どことなく忙しない空気が流れるボンゴレ基地内で、綱吉は物陰にしゃがんで窓の外の、薄い水色の空を見上げていた。
正確にはその窓から見えるのはリアルタイムの映像の空で本物ではないのだけれど、綱吉は寒そうだなぁなんて見ていた。

膝の上のナッツが機嫌よさそうに尻尾を揺らす。生身の動物と何ら変わらない毛並みが頬を掠めて擽ったい。
構って欲しそうに綱吉の胸に前足を置いて立って鼻先を寄せる。短い呼吸が顎に掛かって擽ったくて綱吉はとうとう笑う。
頭を撫でると目を細めて、もっととねだった。

不意に床の上に放置していた携帯に光が点った。バイブも音も鳴らない様にしているから、画面だけが点灯して着信を告げる。
表示された名前に綱吉は瞬きをしてから緩く笑って、携帯を手に取った。

「もしもし」

綱吉の笑いを含む声が零れる。

「うーん…言いたくないんだよねぇ」

わざとらしく渋った声を出すけど、語尾で結局吹き出した。ナッツが楽しそうに前足を挙げて、綱吉と同じ様に携帯に顔を寄せた。

「あ、ナッツが話したいって」

ナッツに通話口を向けると、がう、と短く鳴いた。綱吉はくすくす笑ってナッツと額を合わせた。

「何て言ってた?え?だってお前、動物と話せそうだから」

はしゃいだナッツが膝から転がって、床に落ちる前に綱吉の空いてる手がその体を掬い上げた。ナッツは尾を揺らす。

「どこって言われてもなぁ…うん、忙しいのは知ってるって。オレ一応ボスだし。あはは、ごめんごめん」

ナッツを胸に抱き上げる。ナッツは大人しく綱吉の腕の中に収まって、それでも携帯に鼻先を寄せた。

「師走はマフィアも走るんだな。…寒いとか言うなよ。お前の怒りは分かったから。うん、でも教えない」

くすくすと笑ってナッツに頬を寄せる。がう、と短く鳴くのでしい、と静かに諭す。

「分かった、じゃあヒントなしでオレを見付けられたら出来る範囲で言う事聞くよ」

ナッツの前に人差し指を差し出して宙を掻く様に動かせば、ナッツはその指先を捉え様と前足を上げる。

「出来る範囲で、だよ。何でもは無理。特にお前相手に何でも言う事聞くなんて言えないよ」

じゃれついて甘噛みをするナッツの口から指を抜いてはまた宙を掻いて、その度にナッツは前足を上げて綱吉の指を捉え様とする。

「分かった。じゃあ、ヒント無しでオレを見付けられたら、惚れ直す。なんちゃってー…え、マジ?冗談で言ったんだけど……ん、ちょっとお前食いつき過ぎ……いや、引くだろ、そんな食い付かれたら……うん、分かったって、惚れ直すよ。うん、約束」

ナッツと額を合わせて声を殺してくすくす笑う。

「じゃあ見付けてー…」


こつん、と響いた靴音に振り返る。


見上げればすぐそこで、どこか呆れた様な表情の骸が綱吉を覗き込んでいた。


骸が緩く眉を持ち上げて、少し肩を竦めて見せた。


綱吉はぱちんと瞬きをしてから、笑った。


「惚れ直した!」


そう言って骸にキスを贈る為に、両腕を広げて立ち上がった。


2012.01.16
完全に遅刻の年末ネタ^o^