*性描写アリ
ちゅ、ちゅ、と唾液を吸う。
どうしてか甘い味が舌の上に広がる。
衣服の下で皮膚が熱を上げた。
綱吉が微かによろめいて後ずさると踵が下駄箱に当たってカタンと小さな音を立てた。それを追う様に更に唇を押し付け、舌を伸ばした。
とろりと唾液が混ざる。
もっと欲しくなって服に手を掛けると押し戻された。
薄暗い玄関先で綱吉の唇が唾液でぬるりと光る。息苦しかったのか眼球に孕んだ水分が、伏せられた睫毛の下で光を乗せた。
「ちょ、ちょっと待って、六道さん…!」
骸はむっと唇を引き結び綱吉の腕を押し返すと、強引に服の中に手を入れた。触れた肌は熱く、骸が手を滑らせるとひくんと引き攣った。
骸は心のどこかでは冷静でいるつもりなのに、信じ難い事に下半身は膨張していて抑え難い衝動が込み上げてくる。半ばやけくそな気持ちで綱吉の足の間をぎゅうと握った。
「うわぁ!」
綱吉は驚いて面白いくらい体を跳ね上げたのだけれど、骸は少しも気にせずにまさぐる。
同じように反応している事実に、興奮した。
「わ、ちょ、ま…!」
綱吉は骸の手を押しのけるがまるで効果がなく、骸の腕はびくともせず、その先の手は綱吉の膨らんだ下腹部を容赦なくまさぐった。
ジーンズの上からぐいぐいと強引に揉むと綱吉はますます腰を引いた。
「だ、だめだって…!ちょ」
綱吉の静止の言葉なんて興奮材料でしかなく、骸は馬鹿みたいに綱吉の勃ち上がったそれを揉んだ。電車がレールを鳴らす音が部屋に響く。ぎゅうと骸の腕を押し戻していた綱吉の手が震えた。
じんわりとジーンズが濡れて骸の手が湿る。
骸ははぁと少し熱っぽい溜息を吐いた。
「出すの…我慢したでしょう…」
いささか低い骸の声に、綱吉はふるりと体を震わせた。
「だって…汚しちゃう…」
綱吉の濡れた瞳が瞼の下から溢れる。骸は目を見張ると今度はきつく眉根を寄せた。
「もう汚れてますよ」
「う、わ!」
言って強引に綱吉を横抱きにする。ジーンズの前が少し濡れて色が濃くなっていて、それが妙にいやらしく見えた。
骸は靴を放るようにしてずかずかと上がり込み、綱吉を狭いベッドの上に放った。
綱吉がぐふと息を詰まらせた隙に馬乗りになって、一気にベルトを外した。
「ちょ…っ!!」
綱吉は驚きのあまり声を詰まらせて逃れようとベッドヘットの方へよじよじと体を捩るが、すぐに頭をごつんとぶつけた。
「いて…っうわぁ!」
ずるりと一気にジーンズを引き抜くと、綱吉は慌てて腕を足の間に挟み込んだ。骸はジーンズをぽいっと床に放って眉を寄せた。
「なぜそんなに嫌がるのですか?」
「へ…え!?いやだって」
外灯が浮き上がらせた綱吉の頬の色は赤に染まっている。綱吉はふいと視線を泳がせた。
「は、恥ずかしいだろ…こ、んなの…」
もじ、と靴下を履いたままの爪先を擦り合わせる。
骸は目の前が歪んだ気がした。
早急な仕草で体を倒して躊躇いもなく唇を重ねた。ぐいと綱吉の腰を抱き上げて逃げられないようにすると舌を挿し入れる。
骸の体を押し戻すような仕草を見せた綱吉の腕は徐々に力が抜けていった。
電車の音がして、車窓から溢れる光が部屋の中を舐めた。
少し乱暴なくらい舌を吸う。合わせた口の端からじゅると唾液の動く音がした。
骸は今度こそ綱吉の下着の中に手を入れた。ぴくんと皮膚が引き攣ったけれど無駄な抵抗はもうなかった。
横に手を滑らせるとすぐに熱い塊にぶつかった。骸は合わせたままの唇からはぁと息を零した。
