家の前に付いて離れた掌は、正直寂しい。
けれどまた繋ぐことが出来ると思うと、自分の手が愛おしく思える。

「泊って」

「行きません。」

「で、ですよねー」

しゅんとしてる間に骸がすたすたと歩き出してしまったので慌てて引き止めた。
手を掴むと骸が少し驚いたように振り返った。

「あのさ!明日、あ、もう今日か。泊らなくても夕飯食べに来ない・・・?
骸来たら母さん喜ぶし、ケーキも買ってあるんだ。あ!もちろん、犬さんと千種さんも!」

どきどきと返事を待っている綱吉に、骸は短く「分かりました。」と言った。

「そっか!うん、よかった!」

ほっと胸を撫で下ろしてから綱吉はそういえば、と付け足した。

「結局お前の欲しかったものって何だったの?」

骸が夕飯の招待に応じてくれて嬉しかった綱吉はへらへらと笑っていたけど、
へらへらした顔はへらへらした顔のまま、どんどん青くなっていった。

見なくても分かるその冷え冷えとした殺気を孕むオッドアイは健在です。

「い、今更だよね!!ってもういねぇ・・・っ!!!!」

へらへらした顔を解除して目を開けた頃には骸はもう豆粒で、曲がり角を曲がって行った。

(くそぅ・・・)

でもいい。明日も会えるし、それに

(だって骸と、)

綱吉はかあと顔を赤くしてばたばたと家に入って行った。

さっきまで繋いでいた手を頬に当てて綱吉は、ふふふと嬉しそうに笑いながら階段を上がって行った。

階段を上り切った所でぎくりと体を固まらせた。

部屋の明かりがドアの隙間から漏れている。

綱吉はごくりと喉を鳴らした。

消し忘れたんだと思う心は、部屋から聞こえる超高速のノッキング音に掻き消された。
きっとイラついているリボーンが超高速で指で机を叩いている音に違いない。

また黒曜ランドまで行ってしまおうかとも思ったが、報告しなければならないことがあるので綱吉は意を決してドアを開けた。

案の定リボーンが目にも留まらぬ速さで机を指で叩いていた。
油の切れたロボットのような動きでぎぎぎと綱吉の方を向く。
その顔面はびくびくと引き攣っていた。

「怖えええ!!!」

「遅かったなこの野郎ぶっ殺すぞこの野郎。」

綱吉は怖いのを必死で抑えて、そっと部屋の隅に正座した。

「あ、あのな、リボーン」

「何だよぶっ殺すぞ。」

「ちょ、待てって・・・!あ、あのね・・・俺その、けっこけっこけこけっこ」

「鶏の真似して誤魔化そうったってそうはいかねぇぞ!!ちょっと面白ぇじゃねぇか!!」

「鶏の真似じゃないし・・・!つか面白いのかよ!?」

愛用の銃をカチカチさせるのは止めて欲しいが、綱吉は思い切って口を開いた。

「あのさ!俺、骸と結婚してもいい・・・?」

「いいんじゃね?」

「軽っ!!」

嬲られるかもと思ったのに拍子抜けもいい所の反応をされて、綱吉は思わずだらしなく口を開いてしまった。

「つか別に骸とお前がどうなろうとどうでもいいし。」

鼻をほじった指を綱吉の通学カバンになすり付けながら、心底どうでもいいように言う。

「な、あ・・・」

愕然としたが、お許しが出たのだから喜ばしい。

綱吉はへらっと笑った。

「ま、お前らにしちゃ上出来だな。」

「う、うん・・・ありがと。」

「きめぇなぁ。」

ハンモックに乗ろうとしてたリボーンが頬を引き攣らせながら綱吉の方を向いたので、ぎくっと固まる。
見た目だけが小さな悪魔がじりじりと近付いて来る中、綱吉の携帯が鳴った。

「ぎゃああああああ!!!」

「るっせぇ!!」

「ぶっ」

驚いて叫び声を上げた綱吉をビンタで黙らせ、リボーンは携帯を取り上げた。

「お、骸からじゃん。」

「な、止めろよ・・・!見るなよ!!ぶっ」

「シャラーップ!!」

ハンモックから重力を利用して顔面を踏むように蹴り落としてから、
リボーンはまたハンモックの上に戻って優雅に携帯を開く。

「止めろよ!!」

綱吉が必死に嫌がれば嫌がるほど、リボーンは楽しそうににやにやする。

「えーっと、”欲しかったものはさっき受け取りました。”」

「へ!?あ、あれ・・・?俺何か渡したっけ・・・?」

携帯のディスプレイを目で追うリボーンは、次第にびくびくと顔面を引き攣らせていった。

「うっぜぇ!!!!!!」

「ぶふうっ」

リボーンが綱吉の頬に投げ付けた携帯はとんでもない威力を持って、綱吉ごと吹っ飛ばした。
余程うざかったのかと綱吉は壁に頭をぶつけながら何なく思った。

「こうなったらこうなったでマジうぜぇ!!!!!」

ハンモックをがくがくさせて小さな怪獣が暴れている。
綱吉はびくびくしながらも、先が気になってこっそり携帯を見た。
BGMはリボーンのうぜぇ殺すうぜぇ殺すのリピートである。

(”欲しかったものはさっき受け取りました。”)

瞬時に色々思い返すが、綱吉から骸に送ったものなんて意味不明の罵声ぐらいである。

綱吉は更に文字を目で追った。

(”僕がずっと欲しかったものは、”)

綱吉は目を見開いた。

「君ですううううううう!?!?!?!?な、え、ちょ、なあ!?」

綱吉はかあああと顔を赤くしてわたわたし始めた。

「え!?何言ってんだよ骸急に・・・えぇ!?なりすましメールとかじゃないよな・・・?」

携帯をひっくり返したりしてみるが、おかしな装置が付いている気配もない。

「むくろ・・・」

恥ずかしくて嬉しくて思わず名前を呟いてはっとして振り返った。

テーブルの上でリボーンさまが、青筋を浮かべて怒りのあまり体をぷるぷるさせていた。

「ちょ、待って、」

「待たねぇ!!」

ぴょーんと高く飛んだ逆光のリボーンが小さな拳を振りかざした。

「俺の鉄拳があああ唸るぜぇええええ!!!!」

「ごふ、」

リボーンにぼっこんぼっこんにされながらも、綱吉は必死にメールを打った。
どうしてもこれだけは、今すぐに伝えたい。

メールだから、顔を見たら言えないようなことも送ろう。
だって今日は特別な日。

送信完了の文字を見て、これでいつ気絶してもいいと、綱吉は幸せな気持ちになった。



(件名)
誕生日おめでとう、骸

(本文)
たくさん幸せにしてくれてありがとう!
返品は出来ないからな。
これからもずっとずっとずーっと、よろしくね。


お前の綱吉より!




2010.06.09
骸誕生日おめでとー!!!
早く結婚してねv
リボパパはあんなこと言ってますが、結婚式の日はべろべろに酔っ払ってあの時のお前らはとか言って
泣きながら絡み酒だと思いますw
綱吉もリボーンとかほろっとするけど、リボさまのご機嫌はジェットコースターなので
いきなりぷつっと来てざっけんなとか暴れ出すと思います。
きっとリボーンと一緒に家光も暴れると思います。
どうしようもないパパ二人です。
これからもきっと骸と綱吉がマイペース過ぎるが故に、周囲が波乱万丈になると思います(笑)
骸誕生日おめでとう!綱吉と幸せになってね><
ハッピーバスデイと言うかハッピーウエディングでいいと思います(真顔)