あいのことば




綱吉は、てくてくといつもより余分な荷物を抱え学校へ向かっていた。
それは、上履きと2人分のお弁当。

昨日学校から出る時になりふり構っていなかったため、靴を履き替え忘れていたのだ。

空港へ行き、骸に体当たりで告白し、玉砕したかと思えば恋を実らせるという、なんとも忙しい一日だった。

けれど、それもすべて雲雀恭弥のおかげ。骸の留学を教え空港までの道のりをバイクで送ってくれなければ、なし得なかったこと。
それに雲雀は、風紀の人間を使い廊下に放りっぱなしだった綱吉のかばんも自宅に届けてくれていた。
お弁当は、それらに対するせめてもの感謝の気持ちだった。……作ったのは、綱吉の母親だが。

結局綱吉に付き合って学校をサボる羽目になったというのに、雲雀は楽しそうだった。
面白がっている、ともいう。
骸とは悪友だったので、弱みを握り喜んでいたのだ。

実際骸は、綱吉を盾にされたら手を出せないに違いなかった。
それほどまでに、大切に慈しんでいた。
綱吉自身に、その自覚はなくとも。

(面白いね、沢田兄弟)

そんなことを思われているとも知らず、綱吉は昼休みに応接室を訪ね雲雀にお弁当を手渡した。



教室へ帰り待ちに待った自分のお昼だ〜、とドアを開け綱吉は固まった。
クラスメートたちからの視線が痛いほどに突き刺さる。

雑談もぴたりと止み、静寂が教室を包んだ。

(は? え? なにごと?)

顔を強張らせ動けずにいると、わっと周囲に人が群がってきた。

「沢田! おまえ、雲雀さんとどういう関係なんだ?」

「昨日も一緒に、学校サボっただろ?」

「おまえ、風紀に入るのか?」

「雲雀先輩って、カノジョいるの?」

ちょっと違う種類の質問も聞こえた気がしたが、学校内での雲雀の人気を考えればしかたのないものばかりだった。
怖いという人間もいるが、あの真っ直ぐな強さに憧れを抱く人間は多い。

孤高のヒーローとでもいうのだろうか。
男女問わずに、こっそりと人気があった。

そんな雲雀と平々凡々な綱吉との繋がりを見つけられず、みな不思議がっている。
昨日雲雀のバイクに乗っていたところや、先ほどお弁当を届けたところを見られていたのだろう。

クラスメートたちに兄繋がりだと告げると、みな途端に納得した。

綱吉の兄、骸も雲雀とは違った意味で有名人だったから。
開校以来の才媛と言われ、模試も全国で上位に入る。
稀有なオッドアイの美貌に、すらりとした長身。物腰も柔らかで、社交性もある。
運動もそつなくこなし、非の打ち所がない。
生徒どころか教師からの人望もあり、生徒会長を務めている。

雲雀とは違い、こっそりとではなくおおっぴらに人気があるのが骸だ。

そんな骸と雲雀が友人(本人たちは否定するだろうが)なのは、周囲も知っている。

ようやく解放された綱吉は、いつもの友人たちとお弁当を囲んだ。

(そういえば、オレ骸さんと両想いになったんだよな……)

昨日は、その前日ほぼ寝ていなかったため、死んだように眠りに入った。

そのため思いが通じた感動に浸る間もなかったが、今思い返せば綱吉の人生最大の出来事。

(うわああああ! そうだよ、これってスゴイことじゃんか)

「沢田? 顔、真っ赤だぞ。風邪でもひいたか?」

「へ? いや、なんでもないよ。大丈夫、大丈夫!」

ぺちぺち自分の頬を叩いて、綱吉はまたお弁当に向かう。

(はあ。でも、2週間も帰ってこないんだよなあ。そんなに離れてたこと、あったっけ……? ないよなあ。寂しいな……)

早く、会いたい。

綱吉は、遠くカナダの地にいる骸に思いを馳せた。



「ツっくん、ツっくん」

お風呂から上がると、電話をはい、と渡された。

「え? 母さん、誰?」

奈々は、くすくす笑ってそのままリビングへ去って行く。

『……綱吉くん?』

戸惑う綱吉の耳に聞こえてきたのは、大好きな人の声で。

「む、骸さん!?」

『……はい』

こんばんは、なんて声にもどきどきして言葉が出ない。

(あ、あれ? オレ、今までどうやって話してたっけ)

心臓が高鳴る。頬が赤く染まる。胸が苦しい。

(ど、どうしよう……)

『綱吉くん?』

「ひゃい!?」

(声、裏返った!)

