春は、すぐそこ!

〜後編〜

「結局、仲直りしないまま出て来てしまいました……」

骸は空港で一人、深いため息をついた。

昨夜は、綱吉を泣かせてしまった。
綱吉は、とても純粋な気持ちで言ってくれただけだろうに。

だが、ずっと片想いをしていた想い人に、兄弟でよかったと言われて冷静ではいられなかった。
小さな頃から骸は、綱吉のまっすぐな心根と大らかさ、陽だまりのような笑顔に惹かれていた。
けれど、綱吉は『弟』。自分を『兄』として慕ってくれている。

自分の激情を、押し付けるわけにはいかなかった。

好きだからこそ、愛しているからこそ、大切だからこそ、綱吉の意思を無視できない。
だからこそ兄として振る舞ってきたが、想いは募るばかり。

いつ、抑えが効かなくなるか分からなかった。

留学は、いい機会だと骸は考えていた。
自分の頭を冷やし、これからのふたりの未来を考えるための時間を取ることができる、と。

その前日に喧嘩とは、タイミングが悪い。

「ちゃんと、謝らなければなりませんね」

でも、今は時間が迫っている。搭乗の手続きを取ろうと、スーツケースを引きずり歩き出そうとした時だった。

「ばかむくろ!」

「……え?」

目の前には、学校にいるはずの愛しい人。
大きなはちみつ色の瞳は涙を溜め、今にも零れ落ちそうだった。

(幻覚? 綱吉くんのこと考えすぎて、幻でも見てるんでしょうか)

そう考えた骸だったが、胸をこぶしで叩かれて、その痛みに思わずむせる。

「ばかばかばかばか! なんで黙って行っちゃうんだよ?」

ぽかぽかぽかぽかと連続で叩かれて、骸は答えたくても答えられない。

「ごめんね、むくろさん。好きになってごめんね……」

(な、今、なんて言いました?)

骸は、綱吉の両手首を掴んで、叩くのを止めさせた。

「綱吉くん、今なんて言いました?!」

「ごめんね、オレきっと知らないうちになにか怒らせることしてたんだよね。ごめんねえ……」

綱吉は、最後にはうわあんと泣き出してしまった。

(ち、違う! 謝らせたいわけでも、泣かせたいわけでもない!)

大切で、一番大事にしたいのに。どうして、こうなってしまうのか。

「つ、綱吉くん、泣かないでください……。ほら、目が落ちちゃいます」

ハンカチを取り出し涙をぬぐうが、綱吉は一向に泣き止む気配がなかった。

「だって、オレがダメツナだから……、だから骸さん、カナダ行っちゃうんでしょお……」

やだよお、一緒にいたいよお、と綱吉はさらに泣き出した。

「……さっさと本題に入りなよ」

ごつん、と綱吉の頭を殴り、いらいらと言い放つのは雲雀恭弥。

「雲雀くん? なんでここに……」

「綱吉、泣きに来たんじゃないでしょ」

綱吉は、雲雀からの突然の衝撃でぴたりと泣き止んでいた。

「綱吉くん、痛くないですか」

骸は、綱吉の頭を撫でさすった。

「……った」

「え?」

「すごく、痛かった」

「ですよね。雲雀くん、あやまりな……」

「骸さんが、行っちゃうって聞いて、すごく胸が痛かった。ぎゅうって締め付けられて、息が出来ないくらい苦しかった」

綱吉は、骸をまっすぐ見ていた。
骸しか、見ていなかった。

「昨日、兄弟でよかったって言ったのは、オレの独占欲なんだ。
だって、兄弟だったら一生離れなくて済むから。骸さんが、もし誰かとその、結婚、とかしても兄弟には変わりないでしょ? 
ずっと、一緒にいても不思議じゃないでしょ?」

「……そういう、意味だったんですか」

こくん、と頷いて、綱吉は言葉を続ける。

「だから、兄弟でなければよかったって骸さんに言われて、すごくショックだった。
一緒にいちゃいけないって言われたみたいで、すごく悲しかった」

「つな、よし……」

(これは、期待してもいいんだろうか。それとも、兄を取られたくない弟の独占欲?)

「オレ、骸さんが好き。兄弟とか、そんなの関係なく、大好き」

(うれしいうれしいうれしい、でも、)

