雨の日
帰り道に雨に降られた。しとしとと小降りだった雨はやがて霧の様に辺りを覆って無視して歩けなくなった。綱吉は鞄を頭の上に翳して家まで走る事にした。どこかで雨宿りする気もしない程、家は近い。
「わ!」
車のタイヤがばしゃりと水溜りから跳ねた水は綱吉のスーツを盛大に濡らした。目の前を横切ったのは白い塗装に赤いランプを乗せた救急車だった。反射的に顔を上げると近所の大きな病院がそこに建っている。サイレンを鳴らしていたのに気付かなかったなんて、もう少し走るのが速かったら轢かれていたかもしれない。救急車に轢かれるとか自分らしくて笑えない。水溜りの水に濡れるのも自分らしい。びしょ濡れになった綱吉ははは、と短く乾いた笑い零して走るのを諦め、鞄を下ろした。ここまで濡れたら走る意味もない。溜息と一緒に視線を落として、ぱちりと瞬きをした。上下した睫毛から雨粒が落ちる。
獣医さんと一緒
ふうんとさして興味もなさそうに獣医が言う。綱吉は恐怖の余り口元を引き攣らせた。獣医は名前を雲雀と言って頭に黄色の小鳥を乗せている辺り動物は好きなんだろうなと思うし、動物に接する態度はとても柔らかいので信頼は出来るのだが如何せん怖い。何が怖いと言われたら具体的には分からないのだが、取り敢えず怖い。肉食動物を目の前にした草食動物の様な気持ちになる。つかつかと歩み寄って来たのでまたびくっとするが、雲雀は綱吉を視界にも入れていなくてそれがまた怖い。うう、と思わず呻く位怖い。
「へぇ、珍しいね。赤と青のオッドアイなんて」
「え! お、おっど…?」
雲雀は言いたい事だけ言って綱吉の質問はまるで無視でちょっと泣きそうになっていると、近くにいた看護士が笑いを堪えながら「左右の目の色が違う事ですよ」と教えてくれた。