綱吉は学校から帰るとすぐさま部屋の掃除に取り掛かった。

元から掃除は好きじゃないし、得意でもない。
ゴミの山のどこから手を付けていいか分からなかったので、山本に相談してみた。

綱吉の部屋の汚れっぷりよ知ってる山本は
「いらねーもん捨てればいい!」と綱吉にも分かりやすく教えてくれた。

なのでとりあえず90リットルのゴミ袋を用意して
気合いを入れてハチマキをした。
日常生活で気合いを入れるのはいつぶりだろうなんて
やる気がなくなるような事は考えないようにする。

「よし!」

片っぱしからゴミを袋に放り込んでいく。
生ゴミが多い気がしないでもない。
全くどうかしてたよと、綱吉は一人ふふふと笑う。

この際だから着てない服も捨ててしまおうと考えながら
ゴミ袋を引き摺り部屋を歩き回る。

「お、掃除してんのかよ。UFOでも降るんじゃね?」

「降らねーよ・・・っ!」

自主的に掃除をしているのが余程嬉しいのか
リボーンはにやにやと笑いながらハンモックへ飛び乗った。

稀に褒める時も暴力で褒めるのに、
リボーンはにやにやしたままハンモックを揺らしている。

(・・・機嫌いいな)

きっと昨日の夜がとても楽しかったのだろうと綱吉は思った。
学校でも山本と獄寺に昨日の話しを聞かされて
ヨダレが垂れそうなほど、実際ちょっと垂れたくらい羨ましかったから
リボーンの話しまで聞きたくなくて放っておいた。

「急に色気付いちまってよぉ。」

まだにやにやしている。

「は、はぁ?色気?」

リボーンの言う事はいつもおかしいので綱吉は気にしないで掃除を続けていたが、
リボーンは茶々も入れずに見守っている(にやにやしながら)

(何か・・・変だ・・・)

ちらりと見上げて目が合うと、リボーンはにやりと笑うので
綱吉は思わず後ずさった。

「な、何だよ・・・」

「昨日どこまでいった?」

「は?」

どこまでと言っても、昨日は家にいたではないか。

「照れんなや!俺とてめーの仲だろ!」

「ええ!?」

今日のリボーンは格段におかしい。

「で、どうだった?」
 
「どうって・・・」
 
至って何時も通りで、変化があったといえば骸が玄関から入って来た事と
綱吉がベットから落ちたくらいだ。
 
困惑する綱吉にリボーンがにやっと笑い掛けたので
綱吉も釣られてへらりと笑った。

へへへへふふふふと笑い合う。
 
「悦かったみてーだな。」
 
「よかった????」
 
心底分からない様子できょとんと首を傾げる綱吉に
ご機嫌だったリボーンのベビーピンクの唇がみるみるうちに引き攣っていった。

「・・・まさか、何もなかった、とは言わねぇよなぁ?」

綱吉ははっとした。
もしかしたらリボーンなりに心配してくれているんじゃないだろうか。

「何もなかったよ!骸もすぐ寝たし、俺もちょっとだけど眠れたし・・・!」

嬉しくなって伸び上がるように笑顔で報告すると、
愛らしいリボーンの唇から一直線に床を目がけてツバが飛んできた。

「ぎゃっおま・・・!何て事ぐふぁ・・・っ!!!!!」

リボーンの踵が重力を利用して綱吉の脳天を直撃した。

「マジウゼェしゃらくせぇ。俺は出かける。ママンにメシはいらねぇっつっとけ。」

出て行く合間にぺっとツバを吐く。

「ツバ吐くなよ・・・っ!!」

抗議は当たり前のように無視された。

(何なんだよアイツ・・・)

リボーンの機嫌を損ねた理由は分からないが
そんな事を気にする綱吉でもない。

再び掃除に取り掛かった。



始めてしまえば懲り出すのはA型の性なのだろうか。
床も磨いて窓まで磨いた。

(俺の部屋ってこんなに広かったんだ・・・)

感動すら覚えた。

結局ゴミ袋は五枚も使った。
タンスを整理したらずっと前に奈々から渡されて存在すら忘れてた
新しいベットカバーが出てきたのでついでに取り換える。

布団も干したかったが、日が暮れ始めてたので諦めて埃をはたくだけにした。

(今度の休みに干そう。)

綱吉らしからぬ前向きな思考も働いた。

(掃除っていいかも・・・)

