!!死ネタ!!

*暗いです

*骸が酷い男です。違った意味でもどんどん酷くなっていきます。

*綱吉が病気で亡くなってます。

大丈夫な方のみ、ご覧ください。







朝が来て、夜が来て。

それすら興味が持てずに僕は、今日も生きていなければならない。

呼吸を繰り返す肺が、忌々しくさえ思う。


ベットの中はもう綱吉の気配すら消えて、苛立ちを通り越したこの感情は何だ。



庭先に車が止まる音がした。

少し時間を置いて寝室に近付いてくる足音が聞こえた。

誰にも会わないと言っているのに。

苛立つ間もなく、扉の外から声が掛かった。

「骸さま、」

「・・・帰って貰いなさい。」

「ですが・・・毎日いらっしゃってまして、」

「毎日来ているから何ですか。」

だから僕が会わなければならない理由なんてひとつもない。
あまり執拗いようなら、二度と来る気が起きないようにするまでだ。

「誰ですか?」

「あの、綱吉さまのご友人の方で」

急激に巻き起こった期待に弾かれるように僕は、
着替えもせずにガウンを羽織ったままの姿で部屋を出た。

急に扉を開いて飛び出した僕に、使用人が驚いて短い声を上げたが気にもならない。

裸足のまま中庭を横切るように応接間まで急いだ。



もしかしたら彼は、綱吉を連れて来てくれたのかもしれない。



けれど僕は、



本当は知っているんだ。



この扉を開けても、



「よう。」

人好きのする笑顔のその男の隣には、



綱吉なんて、いないことを。



それでも僕は、落胆する。



なぜ、いない。



「思ったより、元気そうだな。」

そうだ、僕は今日も生きてしまっている。

「・・・何か、ご用ですか?」

「本当にありがとうな。ツナ、すげぇ幸せそうだった。」

それが何か意味を持つとは思わない。


だって綱吉はここにいない。

「お前も。」

そんなこと、何の意味も、ない。

答えない僕にほんの少し困ったように笑った男は、
目の前に一通の封筒を差し出した。


宛先も書かれていない封筒は、柔らかな白を生む。


「これ、は?」

「ツナから、お前に。」

大きく鼓動が高鳴って、視界が揺れた。

「渡してくれって言われてたんだ。直接渡したかったから、遅くなっちまった。悪ぃ。」


鼓動が胸を揺らし、視界を揺らす。


指先からじわりと熱が広がっていく感覚に眩暈がした。


そうだ、綱吉だって、本当は僕と同じ気持ちだったはずだ。


綱吉は口下手だったから、言えなかっただけなんだ。


きっと、この中には、きっと。


「また様子見に来るな。」

言って出て行った男に僕は言葉も返さずにただ手渡された封筒を見詰めていた。


緩く、視界が滲んだ。


封を開けて白い便箋を、開く。


期待から指先が震える。


綱吉、



『親愛なる骸へ

お前に手紙を書くのは初めてだな。

何だか照れ臭いけど、口ではちゃんと言えなかっただろうから手紙にするよ。


骸、今まで傍にいてくれて本当にありがとう。


俺は人生の最期に思いがけずとても幸せな時間を過ごしたよ。
人生の中で一番幸せな時間だった。

骸は気付いてなかったみたいだけど、お前のことずっと前から好きだったんだ。

頭がいいくせに鈍いお前も大好きだったよ。

お前のすべてを愛してた。


それなのに約束守れなくてごめん。

骸といると楽しくて嬉しくて、病気のことなんかすっかり忘れられたんだ。

もしかしたらこのままずっと一緒にいられるんじゃないかと思ってた。

だけどもう駄目みたい。

言い訳にしかならないけど、あの時は本当にクリスマスも一緒に過ごせると思っていたし
年が明けたら湖まで行けると思ってた。

嘘になってしまったこと、どうか許して。


それと、これは提案なんだけど、この屋敷は売って街に引っ越したらどうかな。
ここは綺麗な場所だけど一人じゃ不便だし、広過ぎると思うんだ。

実は、骸が前住んでた屋敷は売らなかったんだ。
いつでも戻れるように管理して貰ってる。
あそこなら骸も住み慣れてるし、俺と出会う前の生活に戻れるよ。
鍵は骸の友達に渡してあるから、近いうちに迎えに来てくれると思うからちゃんと準備しておいてな。

屋敷を出るときは俺のものはぜんぶ捨てて行って。
骸の新しい生活に俺は必要ないから、写真もこの手紙もぜんぶ。

捨てるのが面倒だったら置いて行って構わないよ。処分は頼んであるから。
これは提案じゃなくて遺言。


それと施設には俺から寄付してあるから、骸からの寄付は受け取らないようにお願いしてるから。
骸が相続した財産は骸がしっかり管理するんだぞ。


相続が終わったら、籍は抜けるように手配してあるから、弁護士の先生の話しちゃんと聞くんだぞ。
俺の家を背負うことはないからね。

お墓のことも心配しないでな。
俺の家系は無駄に歴史が長いから、親戚はやたらといるんだ。
誰かしらいつも掃除してくれてるし、友達もたまに見に行ってくれるって。


これからの新しい生活を楽しんで過ごして。



骸は生きて幸せになって。
そうじゃなければ、俺はお前を絶対に許さない。
骸は、必ず幸せになれるから。


骸、愛おしい骸。
ここでお別れだ。


どうか元気で。




さようなら。



綱吉』





期待は絶望へ。


白い便箋にインクが滲んでいく。


吸い込まれるように床に膝が落ちる。


ばらばらと崩れ落ちるような涙に呆然として、震えるように嗚咽を漏らす口を手で押さえる。



綱吉が酷いことを言う。



ひとりで生きろと、すべて忘れろと言う。


まるで何もかもすべて、終わったことのような口振りで。



愛おしいと言うのならなぜ、言わない。


どうして、


言ってくれない。



君の望むことならすべて、叶えてあげると言ったのに。



君は、頷くだけでもよかったのに。



僕は、死ぬことなんか、怖くないのに。



許されないと言うなら僕は、どこへ行けばいい。
君のところ以外に、行く場所なんてないのに。



愛おしいと言うなら、なぜ、





一緒に死んで欲しいと言ってくれないんだ。





一緒に死ぬと言ったのに、頷いてくれなかったんだ。





頑固な君に、ただ意固地になっているだけだと思ってた。




それなのに、僕は今は


今は、死ぬことだけを望み







僕が欲しかったものは本当に、財産だったのだろうか。




2010.01.16
恋をしているのにも気付かなかったばかなおとこのお話しでした。

綱吉は骸の気持ちも何を思って近付いたのかもぜんぶ分かっていて、
骸の愛はしっかりと受け止めながらも、骸にとっての自分の存在を軽視し過ぎたのだと思います。
綱吉は骸は自分の死を乗り越えられると思っていて、
でも骸はどうしたって乗り越えられなくて、
綱吉にとっての幸せは、骸が生きて幸せに暮らしてくれることで
骸にとっての幸せは、綱吉と共に在ることで綱吉が死ぬなら自分も当然のように死ぬこと。
そこで幸せの価値観が違うのではないだろうかとふと思って妄想したお話しです。。。

立場が逆だったら、綱吉は骸の願いを叶えるんだろうなぁ・・・骸ツナって奥が深い・・・はぁはぁ

暗いお話しに最後までお付き合いくださってありがとうございます><。