*運命のひと 会社員×大学生
淡い光の差し込むカフェの窓際に座る男は長く艶やかな髪を肩に流し、白い肌は淡く光を弾いていた。随分と綺麗な男の人だなと何となく思った。
目が合うと男が嬉しそうに笑ったので、思わずどきりと鼓動が鳴った。
長い睫毛に縁取られた赤と青の瞳と、夜の闇の様に黒いスーツが印象的だった。
「お先に失礼しまーす」
綱吉は店内の掃除を終えてから、まだカウンターの中で作業をしている店長に向かって声を掛けた。
お疲れ様、と柔らかい声がして店長が顔を覗かせたので、綱吉は微笑んで小さく会釈をしてから店を出た。
外に出ると夜空に丸い月が浮かんでいた。
吐く息が淡く白に染まり、綱吉はマフラーを巻き直すと足早に家に向かった。
アルバイトをしているカフェは、家から歩いて十五分程度だった。大学が終わってからバイトをする様になって半年。まだ一人前とは言い難いけれど、仕事にはすっかり慣れて楽しく働いている。
今の生活に不満はなかった。
離れて暮らす母親の事は心配だけど、怪我も病気もなく元気に生活しているし、大学で仲の良い友人も出来た。
ささやかで平凡だけど、幸せだと思っていた。
それが崩れる日が来るなんて、思ってもなかった。
白い息を吐きながら風をきって歩くと、コートから出た指先が冷えていく。指先を擦り合わせてから綱吉は何となく振り返った。
*ゆれる橋をわたる 会社員×大学生
山積みのダンボールの中に座って、綱吉は一息吐いた。
差し込む陽の光はもうすっかり橙色で、眩しさにそっと目を細めて窓を開けた。すぐ目の前に運河が通っていて、日を遮るものがないから見晴らしもそこそこいい。前のアパートで怖い目に遭ったから、ポストに入っていたチラシを頼りに慌てて捜したにしてはいい物件だと満足そうに一人頷く。
(ああ…ちょっと疲れたなぁ…)
大学の課題も残っていたし、片付けなんて全然終わってないけれど少しだけ、と綱吉は畳の上に寝そべった。前のアパートは八畳一間でフローリングだけだったけど、今回の部屋はフローリングと和室まで付いている。
満足満足、と綱吉は嬉しそうに畳を撫でて目を閉じた。
夢の世界に落ちるまで、そう時間は掛からなかった。
ガチャガチャ、と乱暴な音で目が覚めた。部屋の中はもう真っ暗だった。
(…隣かな…)
寝惚けた目を擦って電気を点ける。
ガチャン、と大きな音がしたので思わず体を跳ね上げた。
(と、となり…!?)
そうだとしたら随分音が漏れる。
バタバタとカーテンが強く靡いた。
(え…?)
玄関の方から廊下の電気の光が差し込んだ。
(え…!?)
バタン、とドアが閉まる音は間違いなくここの部屋のもので。
(ええ…!?)
当たり前のように向って来る足音も間違いなくここの部屋のもので綱吉は突然の事に固まって、ただただ怯えた様に近付いて来る足音を聞いていた。
「おや?」
目の前に現れたやたらと背の高い痩身の男は、綱吉の友達でも知り合いでもなんでもなくて、きっちりとスーツを着込んだその男は、綱吉を怪訝な顔で見下ろした。
「何ですか君」
綱吉は大きな目を零れんばかりに見開いて、ただただ呆然と口を開けたまま動けなかった。
*未必の故意 原作沿い未来
深い藍色に染まる夜の部屋には、無造作に開かれたノートパソコンの明かりと街灯の光が微かに届く程度だった。ディスプレイの強い光が骸の顔の陰影を濃くする。パソコンから流れるがちゃがちゃとした質の悪い音に混ざる綱吉の声は、微笑んでいるのが分かる程柔らかな声だった。傍受した電波に乗る話し相手の声も異常なまでに楽しそうに聞こえるから、苛立ちに任せて親指の先を歯で噛むとびり、と細胞の千切れる音がした。じんわりと血の温かさが舌の上に広がる。不意に会話が途切れて、画面が切り替わり寝室に入って来た綱吉が映し出されると、骸の表情があからさまに柔和になった。噛み締めていた指先を外すと、唾液が緩く光る。
*うるわしのデーチモ 名探偵×怪盗
沢田綱吉。またの名を怪盗]世。普段の彼は冴えなくてダメツナなんて呼ばれたりもするけれど、一度仮面とマントを纏えばまるで別人。空も飛べそうな程の身体能力を発揮する。不正で金を儲け弱者を虐げる者共から金品を奪っては弱い者へと贈った。だから]世はみんなのヒーローだった。ここで面白くないのは金儲けを企む者共。ヒーローの彼を正面から傷付けては民衆に潰されるのは目に見えている。そこで考えたのが警察の介入。義賊といえどやっている事は盗み。法で裁けるのだ。警察の中にも彼の味方はとても多いが面白く思ってない人間も一部にはいる。そして素性を探るのに白羽の矢が立ったのが名探偵六道骸。彼が関わった事件は全て解決、迷宮入りした事案でさえ難なく解いた。彼は報酬次第ではどんな事案も手掛けるので一部では悪魔と言われていたり、外道の極みとも言われているが、その見目は大変美しく、特に女性を中心に大層人気がある。