綱吉は、今度は違う意味で赤くなる。受話器の向こうは、無言。

(オレのばかばかばか! 骸さん、呆れてるよ)

『綱吉くん。もしかして、緊張してます?』

けれど、聞こえて来たのは優しい甘い声で。

「…………うん」

(お見通し、だ)

『……僕も、です』

「え?」

驚く。いつも、余裕たっぷりなのに、と。

『どきどきして、胸が痛いです。……片想いが実るなんて初めてですから、どうしたらいいのか分からない』

「え? 初めて?」

『そう。初めて、です。僕はずっと、綱吉くん一筋でしたから。……初恋、ですね』

「は、恥ずかしいよ……」

(でも、すごくうれしい。オレと、一緒だ)

『こちらには知り合いもいませんし、日本語も通じませんからね。思う存分、素直になれる』

ばくばくとうるさい胸を押さえ、リビングへと通じるドアが閉じられていることを確認して、綱吉は口を開いた。

「オレも、好き。骸さんだけが、好きだよ」

我慢してなにも伝えられず、その結果骸が離れて行った時の絶望感。
世界が色を失くしたような、ひとりぼっちにされたような喪失感。
それを、味わったのはついこの間のこと。そんなもの、綱吉は二度と味わいたくなかった。
だから、思ったことは素直に伝えていこうと心に決めていた。今
すぐには、変われないかもしれないけれど。
でも、出来るだけ自分に正直になろう、と。

『……!』

骸は、電話の向こうで絶句する。

今までにない、綱吉からの積極的な言葉。電話越しでなければ、抱きしめていただろう。

『綱吉くん。僕が帰るまでに、覚悟を決めておいてくださいね』

「え?」

覚悟って、なんの?

そう続けた綱吉の問いには答えず、骸は話しを進めた。

『時差もあるので、電話はマメに出来ないんです。なので、メールしますね』

「そっちは今、何時なの?」

日本は、夜の21時を過ぎたところだ。

『朝の7時過ぎです。日本時間から、マイナス17時間の時差ですよ』

「じゃ、これから学校?」

『ええ』

「そっかぁ、いってらっしゃい」

『はい。いってきます。それで、メールですけれど』

「あ、うん」

『僕の部屋のパソコン、メールソフトの使い方は分かりますよね?』

骸は自室に、ノートパソコンを置いていた。
それを骸がセッティングした時そばにいたし、生徒会の資料を作成していたのも、綱吉は見たことがあった。

「う、うん。たぶん、大丈夫」

『よろしい。では、きちんと毎日、チェックしてくださいね?』

「うん!」

『それと、もうひとつ』

「なに?」

『そのパソコン、パスワードを設定してあるんです』

「うん」

『パスワードを入れないと、パソコンは立ち上げりません』

「うん、うん」

『だから、ちゃんとパスワードを入力してください』

「うん、うん、う……ん?」

『ヒントは、『僕の好きなもの』です。綱吉くん、頑張ってくださいね』

「え? 頑張れって……」

『僕が帰ったら、ちゃんと答え合わせしますからね? 合っていたら、ごほうびです』

クフフ、と心底楽しそうな笑い声が響く。

「も、もし、もしも、だよ? 間違ってて、メール見れなかったりなんかしたら……?」

『……おしおき、ですね』

(やっぱりーっ!)

『もちろん、そんなことはないって信じてますからね? 綱吉くん』

(……ずるい)

そんなこと言われたら、挑戦するしか綱吉に道はない。

「が、頑張る……!」

『帰りの飛行機も、メールで知らせます』

「あ、オレ迎えに行く!」

『では、それが答え合わせになりますね。……楽しみに、しています』

「うん、オレも……。早く、会いたいよ」

「僕もです。早く、きみに触れたい」

距離がもどかしい。けれど、耳元に直接響くのは甘い睦言。

幸せな、ひとときだった。



「……で? なんで僕に聞くの」

次の日の昼休み。綱吉は雲雀を訪ね、並盛高校応接室にいた。今日も、お弁当持参だ。

「だって、雲雀さんくらいしか、相談出来る人いませんもん!」

「アイツの好きなものなんて、僕が知るわけないでしょ」

「付き合い、長いじゃないですかぁ!」

「……気持ち悪いこと、言わないでくれる? 腐れ縁だよ、単なる」

雲雀から本気の怒りを感じた綱吉は、ぺこぺこあやまりながらも泣きついた。

「すみません、ごめんなさい。でも、ほんとに心当たりなくて〜」

「ちなみに、なに試したの」

「チョコレート」

「ほかには?」

「ハム」

「あとは?」

「アイスクリーム」

雲雀は思わず遠い目で、綱吉を見る。

「……なんで、食べ物ばっかりなの」

「思い付かないんですよぉ!」

それで、雲雀さんならなにか知ってるかなぁって。

そう、綱吉は続けた。

昨夜電話を切ったあと、綱吉はいろいろ試してみた。
しかし、『パスワードをお確かめください』と無情にも拒否られる。途方に暮れた。

(骸さんに、がっかりされちゃうよ……)