「……信じられない!」

「っほ、ほんとだよ! オレ、骸さんが好きなんだってば!」

せっかく涙が止まった綱吉だが、また泣きそうに瞳を潤ませる。

「あ、いえ、違うんです。いや、違わないのか……」

「訳分かんないよ。さっさとしな」

雲雀が、イライラした様子で骸をせっついた。

「うれしいです、すごく。でも、今この時に言わなくてもいいでしょう? 
僕、これからカナダに行くんですよ? 別れがたくなるじゃないですか」

「だから今なんだろー! カナダに行っちゃったら、もう会えなくなるじゃないか! ばかむくろ! すき、だいすき!」

「ああ、もう!」

骸はぐい、と目の前にある細い手を引き寄せた。
華奢な身体は、呆気なく骸の腕の中に納まった。

「む、むくろさん……?」

「もう、黙って。綱吉くん」

耳元で囁き、さらに強く綱吉を抱きしめる。

「僕、ずっと我慢してたんですよ。なのに、きみはそんなことなどお構いなしに、僕の中に入ってきた。
僕、けっこう重いですよ? 独占欲も、半端ない」

「う、うん……?」

綱吉は、言われている言葉の意味がよく理解できなかった。
でも、骸が大切なことを言おうとしているのだけは、分かる。

「でも、もう遅い。もう、逃がしてあげられない。……綱吉くん、愛しています」

「……え?」

最後の言葉だけは、すんなりと綱吉の中に入って染み渡った。

「愛しています。……もう、僕の、ものだ」

骸は愛おしげに綱吉の髪を撫で、こめかみの辺りにキスを落とす。

耳元にくちびるを寄せ、囁いた。

「続きは帰ってきてから、ね。覚悟しておいてください」

「え?!」

綱吉はぎょっとして聞き返すが、骸は悪戯が成功したような表情で微笑むだけ。

「帰ってきてからって……、もう帰ってこないんでしょ?!」

「「はあ?」」

はからずも、骸と雲雀のタイミングがぴったり合った。

「きみ、帰ってこないつもりだったの? それはそれで、大歓迎だけど」

「馬鹿言わないでください、帰ってきますよ」

「だって、留学って……」

「はい。だから、二週間の短期留学です。でも、今となってはどうでもいいんですよね」

綱吉くんが好きで、このままだと暴走しそうで。
僕、我慢の限界だったので、頭を冷やすつもりで留学希望出したんですもん。

あっけらかんと言い放つ骸に、綱吉はがっくりと肩を落とした。

「オ、オレ、もう二度と会えないかもって思ったから、告白したのに……」

「そうだったんですか。でも、ちゃんと帰ってきますよ」

「ほんと? 嘘じゃないよね?」

「はい、本当です。ちゃんと帰ってきますよ、きみの元に」

だから待っていてください、と骸は続け、綱吉の頬を撫でる。

「うん、待ってる……」

見つめあうふたりに、雲雀が冷たく声をかけた。

「いいかげん行かないと、飛行機乗れなくなるよ」

「あっ、ごめん。骸さん、いってらっしゃい」

「はい、いってきます。……電話、しますね」

「うん」

「雲雀くん、綱吉くんをお願いしますね。きみのバイクで来たんでしょう」

「……家までは、ちゃんと送って行くよ」

「帰るよ、綱吉」

おそらく骸が乗っているだろう飛行機が飛び立つのをじっと見る綱吉に、雲雀は声をかけた。

「雲雀さん、知ってたんですよね。骸さんが帰って来ること。どうして、教えてくれなかったんですか?」

雲雀は、呆れたように綱吉を見下ろした。

「まさか、帰ってこないと思ってるとは気づかなかったんだよ。すごい勘違いするよね、きみ。
……でも、結果的によかったじゃない。両想いになれたんでしょ」

綱吉は、一瞬ののち顔を一気に紅くした。

言葉にならずにあわあわと焦る綱吉に、雲雀は面白いと目を細める。

「あああああの、男同士とか、兄弟とか、気にしないんですか?」

「なんだ、そんなこと」

「そんなことって……」

「男同士とかは、好きなら関係ないでしょ。それと兄弟って言っても、きみたち、血繋がってなかったよね」

秘密だと思ってたことをあっさり言われて、綱吉は驚いた。

「アイツから聞いたんだけど、違うの」

「む、骸さん知ってたんですか?」

「沢田の両親から、ちゃんと聞いてるって言ってたけど。父親同士が親友だったんだろ?」

知ってたんだ、と綱吉は少しショックを受けた。

「きみは兄弟でよかったと言ってたけど、アイツは兄弟じゃなければよかったと言ってたよ。
そうでなければ、我慢せずにとっくに連れ去ってるって。でも、きみが大事だから、そばにいたいから、自分を抑えてるって」

骸の本心を知って、綱吉はまた泣きそうになる。でも、深呼吸して涙をこらえた。

「きみたち、両想いなのに絶望的にすれ違ってるよね。言葉が足りないんだよ」

「絶望的って……。それに、言葉が足りないとか、雲雀さんに言われたくありませんよ」

泣き笑いのような綱吉の表情に、雲雀は殴ろうとあげた手を下ろした。

「言うね。じゃ、アイツが帰ったらちゃんと話すんだね」

「はい、そうします。……雲雀さん、いろいろありがとう」

「帰るよ」

「はい!」

冬の陽だまりの中、二つの秘密が暴かれ、一つの恋が成就した。

これはまだ、始まりに過ぎない。

まだまだこれから、いろんなことがあるだろう。

でも、きっと大丈夫。
だって、綱吉はなにがあっても骸が好きだし、骸も同じだろうから。

時間は、巡っている。

だから、春はきっと来る。

雪が解け、花々が咲き乱れる輝かしい春は、きっとすぐそこにある。




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骸ツナ義兄弟秘密の恋という意味不明のリクエストに
こんな素晴らしいお話を頂いてしまいました・・・っがくがく
こんなに可愛い綱吉だったら骸も好きになっちゃいますよね・・・っ><。
クッション抱いて骸に思いを馳せる綱吉とか、骸の胸をぽかぽか叩く綱吉とか・・・っはぁー・・・はぁー・・・
近い距離だからこそ何も言えない骸とか本当に堪りません・・・っ(鼻血)
義兄弟でよかった、と私まで心底ほっとしました・・・っ
そしてあめりさんの書かれる雲雀が密かに好きなので(笑)
大変おいしく頂きました・・・っ!!!ぼたぼた(鼻血)
これからひとつ屋根の下、二人で仲よく寄り添って生きていくのかと思うと幸せ涙が(泣)
末永くお幸せにvvvv

素敵過ぎるお話をありがとうございます・・・っ><。


あめりさんの可愛過ぎてどうしようもなく愛おしい骸と綱吉が拝見できるサイトはこちら!

あめ+シダリ」 *R15

bkmからも飛べますvvv