「渡してくれって言われてたんだ。直接渡したかったから、遅くなっちまった。悪ぃ。」
鼓動が胸を揺らし、視界を揺らす。
指先からじわりと熱が広がっていく感覚に眩暈がした。
そうだ、綱吉だって、本当は僕と同じ気持ちだったはずだ。
綱吉は口下手だったから、言えなかっただけなんだ。
きっと、この中には、きっと。
「また様子見に来るな。」
言って出て行った男に僕は言葉も返さずにただ手渡された封筒を見詰めていた。
緩く、視界が滲んだ。
封を開けて白い便箋を、開く。
期待から指先が震える。
綱吉、
『親愛なる骸へ
お前に手紙を書くのは初めてだな。
何だか照れ臭いけど、口ではちゃんと言えなかっただろうから手紙にするよ。
骸、今まで傍にいてくれて本当にありがとう。
俺は人生の最期に思いがけずとても幸せな時間を過ごしたよ。
人生の中で一番幸せな時間だった。
骸は気付いてなかったみたいだけど、お前のことずっと前から好きだったんだ。
頭がいいくせに鈍いお前も大好きだったよ。
お前のすべてを愛してた。
それなのに約束守れなくてごめん。
骸といると楽しくて嬉しくて、病気のことなんかすっかり忘れられたんだ。
もしかしたらこのままずっと一緒にいられるんじゃないかと思ってた。
だけどもう駄目みたい。
言い訳にしかならないけど、あの時は本当にクリスマスも一緒に過ごせると思っていたし
年が明けたら湖まで行けると思ってた。
嘘になってしまったこと、どうか許して。
それと、これは提案なんだけど、この屋敷は売って街に引っ越したらどうかな。
ここは綺麗な場所だけど一人じゃ不便だし、広過ぎると思うんだ。
実は、骸が前住んでた屋敷は売らなかったんだ。
いつでも戻れるように管理して貰ってる。
あそこなら骸も住み慣れてるし、俺と出会う前の生活に戻れるよ。
鍵は骸の友達に渡してあるから、近いうちに迎えに来てくれると思うからちゃんと準備しておいてな。
屋敷を出るときは俺のものはぜんぶ捨てて行って。
骸の新しい生活に俺は必要ないから、写真もこの手紙もぜんぶ。
捨てるのが面倒だったら置いて行って構わないよ。処分は頼んであるから。
これは提案じゃなくて遺言。
それと施設には俺から寄付してあるから、骸からの寄付は受け取らないようにお願いしてるから。
骸が相続した財産は骸がしっかり管理するんだぞ。
相続が終わったら、籍は抜けるように手配してあるから、弁護士の先生の話しちゃんと聞くんだぞ。
俺の家を背負うことはないからね。
お墓のことも心配しないでな。
俺の家系は無駄に歴史が長いから、親戚はやたらといるんだ。
誰かしらいつも掃除してくれてるし、友達もたまに見に行ってくれるって。
これからの新しい生活を楽しんで過ごして。
骸は生きて幸せになって。
そうじゃなければ、俺はお前を絶対に許さない。
骸は、必ず幸せになれるから。
骸、愛おしい骸。
ここでお別れだ。
どうか元気で。
さようなら。
綱吉』
期待は絶望へ。
白い便箋にインクが滲んでいく。
吸い込まれるように床に膝が落ちる。
ばらばらと崩れ落ちるような涙に呆然として、震えるように嗚咽を漏らす口を手で押さえる。
綱吉が酷いことを言う。
ひとりで生きろと、すべて忘れろと言う。
まるで何もかもすべて、終わったことのような口振りで。
愛おしいと言うのならなぜ、言わない。
どうして、
言ってくれない。
君の望むことならすべて、叶えてあげると言ったのに。
君は、頷くだけでもよかったのに。
僕は、死ぬことなんか、怖くないのに。
許されないと言うなら僕は、どこへ行けばいい。
君のところ以外に、行く場所なんてないのに。
愛おしいと言うなら、なぜ、
一緒に死んで欲しいと言ってくれないんだ。
一緒に死ぬと言ったのに、頷いてくれなかったんだ。
頑固な君に、ただ意固地になっているだけだと思ってた。
それなのに、僕は今は
今は、死ぬことだけを望み
僕が欲しかったものは本当に、財産だったのだろうか。
2010.01.16
恋をしているのにも気付かなかったばかなおとこのお話しでした。
綱吉は骸の気持ちも何を思って近付いたのかもぜんぶ分かっていて、
骸の愛はしっかりと受け止めながらも、骸にとっての自分の存在を軽視し過ぎたのだと思います。
綱吉は骸は自分の死を乗り越えられると思っていて、
でも骸はどうしたって乗り越えられなくて、
綱吉にとっての幸せは、骸が生きて幸せに暮らしてくれることで
骸にとっての幸せは、綱吉と共に在ることで綱吉が死ぬなら自分も当然のように死ぬこと。
そこで幸せの価値観が違うのではないだろうかとふと思って妄想したお話しです。。。
立場が逆だったら、綱吉は骸の願いを叶えるんだろうなぁ・・・骸ツナって奥が深い・・・はぁはぁ
暗いお話しに最後までお付き合いくださってありがとうございます><。