骸と綱吉が同じ学校に通ってます



骸は酷く機嫌が悪かった。

校内に溢れる甘ったるい匂いに吐き気がして苛々する。


ここの学校は調理実習がやたらとあって、
しかも調理実習がある日は一日を通してどこの学年もどこのクラスもこぞってやる。

更に妙な校風があって、調理したのがお菓子だったら
気になるあの子とかカップル同士とか先輩とか、
とにかく好きな相手に送ったり、交換したりする。


骸はこういった馬鹿馬鹿しくて下らないイベントが大嫌いだった。


性格の問題はこの際見ないふりをして、その類稀な容姿のお陰で
見知らぬ後輩や先輩や同級生からも貰ったりする。

とりあえずは愛想笑いでもしてみるのだが、とにかく面倒臭い。

地獄を見せてやりたくなる気持ちを何とか堪えて、
今日も両手にいっぱいの甘ったるいなんだかよく分からない物体を持って苛々と歩いている。

これらはもうダンボール行きだ。

まとめて後で捨てるのだ。

校内に捨てると後々面倒なので後で千種か犬に捨てに行かせる。

はいまた来た。

「どうもありがとう。」

なんて歯茎がむずむずしてきて目の前の可憐な乙女たちの顔面を
容赦なく引っ叩きたくなる。

優等生で通っているからそれを崩すとまた面倒なのでここもとりあえず我慢。

いっそ調理実習の日は休もうかと思う。

その方が人類のためになると思う。なんとなく。

バニラエッセンスの匂いで頭がどうにかなりそうなので
たまり場になっている部室に向かう。

人様にお見せ出来ないような表情でドアを蹴り開けて
一直線にダンボールに向かう。

「・・・骸様。」

苛立ちを微塵も隠さないで手にしたお菓子どもをダンボールに投げ捨てる。

「・・・骸様。」

「何ですか・・・」

眼光も鋭く振り返ると、机の上にはマドレーヌの山。

「・・・っ」

「・・・骸様がいない間に増えました。」

「そのようですね・・・」

「・・・中には男子生徒もいました。」

「・・・余計な報告はしなくていい。」

苛立ちを抑え込むようにソファに深く体を沈めた。

ああ気持ち悪い。

「・・・千種、窓を開けて下さい。」

「・・・はい。」

「そしてこの目障りなものを処分。」

「・・・はい。」

「ゴミ置場か犬の口の中に。」

「・・・ゴミ箱と同じ扱いですか。」

大体、と気だるそうにソファに体を預けたまま、綺麗にラッピングされたお菓子を摘み上げる。

「こんな口の中が乾きそうなものを贈りつける人間の気が知れない。」

「・・・美味しいですよ。」

そんな訳ない、と決めつけて言い切る。

「手垢が付いている。」

「・・・見えません。」

「僕には見えます。」

神経症ですかと言い掛けて言葉を飲み込む。

「僕は甘いものが嫌いです。相手の好みも調べないで押し付けるなど迷惑行為でしかない。」

骸は摘んでいたものを放り投げた。
千種は無心にお菓子を詰め込んでいたダンボールを持ち上げて骸の放り投げたマドレーヌを受け止める。

骸が深い溜息を落とすのと同時に控え目に扉が叩かれて骸の苛立ちがピークに達した。
骸は苛立つ仕草で前髪を掻き上げた。

「僕ならいないと言いなさい。」

「・・・はい。」

扉を薄く開けば外から骸は見えない。
けれどもういっそ見えてしまえばいいと思った。
苛々し過ぎて居留守を使っているのを分からせたい気持ちにもなる。

「あ、骸、いる・・・?」

外から聞こえてきたのは儚げな少年の声だった。

「・・・骸様は今、」

千種は隣を二度見した。
その勢いで眼鏡が少しずれたほど二度見した。

いないと言えと言った筈の主が音もなく隣に立っていたから。

「どうしました?」

千種を押し退けて骸は平然と綱吉の前に出た。

綱吉は細い体には大きなシャツを着て、大きめのベストを着て、
緩くネクタイを巻く姿が可愛らしくて、更には背の高い骸を大きな目で見上げてくるものだから
さっきまでの不機嫌さはどこへやら、骸はく、と口角を上げた。

