まだ熱を保ってしっとりと濡れる肌を合わせたまま、
綱吉はほとんど骸の上に体を乗せるようにして抱き締められていた。

骸は自分の胸に頬を乗せる綱吉の髪をずっと撫でて、時折くすぐるように髪にキスをした。

「・・・訊かないんですね。」

「ん?」

「俺が、六道さんを思い出したかどうか・・・」

「僕は、君が記憶を失くしたままでもいいと思ってます。」

目を見張って顔を上げると、骸はくすと笑った。

「記憶を失くしてもまた、君は僕を好きになってくれた・・・これ以上の幸せなどありません。」

「ろくど、さん・・・」

「僕にとって綱吉は綱吉だけだから、新しい思い出をたくさん作りましょうね。」

綱吉は泣き出しそうに何度も瞬きをして、小さく頷きながら骸の胸に顔を埋めた。
骸はそんな綱吉に何度もキスを贈り、ふと顔を上げた綱吉の唇にもキスを落とした。

「・・・でも俺、この瞳を見たことがある気がするんです・・・」

酷く近い距離で見詰める青と、赤の、瞳の下をそっと撫でると、骸は綱吉の唇に何度もキスをしながら言葉を返した。

「それはそうでしょう。ずっと、君を見ていたのだから。」

キスを繰り返しながら、骸は体を反転させて綱吉を体の下に敷いてしまう。

「この体温も、知っている気がするんです・・・」

「それはそうでしょう。愛し合ったことがあるのだから。」

か弱い足に手を滑らせて、骸は綱吉の中に体を差し入れた。

ついさっきまでさんざん交わっていたから、そこは難なく骸を受け入れて綱吉は切なく眉根を寄せると短い声を漏らした。

綱吉の爪先がひくりと揺れた。

「それだけ覚えていてくれたのなら、十分過ぎるくらいですよ・・・」

繋がった部分から粘着質な泡が弾けるような音を漏らしながら、
ベットを軋ませて体を擦り合わせる。

激しく体を揺らし続ければ、綱吉の濡れた唇から儚い声が零れ続ける。

「ぜんぶ、忘れてしまいましょう、怖かった夢も、ぜんぶ、」

「あ、は、あぁ・・・っ」

くすぐられるような声に綱吉は睫毛を震わせて、
骸の掌に勃ち上がったそれを緩やかに上下に扱われれば簡単に達してしまう。

腹の上に散る白い液体。

骸は「ね?」と耳元で囁く。

呼吸を乱して小さく頷いた綱吉の足を撫でて更に揺すれば、綱吉は体を仰け反らせるしか出来なかった。

敏感なところを強く擦るように奥まで入り込まれると、綱吉はひゃんと切ない声を上げた。

「ん、綱吉、」

体の中に放たれた熱と、吐息交じりの濡れた声に体を震わせて綱吉は骸にしがみ付いた。
宥めるように撫でられる体に、綱吉の心はじんわりと熱く滲む。

熱に浮かされたまま何度もキスをして、ふと骸が顔を上げた。

「今日はお友達が来る日でしたよね?」

「・・・え?」

綱吉は熱の籠った目でぼんやりとカレンダーを見上げてから、
指を折って日にちを数え始めた。

折る指が増えるたびに、綱吉の目はみるみる見開かれて顔を青くしていった。

「うわ・・・!ほ、本当だ・・・!!今日でした!って、時間過ぎてる・・・!!」

「ほらほら、そんなに慌てたらベットから落ちてしまいますよ。」

慌てて体を起こした綱吉は言った傍からベットから落ちそうになって、骸は綱吉の腰に腕を回して引き寄せる。
見上げるとすぐそこで骸がにこ、と笑うので、綱吉はかあと頬を赤くして俯いてしまう。

「あ、ありがとう・・・」

「どういたしまして。気を付けてくださいね、僕にとっても君はとても大事なのだから。」

覗き込むようにしてちゅと赤い頬にキスをする。

「部屋着、取り替えましょうか。」

ベットから降りるついでに下着とスラックスに足を通して立ち上がった骸の白い背に、
淡いピンクの筋が何本か浮き上がっていて、
すぐに自分がつけてしまった爪の痕だと気付いて綱吉は更に頬を赤くした。