酷くすっきりした気分になって、清々しかった。
骸の上着用のハンガーをベットの近くの壁に掛けて
全部終わる頃には調度夕飯時になっていた。
後は骸を待つばかりだ。




夕飯が終わってもリボーンは帰って来なかった。
顔を合わせたら殴られそうな予感がしたので早々に部屋に戻った。

綺麗になった部屋の真ん中で、綱吉は正座をしている。

(骸何か言うかな・・・いや、言わないよな・・・でもこんなに綺麗にしたんだし、いやでも)

「一人言はボケますよ。」

「む・・・っ!」

考え事に没頭するあまり、窓が開いたのも気付かなかった。
知らずにぶつぶつ言っていたようで、綱吉は気まずくなりうっすらと頬を染めた。
骸はふい、と顔を背けると部屋に視線を這わせた。

「部屋。」

「え!?」

恐らく「掃除したのか」とかそういう言葉が続くのだろうが、
骸はそれ以上口を開く気配がなく、凍て付く目で綱吉を見下ろしている。

メシ、フロ、しか言わない亭主関白のようだ。

「ど、どうかな・・・」

部屋を掃除してどうもクソもないが、珍しく骸が話し掛けてきたので
会話を続けてみたくなった。

「未確認生物がいそうな部屋でしたよね。」

(こ〜の〜や〜ろ〜)

けれど頷ける部分が大きいので綱吉はぐっと堪えた。

骸はいつものように上着を脱ぎ捨てかけてから
思い留まったように指に引っ掛け直した。

(あ、ハンガー使ってる・・・)
 
骸用に掛けておいたハンガーに気付いたようだ。
上着を掛けながら肩越しにキッと綱吉を見遣れば
綱吉は斜め上空にばっと視線を逸らして見ていない風を装った。
 
「君が住んでいるとは思えないほど部屋は整ってますね。」
 
「え!?」
 
驚いて振り返ると、骸は綱吉の方は見ずにベットに滑り込んでいた。
 
(ほ、褒められた・・・?)
 
前半部分が気になるし、結局部屋を褒められたのだが
正直ちょっと嬉しかった。
 
(あれ・・・)
 
ベットに収まった骸は定位置ではなく、
いつも綱吉が寝ているベットサイドに体を置いて、壁の方を向いていた。
 
部屋も綺麗になった事だし、いよいよベットから締め出されたかと
綱吉は引き攣った笑みを浮かべた。
 
これで大手を振って下で眠れる筈だが、
もう下で寝るという選択肢がなくなっている事に
綱吉自身気付いていなかった。
 
「あの〜・・・骸さん・・・俺はどこで寝れば・・・・」
 
無理矢理押しのけて侵入してもよかったのだが
ベットの奪い合いで命を落としては、死んでも死に切れないので止めておいた。
 
骸は振り向きもせずに「ここ。」と強く言って
昨日まで骸が寝ていた所をトントンと叩いた。
 
「空いてるでしょう?」
 
確かに空いてるといえば空いているが
壁と骸に挟まれる圧迫感といったらない。
 
(何でそっちに・・・あっ!)
 
綱吉は昨日ベットから落ちた事を思い出した。

「あ、ありがとう・・・!」

咄嗟に出た綱吉の言葉に、
骸は振り向きもせずに鼻を鳴らした。

「勘違いしないで下さい。夜中に気味の悪い声で目覚めたくないだけです。」

綱吉の胸の中に確信めいたものが広がっていって、
温かくなって、
骸が振り向かないのをいい事に
綱吉は顔を綻ばせた。

「隣、いってもいい・・・?」

最早どっちのベットか分からないが、
あんなに狭い所に突然入っていくのは気が引けた。

「・・・どうぞ。」

少し間を開けて骸が呟く。


さすがに骸を跨ぐ気にはならなかったので
足元に回ってからよじ登った。

布団にもぐり込むと、骸の体温で温かくなっていた。

「お、おやすみ・・・・」

無視されても構わないから自己満足で呟くと
目を閉じたままの骸が
眠る直前の呼吸で「おやすみなさい。」と返してきた。


綱吉は大きく目を瞬いて、布団を口元まで被ると頬を淡く染めた。



骸がすぐ隣で眠っている。




やっぱり今日もドキドキと緊張して眠れなかった。








09.01.14                                                               四日目