!!死ネタ!!
*暗いです
*骸が酷い男です。違った意味でもどんどん酷くなっていきます。
*綱吉が病気で亡くなってます。
大丈夫な方のみ、ご覧ください。
車がまた一台、庭先に止まった。
財産を放棄すると言った途端にご機嫌伺いとは、予想通り過ぎて笑えない。
誰が来ても追い返すように言ってあるから、騒がしくはないが車の音が耳障りだった。
放棄すると口頭でしか言ってないから、効力はない。
相続権はまだ、僕にある。
放棄して連中の手に渡るのは腹立たしいから、
相続してから寄付してしまうのも悪くない。
綱吉が面倒を見ていた施設はもう他の誰かが受け継いだようだが、いくつかあった筈だ。
連中の落胆する顔は何度見てもいい。
そういえば綱吉が馬鹿なことを言っていた。
綱吉のものはすべて処分しろとか。
クローゼットに手を掛けて開けると、
広いクローゼットの端に寄せるようにスーツが掛かっている。
無造作に掛けてあって、綱吉のだらしなさに少し笑う。
綱吉は金持ち連中がこぞって身につけるような高級品には興味がない。
だから、売れるようなものなんて、ないくせに。
綱吉が好きなものは花と、ハーブティーと、甘いお菓子、
ふとクローゼットの一角に目を向けた。
歩いてそこまで行くと、同じようにスーツが掛かっているだけだが
丁寧に布を掛けてあって、きちんと虫除けもされている。
手前にまとめて掛けてあるスーツとは大違いの扱いだ。
布を開くと、それは見覚えがあった。
隣も、その隣りのもの。
すべて、僕が贈ったものだった。
ばかな子。
こんなもの、いくらでも贈るのに。
わざわざ処分するまでもない。
売れるようなものだってひとつもないのだし、このままにしておこう。
そうだ。
屋敷を売るのも止めにしよう。
もし綱吉が帰って来たときに誰もいなかったら、驚いて泣いてしまうかもしれないから。
綱吉がその内帰って来るかもしれない。
そう思うと食欲も出てきた。
今頃どこにいるのだろう。
そう思うと待ち遠しくて楽しみな気持ちになってきた。
あんなに綺麗な顔をしていたのだ。
僕をからかうための悪い冗談だったかもしれない。
夢を見る。
古い御伽噺のように、キスで目覚める綱吉の夢。
「車を出してください。」
控室にいた運転手が驚いたように新聞紙から顔を上げた。
僕がここまで来ることはなかったから、驚いたのだろう。
慌てて新聞紙を畳んで眼鏡を外した運転手は立ち上がると、
なぜか嬉しそうに笑った。
「どちらまでお送りしましょう?」
「教会まで。」
「集会でもおありですか?」
「いいえ。綱吉に用事があって・・・まだいますよね。」
傍にいた使用人が口元を押さえて走って行った。
泣いているようだった。
訳が分からずにいると、運転手も同じように泣き出しそうな顔をしていた。
「綱吉さまは、」
言うのを躊躇うような唇は、それでもゆっくりと動いていき、僕はその光景をただ見ていた。
「綱吉さまは、7日前に、火葬に付されました、」
空に吸い込まれていく白い煙を、僕も見た。
「骸さま・・・!!」
不覚にも倒れた。
疲れていたのかもしれない。
しかしあれから7日も経っていたのか。
時間の感覚がまるでなかった。
医者は要らないと言ったのに、誰かが呼んだようだ。
隅々まで調べられる。
もしも病なら、手遅れならいい。
「綱吉と同じ病ですか?」
「・・・綱吉さまの御病気は、感染するものではありませんのでご安心ください。」
そんなの知っている。
綱吉の病に関してだけなら僕の方が詳しいかもしれない。
とても、調べたから。
でも、あんなに一緒にいたんだ。
移る可能性だって捨て切れない。
綱吉と同じ病なら、綱吉と同じ風景を見ることが出来るかもしれないのに。
「お疲れのようです。十分に休養をお取りになってください。」
けれど事実は残酷だ。
「寝付きがお悪いと聞きました。睡眠薬を処方しておきます。」
「飲み過ぎたら死にますね。」
いつも説教染みた医者の悲痛な顔が笑える。
「冗談ですよ。」
綱吉にも見せたかった。
きっと笑っただろう。
「色がないんです。」
「・・・え?」
「色が見えない。光も見えない。僕の目は見えなくなりますか?」
医者は答えなかった。
聞かなくても分かる。
答えは否、だ。
「出て行ってください。疲れました。」
乾いた風が木を揺らす。
僕の目には色が見えない。
光がなくて暗い。
僕はこの世界を知っている。
綱吉と出会う前、世界はこんな色をしていた。
クリスマスには一緒に庭の木を飾るって言ったのに。
年が明けたら湖まで朝日を見に行くって言ったのに。
嘘吐き。
嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐き
うそつき
09.12.27