「あ、の・・・せなか・・・」

「ん?」

骸は備え付けのクローゼットから綱吉の部屋着を取り出しながら、
真っ赤になって俯いて背中を指差す綱吉を見て、そして振り返るように自分の背を見て微笑んだ。

「ああ、爪の痕がついてますね。」

「痛くないですか・・・?」

「まったく。このくらい、何でもないですよ。僕は、君だけのものなのだし。」

赤くなる綱吉の額にキスをしながら、露わになった綱吉の体にそっと部屋着を着せる。

「君も、僕だけのものですからね?」

「う、うん・・・」

骸の長い指が丁寧に部屋着のボタンを留めていって、
頬を染めながらも大人しく骸に身を委ねている綱吉に骸はそっと目を細めて微笑んだ。

「今日はお友達は来ない?」

「あ、多分山本の部活で遅れてるんだと思います。大体、遅れてくるから・・・」

そう、と言った骸はボタンを留め終わると、くすぐるようにキスをした。
綱吉は恥ずかしそうにしながらも、キスに応えて緩く舌を絡めた。

不意にきつく抱き締められた綱吉ははっと息を詰めてから、骸の背中に腕を回した。

「・・・始めから、こうしたかっただけなんです、」

愛おしく何度も頬擦りをして、骸は更に綱吉をきつく抱きしめた。

「君に、泣いて怯える顔は似合いません・・・」

ようやく抱き締める腕から解放された綱吉はぷは、と息を吸い込んで
言われた意味がよく分かっていないように不思議そうにするが、
それでも頬を染めて微笑んでいる綱吉に、骸は嬉しそうに笑った。

