思った以上に股関節が言う事を聞いてくれなくて、どうしてもガニ股になるから電話とパソコンで済ませられる仕事を優先にしてホテルに篭った。
朝食を運んで来たいつもの客室係が、ぐったりとしている綱吉を慈愛に満ちた目で見ているような気がする。昨夜の骸とのことがバレているんじゃないかと被害妄想に駆られ、叫びだしそうになった。

寝室に転がっていたティッシュというティッシュは、なるべく見ないようにして厳重に袋に詰めた。
もしかしたら夢だったんじゃないかと思いたいが、股関節の痛みがそれを許してくれない。トイレに行った際にはオイル状のモノが有り得ない箇所から出てきたので、頭を抱えた。
というか、どこから持って来たんだ!ゴム状のものも!!
暴れたくなったが暴れた所で何の解決にもならず、答えも出ないので頭を抱えるに留まった。

クロームに電話を掛けて変なことを言わなかったか、しなかったかを確認したいのだが、出てくれなかったら地味にへこむので止めた。それにそういうのは直接話すべきだ。

綱吉はちらりと携帯を見た。
その瞬間着信があったのでびくっとする。

そろりとディスプレイを見るが思っていた人物と違って、ほっとしたようながっかりしたような気持ちで電話に出た。

短く話して切って、溜息を吐いた。

(骸…)

まさか出て行くとは思わなかった。
それなら電話くらいしろよと思うが、掛かってきたところで何から話していいのか分からないので混乱しそうだし、自分から掛ける勇気もない。

もう一度深く溜息を吐く。

どうしてそうなったのかさっぱり覚えてないのだが、体を許し合った事実はあるのだから、もう少し何かあってもいいんじゃないかと思う。骸はドライ過ぎる。
綱吉はムッと不機嫌に口を尖らせてから、ハッとした。

(いやいやいや別にイチャイチャしたいとかそういうんじゃ)

そこまで思ってかぁと顔を熱くして、逃げる様にソファのクッションの下に頭を潜らせた。

一人でいても気が気じゃないし、そろそろ本部に行かなければならなくなったので綱吉はよたよたと立ち上がった。

羞恥と股関節付近の筋肉痛に苛まれて、更によたつきながら部屋の外に出る。
廊下の反対側の壁まで一気によたついて挙句ぶつかり、その場にべちゃっと座り込んだ。
身辺警護の部下が風のように駆け寄って来て銃を抜き、部屋の中に突入しようとするものだから、止めてくださいお願いします!!と土下座ライクにお願いしたほど必死だった。骸とのことがバレたら恥ずかし過ぎて行方不明になりたくなる。

絶対に部屋に入って欲しくない旨を必死に説明し、体調も頗るいいと言いながらも両脇を抱えられて引きずられるように裏口からホテルを出る。
もう威厳もクソもない。

乾いた笑を浮かべながら本部に辿り着いた時、ちょうど入口からクロームが出て来るのが見えて綱吉は身を乗り出した。

「クローム!」

窓を開けて声を掛けると、クロームは綱吉の方を見て足を止めた。
ボス、と口が動いて柔らかく微笑む。
綱吉は正直ほっとした。笑いかけてくれるなら、妙なことはしていないだろう。
綱吉はほんの少しだけ安心して、車を降りた。

「昨日はお疲れ様」
「ボスも…」

綱吉はうん、と笑ってから居住まいを正した。やっぱり緊張する。

「あー…あの、さ…昨日、オレはクロームに、その、セクハラ…しなかった?」

綱吉はごくりと息を飲む。クロームが大きく瞬きをした。

「ボスが…私に…」

綱吉は神妙な面持ちでこくんと頷くが、心中穏やかではない。口から心臓が飛び出そうだ。

「人気のない部屋に連れ込んで服の中に手を入れたり…体を直に触ったり…」

ざあああと血の気が一気に足のつま先まで引いた。
これはもう土下座なんかで許されない。死だ、死。死を持って償うしかない。
一気にそこまで覚悟した。

「してない」
「してない…!!!」

綱吉は思わず同じ言葉を繰り返し前のめりになった。今度はクロームがこくんと頷く。

(よ、よかった……)

妹のように思っている嫁入り前の女の子にそんなことしてなくて本当によかった。安心し過ぎてちょっと涙目になった。

そこで綱吉は骸を思い出してどきんとした。そろっと頬を掻いて誤魔化す。

「そう言えばさ、骸って昨日のパーティーには参加してなかったよね?」

クロームはこくんと頷いた。

「骸様は」
「おい!ブス女!遅ぇびょん!」

少し離れた所から犬の声がして、二人共はっと振り向く。

(あ、)

綱吉は犬を見て何か思い出しそうになった。

「ごめん、ボス…私、行かないと…」
「あ!うん、引き止めてごめん」
「二時間後には戻る…」
「じゃあ、その時話そう」

クロームはまたこくんと頷いて、犬の元に走って行った。

(あー…なんだっけな〜)

記憶が出て来るんじゃないかとこめかみを叩いてみたが、響くだけで何も出て来ない。

綱吉は髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回し、うーんと唸りながら廊下を歩く。
すれ違う部下に二度見されても気付きやしない。


201307.02
続く!