「・・・骸様、顔が悪になってます。」

じろ、と千種を睫毛の下で睨み、綱吉の見えない位置から犬でも追い払うように手を払った。

綱吉は桃のような肌を心成しか淡く染めて、しばらくもごもごしていた。
骸は綱吉を眺める時間がどんなに延びても、もちろん文句はない。
だから綱吉が口を開くまでただじっと待った。
他の人間だったら3秒も待てないが。


しばらく間が空いて、綱吉は意を決したように後ろに組んでいた手を前に出した。

その手に乗っていたのはついさっきまで骸がさんざん文句を言っていたマドレーヌ。

しかも同じ型を使っている筈なのに他のものより何故か二回りほど大きい。

巨大な貝を思わせるその姿は、繊細なお菓子とは程遠くてでも、骸は他の事で固まった。

「これ、調理実習で作ったんだけど・・・」

知っている。
今日さんざん苛立ったから。

「骸、食べるかな〜って、思って・・・」

大きな目を恥ずかしそうに伏せて、小さな唇がたどたどしく言葉を紡ぐ。

骸は固まった。


だって綱吉の顔が、骸にお菓子を渡す女生徒たちと同じ表情だったから。


「僕に?」

思わず問い掛ける。

「うん、」

綱吉の顔を見てからまた手元に目線を落とした。

「僕にですか?」

「うん・・・あ!ああ・・・い、いらないよな!お前いっぱい貰ってるだろ?」

「ひとつも貰ってません。」

「嘘・・・!」

「・・・まぁ、多少は、貰いましたけど・・・だからと言って、これを貰わないとは言ってません。」

よかったぁ、そう言って甘いお菓子のように笑う綱吉に、骸も釣られるようにして微笑んだ。

「そういえば甘いもの大丈夫だった?食べてる所見た事なかったから、」


「大好きです。」


チョコレートよりも甘い笑顔で返せば、綱吉は耳の先まで赤くして、千種は眼鏡の奥で遠い目をした。


「あ、あの、これが一番形がよかったから、あ・・・でも不格好だけど、
味は悪くないから!他の全部食べたけど全部大丈夫だ、あ・・・っ」

綱吉は慌てて口を押さえてから、目をうろつかせた。

「よかったら千種さんたちも!じゃあ、あの、またな・・・!」

言ってほとんど逃げるように走って行った綱吉の華奢な背を、骸はただただ見詰めていた。

「・・・聞きましたか?」

「・・・はい。」

「・・・僕にだけだそうですよ。」

「・・・はい。」

骸は手にしていたマドレーヌをダンボールではなく鞄に、そっとそっと入れた。

「・・・お召し上がりに?」

骸は椅子に腰を沈め、伏し目がちに千種を見遣った。

「・・・何か?」

「・・・いえ。」

「・・・。」

「・・・。」

「言っておきますが」

芝居掛かった動作で、長い足を優雅に組む。

「彼は千種たちにも、とは一言も言ってませんから!」

「・・・。」

「・・・。」

「・・・いりません。」

「・・・そうですか。」


主は口元を覆って宝物が入っている鞄を見詰めている。
きっとにやけているのを隠しているのだろうけど千種には丸分かりだ。


腐らないうちに食べてくださいね、という言葉は無粋なので言わない事にした。


悩みに悩んで口にする頃はもしかしたら悩み過ぎて腐っているかもしれない。
けれどそれを食べて体を壊してもきっと、骸には素敵な思い出の一ページになるだろうし、
上手くすればあの心優しい骸の想い人が、自分が贈ったもので体調を崩したと知ったら
ごめんねごめんね、と涙ながらに介抱してくれるかもしれないし。

その方が人類のためになると思う。なんとなく。


千種は一人頷いて、残りのマドレーヌをダンボールに押し込んだ。

可哀想なマドレーヌたちは、犬に届けようとなんとなく思って、ダンボールの蓋を閉じた。



2010.01.23
随分前に書いて放置していたものを書き加えました。
普通の学生生活を送る骸ツナも好きですvvv