もう誕生日パーティーという歳ではないのかもしれないけど、
職業を共にしている気の知れた友人たちが祝ってくれるのは嬉しい。

学生の頃から変わり映えしない面々とアルコールを摂れる歳にもなった。

山本は仄かに酔った心地よさで、
自分のためのパーティーを抜けて深い紅のカーペットの上を歩いていた。

探す当てはないのだけれど、人を探している。
今日ここに、いるとも分からないのだけれど。



通り過ぎようとした会議室の扉が不意に開いて、
あ、とも思う間もなく強い力で腕を引かれ、
薄暗い部屋の中に体を引き込まれて蹴り飛ばされた。

「いって、」

吹き飛んで床に投げ出されて、
うつ伏せになった体の上に体重が掛かり、
ねじ上げられた腕は背中にくっつけさせられて、床にキスする勢いで押さえ付けられた。

無駄のない動きに、この腕を解こうとすれば返って自分が怪我をすることは直感で分かる。

「抵抗しないのかい?」

「相手が分かってるからな、ヒバリ。」

ふうんと酷くつまらなさそうな声に、山本は苦笑する。

ゆっくりと閉じて行く扉は廊下の光りを細くしていって、
音もなく閉まる頃には部屋の中は月明かりのような仄かな明るさしか灯らない。

「今日誕生日なんだってね。」

山本はぱちりと瞬きをした後に、嬉しそうに唇を綻ばせた。

「おう。覚えててくれたんだな。」

「三か月も前から毎日のように、十年も言われ続けたら嫌でも覚える。」

「それでも覚えてくれてるんなら嬉しいよ。今日は来てくれっかなーと思ってさ、探してたんだ。」

「君も学習しない男だね。僕がそういったものに顔を出したことは一度もないだろ。」

「うん。だからさ、今年は来てくれるかなって。」

「馬鹿だね。」

呆れたような声で言って、体を押さえ付けたまま
雲雀のしなやかな手がおもむろに山本のジャケットの中に滑り込んだ。

皮膚まで一緒に剥がされるんじゃないかと思うくらいの手付きでシャツを押し遣る。

ジャケットの下で露わになった背中にまだ少し冷たい空気が入り込んで、
山本は絨毯にキスをしそうになりながら、口を開いた。

「あー、ヒバリ」

「何?ああ、もっと乱暴にされるのが好きなんだっけ?」

「いや、そんなこと言ったことねぇとおも、」

噛まれた耳に言葉を詰める。

ほんのりと血色のよい耳の上に白い歯が滑る。

思うほど痛くはなくて、反射的に閉じてしまった目をゆるゆると持ち上げた山本の目が熱を帯びたように光りを弾き
頭上で雲雀が笑う気配がした。

体の下に滑り込んだ手が、荒々しい動作でベルトを抜いた。

「あのさー、」

何、とも訊かなくなった雲雀は山本のジャケットの襟を乱暴に持ち上げるから、
まだシャツに覆われた肩が露わになる。

「場所変えね?ここ誰が来るか分かんねぇし、俺がいないのに気付いたら誰か探しに来るかもしれないし、!」

勢いよく反転させられた体は少し目が回るように視界を回転させて、
水の中のような淡い光の部屋の中にびりびりびりと布が裂かれるような音が響く。

飛び散ったシャツのボタンが視界の端で転がっていくのが見えた。

楽しそうな唇がゆったりと開く。

「で?」

だよなぁ、と観念した声を上げてようやく見上げた視界の先で、
雲雀は長い睫毛の下でその切れ長の瞳に楽しさを孕ませてすうと細めた。


きっちりと締められたネクタイに白い指が掛かる。


山本は目を見張るようにして、雲雀を見上げたまま息を潜めた。



はらはら、と。



緩まっていくシャツから零れ出るような艶やかさは、目に見えるならきっとはらはらと零れる桜の花びらのようで
きっと今日もこの部屋を埋め尽くすくらいに零れて窒息しそうになるのだろう。


見詰めてくる瞳は愉悦の色を浮かべて、好戦的な彼が獲物を嬲るときのそれに酷く似ているが
それでも自分を映す瞳には苛烈な熱を孕んでいるのを、山本は知っている。


きっとこの目を知っているのは自分だけなのだろうと思うと、意味も分からないままに嬉しくなる。


導かれるように伸ばした手がそっと雲雀の頬を包んで、熱を孕む瞳の下を親指の腹で撫ぜる。


また楽しそうに細められた瞳に、獣を慣らしているような気持ちにさせられた。

「十年間、怖いもの知らずに僕に付き纏ったことはそこそこ評価してやるよ。」


ジャケットの内ポケットから人差し指と中指に挟まれて出されたのは、
艶やかな光りを弾いた漆黒のカード、几帳面に真紅のリボンに飾られている。


山本は目を見開いて手を伸ばした。

「それ、雲雀の部屋の鍵、」

雲雀が手首をふいと持ち上げて、山本の指先はカードキーに触れ損なった。

「くれんの?」

再び伸ばした指先を絡め取られて床に押し付けられた。

手首を返した雲雀の指先からカードキーが強く回転しながら飛んで行って、
かつと短い音を立てて壁に刺さった。

「他のものに気を取られるなんて、いい度胸してるよね。」

いや今のはと言い掛けた唇は塞がれた。



言い訳も正当な理由も通用しないのはいつものことだから、
鮮烈な赤のリボンに今更でも胸の高鳴りが増すのが分かった。




2010.04.24
山本おめでとー!!
去年はヒバリの誕生日だったので、今年は山本の誕生日ー!!
この後二人は同棲すればいいんじゃないですかね!!
山本がご飯作ってあげたり色々ヒバリのお世話してあげればいいんじゃないですかね!!はぁはぁ
雲雀さんはドメスティックで亭主関白だけど、記念日とか覚えてそうです(笑)
山本が喜ぶのが内心嬉しいと思ってたりするとかわいいw