ここに来るまでの間にすれ違ったカップルは数知れず、
イルミネーションの光の波は一層際立っていた。


煌びやかな街とは掛け離れた線路下、
光の波と言えば行き過ぎていく電車の光、そこが綱吉と骸の目的地だった。


赤い提灯にくたびれた屋台、椅子を跨いでから座れば、
柔らかな出汁の香りがする。


「クリスマスに男二人なんて寂しいねぇ。」と主人の軽口も慣れて
「ちょっと残業ついでに」と綱吉は笑って答えた。

注文するものも大体決まっているので、座ると自動的に出て来る辺り
通い詰めるにもほどがあるなと内心苦笑する。

綱吉は隣をちらと見遣る。

長い睫毛を伏せて酷く真面目な顔でつみれを綱吉の器に乗せている。
今日はつみれの気分じゃないらしい。

骸に好き嫌いがあまりないのを知っているのは綱吉くらいだろう。
けれど気分じゃないものは口にしないので我儘なのは我儘なのだと思う。

「あ!お前なに人の白滝取ってんだよ!」

「つみれあげたじゃないですか。」

「欲しいとは言ってないから!」

「煩いですねぇ、頼めばいいでしょう?」

「お前がな。」

そんなやり取りもいつものこと、万全を期してアルコールは取らないので
今日も温いウーロン茶で乾杯をする。

「骸、卵食べる?」

「食べます。」

「ごめんね、今日は残りひとつなんだよ。」

「そうなんですか。じゃあ半分こしよう。頭と尻尾、どっちがいい?」

「・・・どちらが君で言う頭なのですか?」

「ん?細い方、何となく頭っぽくない?」

「どうでしょうね。ちょっと、合わせ箸しないで貰えますか。」

「だって滑って危なっかしいから。前から思ってたけどお前本当は何人?宇宙人?」

「何で地球外生命体なんだ。」

「合わせ箸がよくないことくらい知ってる。でも骸だからいいじゃん。」

「ほとほと失礼な人間ですよね。」


無事に半分に割れた卵の黄味が、縁に光を散らした出汁に緩やかに溶けて広がった。


線路をガタゴトと鳴らして通り過ぎていく電車、他愛のない会話の邪魔にはならない。


馬鹿みたいにはしゃぐ声の人たちの中にサンタクロースの帽子が見えた。


クリスマスだねぇと呟けば、骸は溜息を落とした。


緩やかな会話が次第に小難しい話しになるのはいつものことで
大体が綱吉の弱音になるから、綱吉は話しを逸らそうとするが骸は許さない。


「だから君はもっと周囲の人間を利用するべきですよ。」

「・・・俺、そういうの好きじゃない。」

「好きか嫌いかではない。そうしなければならないんだ。君のいる世界はそういう場所だ。」

「俺は、」

「君は、」

被せるように強く言った骸をはっと見上げれば、酷く不機嫌そうな顔をしていた。
不機嫌というよりは、ただ拗ねているようにも見えて綱吉は大きく瞬きをした。

「もう少し・・・僕を頼ってもいいと思うのですが。」

綱吉は目を見張ってから、思わず視線を落として手元を見詰め、
言葉を探すように瞳を彷徨わせてから、ようやく呟くように唇を動かした。

「・・・頼ってるよ。骸くらいだよ、こんな話しするの。」

ほんの少し落ちた沈黙は、半透明のビニールの暖簾を分けて入って来た客の声に消された。

「もう満員?」

「あ、俺たちもう出るので、」

そう言ってスーツの内ポケットに手を入れると、その手をがっちりと掴まれる。

「君には払わせません。」

「いっつもお前持ちなんだからさ、たまにはいいだろ?これくらい。」

「そういう訳にはいきません。」

「何でだよ。」

「自分で考えろ。」

「何お前ウーロン茶で酔っ払ってんの?」

煩い、と腕を抑え込んだところで骸はふと表情を失くした。
そして項垂れそうな勢いで額を押さえた。

その横顔には「僕としたことが」と書いてあるようだった。

綱吉はぱちりと瞬きをしてから堪え切れずに吹き出した。

「いつもカードだからな。今日はいいだろ?俺が出すから。」

「そういう訳にはいかないと言っているでしょう?」

「あ!お前”一”にして何しようとしてんだよ!?」

鮮烈な赤の中の文字が”一”になったところで主人が笑い出す。

「本当に仲がいいよな。今日はツケでいいよ。」

「え、でも・・・」

「いつも来てくれてるからさ。」


いいクリスマスを、何て白々しく揶揄する声に笑った。



まったく何も関係のない世界で得られた小さな信頼は、
ほんの小さな一歩を踏み出す勇気にもなり得るのかもしれない。


並んで歩く道で、綱吉が冷えた空気を小さく息を吸ったところで骸が笑い出した。


「ボンゴレのボスがたかだか数千円払えないなんてね。」

「お前もだろ。」


擦れ違う人も気にせずひとしきり笑ってから、
綱吉はそっと息を吐いて頬を滲ませた。


「あのさ、骸、」

「はい?」

笑いを引き摺った表情で綱吉に視線を落とした骸は、
頬を滲ませた綱吉に目を見張った。

「今日はこのまま、その、俺の部屋に泊まっていけば?」

思わず足を止めた骸の瞳はただただ戸惑いの色を滲ませるだけで
綱吉はほんの一瞬悲しげに眉尻を落としたがすぐにふいっと顔を逸らした。

「勘違いするなよ!」

言って歩き出した綱吉の背に、骸の瞳は無防備な悲しみを含ませた。

「俺は友達としてとかそういう意味で言ってるんじゃないからな!ましてや守護」


引かれた腕に驚いて目を丸くして振り返ったら、骸の顔がすぐそこにあって
自然に閉じた瞼の奥がじわりと熱くなった。




長いキスの間に、何本もの電車が頭上を通り過ぎて行った。




09.12.25
お互い好意を持っているのは何となく分かるけど
一歩が踏み出せないまどろっこしい大人骸ツナも好きですv
大人だからこそ踏み出せないというか・・・
でも無事お持ち帰りですねw
帰り道にその辺でケーキ買って帰ればいいと思いますv
クリスマスプレゼントはお互いですね!ばかっぷる!!骸ツナっぷる!!(※ばかっぷる)
贅沢な食事に飽きて屋台とか定食屋に仕立てのいいスーツのままで
食べに行くような骸ツナも好きですw
いい店見付けたから、とか言って誘うけどまぁ口実ですよねwww
この二人の結婚記念日はクリスマスかしら。