鈍い痛みに引き上げられるように意識が覚醒していって
重い瞼を持ち上げると、辺りはもう薄暗かった。
たったこれだけの痛みで済んでいるのだから、
骸が存分に手加減してくれたのは分かる。
だけど、素直に喜べない。
ゆったりと体を起こすと、腹の奥に鈍い痛みが走って、
泣くほど痛い訳じゃないのに、ぽろりと涙が落ちた。
「お、何だよクソツナ。帰ってたのかよ。」
部屋の扉が手加減なしに開かれて、それでも綱吉は薄暗い部屋の中で
ベットの上に体を起こしたまま固まっている。
「おいチクショーどうだったんだコノヤロウ!」
ご機嫌なリボーンがベットに飛び乗ると、綱吉はぽろぽろ涙を流していた。
「あ?」
「帰って来るの早かったかな〜」
「・・・裏から回れば問題ない。」
犬と千種は並んで黒曜ランドの門をくぐった。
犬はそわそわと落ち着きなく歩く。
「上手くいったかな〜」
「・・・ひとつに二瓶入れたからね。」
「鬼畜らな〜!!れも事実を作っちゃえばきっと骸さんも素直になるよな」
「・・・それで利かないなら、」
カツー・・・ン、
少し遠くで皮靴の音が響いた。
「骸さんら!」
「・・・ボンゴレ帰ったのかな」
カツー・・・ン、
確実に静かに近付いて来る足音に、何故か身震いがした。
「・・・あのさ〜、何か逃げた方がいい気がするんらけど、」
「・・・俺もそんな気がする、」
二人は顔を見合わせると一気に駆け出した。
*
「骸・・・!?」
手を弾かれて、綱吉の手からきらきらとチョコレートが飛び出した。
オレンジの箱は緩く回転しながら草むらへと落ちていく。
綱吉は突然の事に驚いて大きな目を更に大きくして骸を見上げた。
「今すぐ吐き出しなさい。」
些か乱暴に肩を掴むと綱吉が「ひぁ・・・!」と切ない声を上げたので
骸はばっと手を離した。
「あ、れ・・・?なん、か、・・・」
綱吉は潤ませた大きな目を伏せて微かに小さく震えていた。
頬は目に見えて赤く染まり、小さな唇は細かく息を吐きだしている。
骸は小さく息を飲んだ。
これは吐き出させても意味がないと悟った骸は
水分をたくさん摂らせて薬を薄めようと踵を返した。
「・・・!」
建物に向って行こうとした骸の腕を、熱い手が掴んだ。
「・・・行かないで・・・、」
苦しげに背中を丸めた綱吉の伏せて潤んだ瞳の縁がきらきらとしていて
震える呼吸を繰り返す唇は赤く色付いて濡れていた。
「・・・!」
これはもう駄目だと思った。
だって骸も男なのだし。
随分乱暴に手を握られて、綱吉はそんな状態なのにうっかり胸をときめかせて
濡れた瞳を上げた瞬間、
「沢田綱吉、」
すっかり正気を取り戻した。
正面からモロに食らった全てを凍て付かせて破壊し尽くすほどの苛烈な殺気。
毛穴という毛穴が開き切って悪寒を通り越した発汗に、魂さえ出て行ってしまうんじゃないかと思った。
「歯を、食い縛りなさい」
言われなくてももう準備は整っていた。
ついでに目をぎゅっと閉じた瞬間、
目の前にきらきらとお星さまが散った。
*
「具合、悪くなって、骸に、甘えちゃった、ら・・・な、殴られ・・・」
「ああああ!?」
「ここまで運んでくれた、みたい、だけど・・・」
しゃくり上げていた綱吉は、もう形振り構っていられずに、わぁ、と泣きだした。
「やっぱり骸、俺の事嫌いなんだよ・・・!」
ランボみたいにわぁわぁ泣く綱吉を見ながらリボーンの顔面は盛大に引き攣っていた。
具合が悪くなったと思っている綱吉も綱吉だし、
殴って気絶させて強制終了する骸も骸だ。
「うぜぇ・・・」とリボーンは口をびくびくと痙攣させた。
あいつら今頃ボコボコだな、と隣町の空に思いを馳せて、
リボーンにしては珍しく同情なんかしていた。
それでもそんな心配症の三人を他所に、今日も綱吉の部屋には人影が。
「体、大丈夫ですか」
なんて、全く心配していなさそうな仏頂面でそっぽ向いたまま言っても綱吉は
「うん・・・!・・・俺こう見えて結構頑丈だし、」って、淡く頬を染めて言ったりして、
そして今日も骸がベットサイドの定位置で
「手、」
「う、うん・・・」
枕の上にちょこんと出た小さな手に、大きな手が重なるのです。
「おやすみ・・・」
「おやすみなさい。」
今日も仲良く並んで眠ります。
だって二人で眠ればとってもいい夢が見られるから。
おやすみなさい
fin.
09.04.19
長々とお付き合いありがとうございました><
骸はキメる時はキメると思います!ツンツンしながら(笑)
男前ツンデレ骸。亭主関白ツンデレ?黙って俺について来い的な。
その後を綱吉がちょこちょこ付いて行けばいいと思います!