飴色の光に照らされたそこは、まるで楽園。


きらびやかな音楽の底に流れる優しいオルゴールの音。


一層浮かび上がるのは陶器の白馬に
金色のポール。
御伽噺のような馬車には赤いビロードのソファ。

幼い頃に見たものよりも
泣きたくなるくらい綺麗。

吸い込まれるように足を一歩、出す。


「おやおや、ここはあなたの夢でしたか。」


背後から響いた声に音楽が一瞬、
不協和音を紡ぐ。

綱吉は振り向きもせずに顔を歪めた。
嫌になるくらい聞き覚えのある声は、一番聞きたくない声だった。
目の前には、綺麗なものがあるというのに。


「何、骸。何か用?」

「釣れませんねぇ。」


不意に目の前に骸が現れて、視界が遮られた。
音楽が乱れ始める。
酷く不快な音階だった。


「邪魔だよ、骸。」

「何処に行くのですか。」

「お前には関係ない。」


避けて通ろうとしても、上手く歩けない。
歯痒くて綱吉は眉根を寄せた。


「止めろよ、何がしたいんだよ。」


骸は独特の笑い声を洩らすだけで応えない。

骸は苦手だ。
何時も人を小馬鹿にするように笑ってる。


不快な音を消すために耳を塞いだ手を、骸が引き剥がす。


「止めて、耳が痛い。」


逃れるように腕を捻るが、強く握り込まれてびくともしない。
骸の背後で回る、あそこに行きたいだけなのに。


「沢田綱吉、あなたは愚かだ。」

「だから何だ。お前に関係ないだろ。」

「愚直で、弱くて、そのくせ意地を張りたがる。」

「煩い・・・」


逃げたくて体を思いきり引くけれど、骸がそれを許さない。
耳が痛い。
目が回る。


「誰も愚かなあなたに
期待などしていませんよ。」

「だから何だ・・・!」


きつく睨み上げても、骸は笑うだけ。
いい加減腹が立って腕を振り上げる。
振り上げた腕は強く引かれて、体が骸にぴたりと張り付く。
真上を見れば骸が自分を見下ろしている。


「あたなは自分の辿る道から逃れられない。」

「だったら、何だよ・・・!」


「それなら愚かなあなたは、愚かなままでいればいい。」


甘い光に照らされる骸は、
それこそ造りもののように×××


「それ以上は何も、誰も、望んでいませんよ。」


耳をつんざくガラスの割れる音と一緒に、流れる景色が割れて落ちていく。


現れたのは真っ暗な世界。
ここには音もなくて光もなくて骸しかいなくて。

だけど体温はあって。


すぐそこの唇がゆっくりと動く。


「こちらの世界でメリーゴーランドは、精神の崩壊を意味します。近付かない方がいい。」


骸は苦手だ。


「まぁ、頭の弱いあなたなら幾日か過ぎれば忘れてしまうでしょうけど。」


何時も人を小馬鹿にするように笑ってて


「どうでもいい事ですが、僕は」


そのくせ灼け付くような目で見詰めてきて


「僕は、あなたがいないと、
生きてはいけない――」


眩暈がする言葉を吐くから



狡い、と綱吉が呟く頃には唇の距離は僅か数センチ。


何時もの胡散臭い笑みを浮かべた骸が「光栄です」と返した時にはもう唇が触れていた。


夢の筈なのに、確かに体温がここにあって、
他には何もなくてでも、
骸はここにいて。

それでもいいかな、と、綱吉は少しだけ思った。










08.12.23
ツンデレ綱吉と感じ悪デレの骸。
感じ悪いくせにデレデレしてるのが節々に垣間見える感じ悪デレ(ナンダソレ)