綱吉のそれは熱くて、少し溢れてしまった精液でぬるついていた。
掌で柔く包み込んでぎゅうと上下に扱うと綱吉がぶると震える。
堪らない気持ちになって綱吉の下着を下ろすと、唇も首筋へと下げていった。綱吉の喉元が震える。骸は更に唇の位置を下げた。
「え、あ、ろ、くどうさん…!」
声の張りは失われたものの羞恥から慌てて体を起こした綱吉にむっとして、大きな掌を綱吉の胸元に宛てがうとぐいと押し返した。綱吉は簡単に転がったのでその隙に腿を押さえるが、それでも抵抗して丸まろうとするので両方の足首を掴んで思いっ切り足を開いてやった。
「ぎゃああ!」
「色気のない声だ。やめて欲しければ抵抗するな」
「え、ええ…!だって恥ずかうわあ…っ」
更に足を開いてやれば、腕で隠しているのも限界に達する。
「わ、分かったから止めて…!」
骸は鼻を鳴らして綱吉の足を下ろした。
真っ赤に染まる綱吉の頬を見て無意識に目を細めた骸は、些か躊躇ってから体を倒した。
ぴくんと綱吉の皮膚が揺れる。
骸はひとつ息を吐いてから綱吉のそれを口に含んだ。
溢れた精液の味が苦くて思わず眉を顰めるが、口の奥まで含んでしまえば唾液と混ざり合い慣れて少しはマシになった。
じゅ、と吸い上げると綱吉が内腿を震わせる。
根元から握りこんで先端を吸い上げるのと一緒に扱き上げる。綱吉が呼吸を震わせたのが分かるともっと乱れさせたくなった。
ちゅ、ちゅ、と何度か吸い上げて、もう一度根元から扱き上げると綱吉は腰を震わせ、それと同じ位に握り込んだ手の中で脈を感じた。
不意に口の中に苦味とどろりとした温い感触が溢れて思わず口を外すと、先端からぴゅと溢れた精液が骸の口の横を打った。精液は止まる気配を見せずに骸の口元を濡らしていくが、口の中の何とも言えない味に骸は堪らずシャツが捲れて露になっている綱吉の腹の上に唾液と一緒に精液を吐き出した。
「マズイ…」
「うう…」
淡く糸を引いた唾液を拭って呻いた綱吉に目線を上げた骸は、目を見開いた。
頬を真っ赤にし、下半身を露にして腹の上に精液を散らせた綱吉の姿が妙にいやらしく見えた。
ずきりと体の奥が疼く。
見透かすように綱吉の淡く濡れた瞳がゆったりと瞼の下から現れた。
「帰ります」
「ええ…!」
言って一気にベッドを降りた骸だったけれど、思わず綱吉に目を落とした。
綱吉はやっぱり捨てられた子犬のような顔で骸を見上げている。
「…」
骸はしばらくそんな綱吉に視線を据えたままでいて、やがて深い溜息と一緒にベッドに腰を下ろした。
「沢田くんねぇ…」
骸は気だるい動作で床の上のテッシュケースに手を伸ばし一枚引き抜くと、頬に滴ったままの綱吉の精液を拭い取った。
「ん?なに?」
些か身を乗り出すようにした綱吉にじっとりと視線を向けてから、また溜息と一緒に俯いた。
「…その顔は反則ですよ」
「え?」
「帰れなくなるでしょう…」
諦めて言うと視界の端で綱吉がもじと動いた。
「そ、なんだ…」
緩やかに風が吹いて沈黙が落ちる。
不意に伸びてきた綱吉の手に驚いて、骸は反射的のその手を取った。
「何ですか?」
綱吉は答えずにもう片方の手をさっと伸ばすが骸はそれも掴む。
「何ですか?」
もう一度言うと綱吉は睫毛を伏せたまま短く唸る。
頬はまだ赤いままで掴んだ手は熱い。骸も思わず睫毛を伏せる。
「六道さんは…どうなんだよ」
「はい?」
綱吉はまだ俯いたまま唇をぎゅうと合わせてから薄く開く。
「オレだって」
ぼそぼそと言う。
