ひらり、はらり、と桜の花びらが舞う。
日本には四季があった。
春には桜、夏には白い雲、秋には落ち葉、冬には淡雪。
日本の四季は美しいと聞いたことがあったが、誰か聞いたのか、いつ聞いたのかなんて忘れた。
千種にはどうでもいいことだったから。
骸が仕えるに値すると判断した時から、骸の命令は絶対だし、千種にはそれしかなかった。
冷酷なまでに他者を拒絶する姿にほんの少し自分を見ている気もしたが
骸と自分が似ていると思ったことは一度もない。
比べる訳がない、骸が、絶対なのだから。
ひらり。
目の前を花びらが落ちていく。
小さな横断歩道の上を子供が歩いてくる。
小さな両手に、更に小さな手を繋いで取り囲む子供たちに引っ張られるようにして歩いている。
「ツナにい早く早く!」
「はやくー!」
「待って待って、急いだら危ないから!」
陽だまりのような色の髪をふわふわと揺らし、大きな大きな瞳が柔らかく笑う。
頬の淡い色が桜の色に似ていると言ったのは骸だった。
その言葉に些か驚いたのは、本当だ。
骸は他人に興味がないから、そんなことを言うとは思ってなかった。
それはおとといのこと、近くの公園の前を通り掛った時に
骸が赤信号で停止した車から突然降りて行った。
骸が衝動的な行動を取ることはなかったから、それにも些か驚いた。
車を歩道に寄せさせて、桜吹雪の中を足早に歩く背中を追った。
「骸様。」
呼び掛けるが反応はなく、くすんだ緑の金網越しに
骸の瞳はただ一点、子供を見詰めていた。
陽だまりのような色の髪、同じように柔らかな色を持つ瞳は笑って
今日と同じように子供たちに囲まれていた。
あの子供が欲しい、と骸は言った。
脆弱なその少年に、何の利用価値があるのか千種には分からなかった。
分からなかったけどでも、骸が欲しいと言うのなら差し出すまでだ。
車に戻るとシートの上にひらりと花びらが迷い込んで来た。
骸は珍しくその花びらに興味を示して指で撫でた。
「この色、あの子供の頬の色に似ていますね。」
花びらはシートに擦られて水分を散らして切れた。
骸がどんな意図を持ってその言葉を紡いだのか千種には見当が付かなくて、
うっかり声に出したような骸の言葉や行動は、さすがに千種も驚いた。
そこまでして骸が欲しいと言った少年は「沢田綱吉」。
公園の近くの施設に預けられている子供だった。
「おい!てめぇら綱吉さんの手を煩わせるんじゃねぇよ!!」
泣き喚く子供の声に千種はふと視線を動かした。
「は、隼人くん・・・!落ち着いて!!みんなもほら、泣かないで!」
自分よりも小さな子供を蹴散らす少年。
あれが「獄寺隼人」。
骸が邪魔だと言った少年。
骸は千種に隼人を監視しろと言った。
邪魔なものを排除するなら方法は他にもいくらでもあるだろうに。
風が強く吹いて桜が強く舞う。
薄い淡い色の吹雪に遊ぶ銀色の髪、深い緑の瞳は千種を見るとぎゅっと睨んですぐに顔を背けた。
けれど骸が監視しろと、そう言うのならそうする。
千種もまた興味がないように背を向けて歩き出した。
09.12.26
続きますv
ふと骸と千種がパパ友だったらかわいいと思いましたwww
骸の綱吉自慢を聞くだけ聞いたあとに「ウチの隼人は頭もいいです」とかぼそっと言ったりwww
そこからまた子供自慢大会がwwwwww