと思う。

拾われた命。恵まれ過ぎた環境。
少し困ったところはあるけれど、すてきな人。
自分なんかが、骸の傍に居ていいのだろうかと、気後れしてしまう。

それでも、骸は容赦なく真剣に見詰めてくる。

「返事を聞かせて。でも君は、僕以外に行くあてなんかないんだ」

骸は綱吉に言い含めるように強く言う。

「綱吉」

名前を呼ばれるとどうしようもなく嬉しい。

ゆるゆると視界が滲んで、あとは止める間もなく涙が溢れた。
綱吉はとうとう顔をくしゃりと歪めた。骸は驚いて目を見張る。

「……オレ、しあわせになっても、いいのかな…」

えぐ、と綱吉が声を引き攣らせる。
驚いていた骸は瞳を揺らして少し笑ってから、いつもと同じように呆れたように瞼を半分落とした。

「なんだ。そんな事か」

綱吉はがぁんと目を見開いた。

「そ、そんな事じゃないだろ…!」
「そんな事ですよ」

骸はあっさりと一蹴する。

「どうして君に幸せになる権利がないと思うんですか?」

今度は違う意味で目を見開いた綱吉の頬を、骸は指で擦る。

「何も僕が綱吉を幸せにして「あげている」訳ではないでしょう」

骸はハッキリそう言ってから、ほんの少しだけ、口篭る。

「僕だって、綱吉の傍に居たいんです」

ぷいと視線を逸した骸に、綱吉は大きく瞬きをしてから笑った。
そして広い胸に顔を埋める。

「……しょうがないから、傍に居てやるよ」

それはどうも、という言葉と一緒に頬を抓られた。

「いひゃい!」
「本当は早く籍を入れて既成事実を作ってしまいたいんですけどねぇ…」

抓られた頬を摩りながら、ぶつぶつと言う骸を見上げる。

「でもさ、男同士なんだし籍を入れるのは無理なんじゃないのか?」

骸は緩く視線を下げて綱吉を視界に入れる。

「僕の国籍は日本ではないんですよ」
「へ?え、あ…!」

綱吉は両親の顔を思い浮かべる。

「君の国籍も移せば…色々条件はありますし、時間はかかると思いますが」

骸は溜息混じりに言って綱吉の頭をぽんぽんと叩いた。

「今日明日で終わる関係ではないですからね」

綱吉の心の奥がゆっくりと熱を帯びるから、恥ずかしくて骸の胸に顔を埋める。
抱き締めてくる腕のちからは強い。
綱吉は嬉しくなって身を任せ、瞼を閉じた。

「骸、ただいま」

言うと骸はぱちんと瞬きをしたけど、すぐに大きな手で綱吉の背中を撫でた。

「おかえり、綱吉」

綱吉は惜しみなく幸せを噛み締める。


2013.03.02
綱吉の帰る場所が骸もいいなぁと思います!
ニコニさんに捧げます!(´ε` *)