骸は目を見開いて、そして心臓の音が一際高鳴るのが分かった。
一度睫毛を伏せてから口を開く。
「『オレだって?』」
喉を震わせるようにして先を促すと、綱吉が息を飲んだのが分かった。
濡れた唇がゆったりと動く。
「オレだって…したい…よ」
目を見張った骸の手から力は抜けて、解放された綱吉の手がそっと骸の足の間に落ちる。骸はぴくと睫毛を震わせた。
なるほどこれは恥ずかしい、と骸は瞼を半分落とした。
何で恥ずかしいのかは分からないけど、綱吉の赤い頬を見詰めた。
「よかった…」
「よかった?」
綱吉が自分のそれに触れたままそんな事を言うものだから、骸は恥ずかしさもあり思わず怪訝に眉根を寄せる。
「…興奮してるの…オレだけじゃなかったから…嬉しいっていうか…」
骸はますます瞼を落とした。
スラックス越しに触れられているそれは完全に形を変えて勃ち上がっている。
どこかぼんやりしてしまうほどの鼓動が胸を打っていて、綱吉がベルトを外していくのを夢でも見ているような気持ちで見ていた。
綱吉の指先がスラックスのボタンを外す。
ゆったりとした動作で綱吉が体を倒した。指先が拙く下着をずらした。
綱吉の熱い口内に体の奥がずくりと疼く。
膨れ上がったそれを綱吉が舐め、足の間で柔らかい髪が揺れる。
骸は奥歯を噛んだ。
思った以上にいい。骸はむと口を引き結ぶ。
拙い仕草で懸命に愛撫をする姿が堪らない。
目をぎゅっと瞑った綱吉を見ていると、不意にぷはっと顔を上げた。
「……気持ちよくない…?」
「なぜ?」
「や、なぜって…」
口を引き結び瞼を半分落としている骸はどう見ても不機嫌そうで、綱吉はううと呻いた。
「喘げと?」
「なぁ…!」
頬を真っ赤にした綱吉は滅相もないと首を大きく振る。
「いや、そういうことじゃなくて…!」
「もうしてくれないんですか?」
「え!?」
言葉を遮って言うと綱吉はぴょんと背筋を伸ばした。
「もうしてくれないの?」
重ねて言うと綱吉は伏せた睫毛をぴくんと震わせて、赤い頬のまま体を倒した。
熱さを失わないそれをちゅと再び吸われると体の奥が悦びに震えた気がした。
綱吉の唇が何度か往復をして先端をちゅと吸い上げた時に、顎を下から柔くつんと押し上げた。案の定ちゅぱと音を立てて綱吉の唇が先端から離れる。それと同時に骸は吐精した。
赤くなった唇に精液が掛かると綱吉はびっくりして顔を上げようとしたので、後頭部を手で押さえ更に掛ける。
鼻の下を濡らして滴り落ちていく。
少し顔を傾けさせれば赤い頬にも掛かる。
綱吉の顔を濡らしては滴っていく自分の白い精液を、骸はじと見詰めていた。
「うぅ…鼻に入った…」
「よかったですね」
「よくないよ…」
顔を上げた綱吉の顎を捉えて、指の腹で頬に滴る精液を口の中に押し込んだ。
綱吉の口の中は指で感じる方が熱かった。
舌の上に精液を塗り付ける。
「うぅ…ニガ…」
「よかったですね」
「だから、よくないって…!」
引き抜いた指の先に細い唾液の糸が伝う。綱吉が無造作に顔を拭う仕草でさえ、すべてが淫靡に見えて仕方がない。
振り払うように立ち上がってスラックスをただすと、シャツを引っ張られている気がして視線を落とす。綱吉が骸のシャツをぎゅうと握っていた。気のせいではなかったようだ。
「か、帰らないよな」
骸は目を見開くと綱吉の頭を思い切り押した。綱吉は簡単にベッドの上に転がる。
パッと顔をあげた綱吉は、骸がきつく眉根を寄せて地鳴りでも伴いそうなほど凶悪な顔をしていたので口元を引き攣らせた。