「今、向かいの病棟で回診をしているようです・・・窓から出たら逆に目立ちそうですね。」

「あの、それならドアから・・・あ、それが普通か・・・」

頬を染めてふふ、と笑った綱吉に、骸も笑った。

「これからは・・・先生に見付からないように、ドアから出入りして欲しいです・・・」

「お友達やお母様と鉢合わせてしまうかもしれませんよ?」

綱吉ははい、と言って真摯な瞳で骸を見上げた。

「始めは、もしかしたら理解して貰えないかもしれないけどでも、俺はもう・・・六道さんとのこと、隠したくないんです。」

「後悔、しませんか?」

綱吉は改まって強く頷いた。

「はい。」

ベットの縁に腰を掛けた骸はそっと綱吉の手を握った。

「・・・ありがとう。また明日、来てもいいですか?」

「・・・待ってます。」

手を握り合い、何度もキスをしてから骸はゆったりと立ち上がった。

「それでは、また明日。」

「また明日。」

扉が閉まるその瞬間まで小さく手を振り合って、微笑み合った。


音も立てずに扉が閉まる。


踵を返した骸の黒いコートが静かに翻り、
光を弾いて延びる白い廊下にこつりと黒い革靴の音が響いた。


首に緩く巻いた黒いストールがゆったりと靡く。


廊下の奥から二人の青年が言い合いながら歩いて来ていた。


骸に気付かずに、銀髪の青年がおっとりと笑う青年を小突いた。


こつり、と革靴の音が、一歩を踏み出す毎に廊下に響く。


二人の青年の間にロングコートが翻る。


擦れ違い際、青年の瞳に骸が映り込み、ゆったりと瞳が骸を追う。


見上げた先で骸もまた長い睫毛を伏せて青年を瞳に映し込み、


笑った。


赤い瞳が、一際目立つようにゆったりと光りを弾いた。


そのまま行き過ぎた骸の背を、二人の青年は振り返って見ていた。


「ツナの知り合いにあんなひといたっけ?」


病室に入るなり、山本はベットの縁に腰を掛けた。

「なぁツナ、今ここから出て行ったひとって、」

「え!?あ、あのね・・・!」

まさかそんなすぐに骸と出会ってしまうとは思ってなくて、
綱吉は頬を染めて慌てて、首元の鬱血に気付いてまた慌てた。

頬を赤くしていた綱吉は、険しい顔をして考え込むように花束を見詰める獄寺にふと意識を奪われた。

「・・・どうしたの?獄寺くん。」

獄寺はいえ、と言ってからまた口を開いた。

「・・・少し前に、沢田さんにすげぇしつこくしてた奴がいたんすけど、
そいつも嫌がる沢田さんに花を贈ってたなと思いまして、」

「え・・・?」

獄寺が言うと、山本も観念したような苦笑い浮かべた。

「この間、知らない奴がうろついてないかって言っただろ?」

「うん・・・」

「そういうことなんだ。俺らの思い過ごしならいいんだけど、ツナが怖がってるように見えたからさ。
あんまり余計なこと言って、かえってツナを怖がらせちまったら申し訳ねぇから言わなかったんだ。」

「勘のいい野郎で、俺らが張ってるときとかは一切姿を見せなかったんすよ。
だからそいつの顔を知ってるのは沢田さんだけなんです。」

「・・・まぁツナがそのときのこと覚えてねぇなら、思い出さなくていいと思うぜ。」

「なぁ・・・!!てめぇのん気なこと言ってんじゃねぇよ!!今も野郎はどこかにいるんだぞ!!」

初めて聞いた話しに赤と黒が脳裏を過ぎり、どことなく体の底を冷やすような感覚を覚えたが、
きょとと瞬きをしたあとに綱吉はみるみる頬を染めて慌て出した。

「も、もしかして六道さんのこと言ってるの・・・!?さっきすれ違った!?」

「六道って言うんすかあの男!!」

「なぁ!!ろ、六道さんはそんなひとじゃないよ!?」

「締めていいっすか!!」

「ひとの話し聞いてる!?あのね、六道さんは俺を病院に連れて来てくれたひとなんだ!!
それにその話し、俺の勘違いじゃない・・・?」

「え?」

「や、だって俺、そんなに好きになって貰えるような人間じゃないし・・・」

「はは、ツナらしいな!」

「そ、そうかな・・・」

「ツナがそう言うんなら、俺は信じるぜ。」

「てめぇずりぃぞ!!俺もコイツより沢田さんのこと信じてますからね!!」

「ありがとう・・・二人とも・・・六道さんのこと、今度ちゃんと紹介するね。」


そう言って綱吉は淡く頬を染め、幸福そうに微笑んだ。


花束から落ちただろう一輪の花は、気付かれもせずに黒い革靴に踏まれ
持ち上がった靴底から潰れた花が無残に落ちた。


黒いストールの影で骸もまた幸福そうに微笑んで、そして幸福そうに呟いた。





「やっと捕まえた。」





2010.04.10
のどあめさまに捧げますvvv

骸は病室という舞台で見事に演じ切り
見事綱吉を手に入れました、という意味で題名を付けました。(言わなきゃ分からない)
どきどきは怖くてどきどきしてても、記憶がないなら恋と同じどきどきと思ってしまうんじゃないかと思いました。

この骸は頭のいい人で、自分に一般的な常識が物凄く欠けていることを自覚した上で
それと分からないように振舞って社会に溶け込むことが出来る人だと思います。
でも綱吉に猛烈な一目惚れをしてしまって一切合財ぱーんと飛んじゃって、
顔見知りになる前にもにゃもにゃしてしまって、
これで綱吉は僕のものvとか思うけど怖がられちゃって(当たり前です)
でも笑って欲しくてお家までお花持って行ったり勝手に家に上がって恋人っぽくお掃除とかしてみたけど
もっと怖がられて(当たり前です)終いには友人がボディーガードを始めて
何だ邪魔だなあいつら消しちゃおうかなとか思うけど、
そこでようやく冷静な骸がちょっと出て来て、それでは綱吉は笑わない?と思い至って
色々計画してみたのだと思います。
でも骸は何だかんだでつなたんのことは大事にするかと思いますv
過程がちょっと・・・ですが・・・ね