綱吉は、深いため息をつく。食も進まない。

雲雀は、なかなか自分好みに仕上げられた弁当に、箸も進む。対照的なふたりだった。

(アイツが好きなものなんて、たったひとつじゃない)

端から見ていればわかりやす過ぎる答えに、雲雀は綱吉とは違った意味でため息をつく。

(このままメールを読んでもらえなくて、迎えが来ない空港で待ちぼうけすればいいのに)

骸に対してはかなり酷いことを考える雲雀だったが、けなげな綱吉には多少の優しさを見せた。

「きみだったら、パスワードどうする?」

「え、オレだったら……?」

うんうん唸っている綱吉を見て、雲雀は時間の問題かなとひとりごちた。



「……で? なんできみたちは、ここで昼休みを過ごすの」

普段雲雀ひとりのはずの応接室は、いまや沢田兄弟の昼ゴハンの場になっていた。

「いいじゃないですか。3人分のお弁当、それぞれ分けるの面倒なんですよ」

「だから、重箱になったわけ?」

「す、すみません。雲雀さん……」

骸は悪びれもせず、綱吉から視線を外さずしらっとしている。

(ま、奈々の弁当は口に合うからいいんだけどね)

「綱吉、お茶」

「はいっ」

綱吉はぱたぱた駆け足で、部屋のすみに置かれた電気ケトルに向かう。

「雲雀くん。あんまり綱吉くんをいじめないでくださいね」

骸が、自分から離れていった綱吉の後ろ姿を名残惜しげに見つめながら、言う。

「……いじめてない」

おまえが言うな、と雲雀は心の中で呟いた。

「きみこそ程々にしないと、嫌われるよ。四六時中一緒なんて、息が詰まるだろ。飽きられるんじゃないの」

「綱吉くんが生まれてから、ずっと一緒なんです。いまさらですよ。でも、僕も妥協したんですよ。お昼を一緒にするのは、週イチですから」
きみにもお弁当分けてあげてるんですから、文句言わないでくださいよ。

そう、骸は続けた。

「なんで、生徒会室じゃないわけ」

「ほかの役員も出入りしますからね。綱吉くんが、緊張するでしょう?」

雲雀なら、骸とのことを知っているから余計な気を遣うこともない。
けれど、これ以上応接室でいちゃつかれてはたまらないので、雲雀は一応釘を刺した。

「これ以上、僕を巻き込まないでよね」

(……こんなことで、止まるような男じゃないだろうけど)

面白いと思ってはいるが、それは巻き込まれないことが前提だ。

雲雀はお茶を受け取りながら、『骸の好きなもの』=『パスワード』=『沢田綱吉』を見つめる。

(……どうなろうと、自分の趣味の悪さを恨むんだね)

「どうかしました?」

綱吉は、不思議そうに雲雀を見つめた。

「いや。……ま、頑張って」

「は、い?」

「頑張らなくても、綱吉くんの煎れてくれたお茶はおいしいですよ!」

「はいはい」

爽やかな苦味があるはずの緑茶は、なぜだか雲雀には甘く感じた。




あめりさんから頂きましたー!!!(ry)///////////////////////////////////
も、な、何ですかこの可愛らしい子たちはあああああああああああああああああはぁはぁはぁはあぁはぁはぁはあああはははは
拝見していると私まで幸せな気持ちになってムラムラしてきます(真顔)
しかも雲雀が苦労人の立場になり始めているのが堪りません(笑)
これからも何だかんだでラブラブ兄弟に巻き込まれていくんでしょうねvvv
お茶まで甘くしてしまうらぶらっぶぶりにニヤニヤが止まりません・・・っ
あめりさんありがとうございました!!!!!
あめりさんから頂いたときに書かれていたメッセージも、とおっても嬉しかったので
こっそり保存してあります(ry)///////////////////////////////////////
ありがとうございますvvv

しずくあめりさんのサイト、あめ+しだりはbkmから飛べますvvv