骸がどん、とベッドのマットレスを殴ると、綱吉は壁際に体を寄せた。
「ワガママ言ってご、ごめん…!」
「くそ!」
もう一度どん、と殴ると綱吉がスプリングで揺れる。
「ごめんってば…!」
へにゃんと情けなく眉尻を下げた綱吉はやがて目を見開く。
骸は衝動を抑えずに綱吉を抱き締めた。
「くそ、なんでそんなにいちいち可愛いんだ…!」
腕の中の綱吉がぴくんと体を揺らした。
骸は綱吉を抱き締めたまま大きく溜息を吐く。
認めてしまえば何て簡単な事だったのか。
骸は綱吉を抱き込んだままベッドに横たわった。
綱吉が背中に腕を回してきたので心が掻き乱されるような錯覚を覚える。
風が窓から吹き込んで体を撫でていく。
しばらくそうしていたのだけれど、綱吉がもぞもぞ動き始めた。
「う、ぐ、くるしい…」
骸はむと口を引き結び、綱吉の後頭部をますます引き寄せて胸元に顔を埋めさせた。
「う、ふぐ」
「このままこうしていたら窒息するかもしれませんね」
「う、うぐ」
綱吉がジタバタし始めたのであっさり離すと、酸素を求めて勢い良く顔を離した。その隙を見て綱吉の体をくるんと反転させて抱き寄せる。
骸のお腹と綱吉の背中がぴったりとくっ付いて、後ろから抱き込む。
綱吉の耳が赤くなるのを見て、悪い気はしなかった。
ふわふわの髪の毛が顎をくすぐる。骸は綱吉の頭に思い切り顔を埋めた。
「わ、ちょ、臭い嗅ぐなよ…!」
「臭いですねぇ」
「だって、しょうがないだろ…!一日働いた後だし、ちょ、文句言うなら嗅がない…!」
本当は言うほど臭くないけど骸はくさいくさいと言ってつむじの辺りに顔を埋める。綱吉の汗と体の匂いとシャンプーの匂いが混ざっていて安心する香りだった。逃げようとするのでぎゅうと抱き込むと、綱吉は大人しくなった。
夜の匂いが混ざる。
「……沢田くんが僕をそんな目で見ていたなんて驚きですね」
「え…!あ…うー」
もごもごと口篭る。骸は薄らと目を開けた。
「格好良かった?」
「う、うわナルシスト…」
「僕が自惚れずに誰が自惚れるのですか」
「開き直った…!」
綱吉は一度息を吐いてからぽつんと言った。
「あー…初めて会った日に、六道さんの家に連れて行かれただろ…」
随分昔の事のようにも思えて骸はそっと目を細める。綱吉の次の言葉に知らずに期待をする。
「それで追い出された後にオレが絡まれて…助けてくれた時…頼もしいなって…かっこいい…なって…思ったかも…」
期待していた癖にいざ聞くと胸がむずむずした。
「泣いたじゃないですか。僕の事が泣くほど嫌なのかと思いましたよ」
「いや、あれは…」
「あれは?」
綱吉の睫毛がふると揺れる。
「あれは、安心したんだよ。六道さんが頼もしくて…」
骸は目を見開く。けれど顔が見えないのをいい事に冷静な声を出した。
「録音しておきました。何かあったらそれでからかいますね」
「え、ええええ…!」
「する訳ないでしょう。馬鹿じゃないですか」
綱吉がううと呻く。
心地よい振動。触れ合っている体が溶けてくっつきそう。うとうとと意識が眠りに引っ張られていく感触が気持ちいい。
綱吉を抱き締める腕に力を込めると、重なっていた手に綱吉の指が絡んだ。
薄らとした視界の中でも綱吉の耳が赤いのが分かる。
かわいい
骸はふと微笑んで眠りに落ちた。
あまりにも甘くて心地いい眠りだった。
そのせいで次の日はふたり揃って遅刻した。
2012.11.10