それから並べて正座をさせられて怒鳴られて、
中学生としては屈辱的な夕飯抜きという罰を受けた。

でもひもじかったので、綱吉は抹茶プリンを骸の部屋に持ち込んで分けて食べた。

「この年で夕飯抜きになるとはね。」

「本当だよなー・・・早く朝にならないかな、お腹空いた・・・」

部屋の電気がぱちりと消える。

綱吉はほんのり頬を赤くして、もぞもぞとベットの端に寄った。

骸が隣に入ってきて、豪快に掛けられた布団が起こした風に、前髪がぼふんと舞った。


あたたかい。


こうして一緒に寝るのは幼稚園以来だと思った。

でもそれは言わなかった。



だって今はあの頃と違って、確かな想いを抱いて隣にいるのだから。



「なぁ、骸。明日映画観に行かない?」

「・・・観たいものでも?」

「いや・・・特にないんだけどさ、デートって言ったら映画かなーって・・・」

骸は天井を見詰めたままぱちりと瞬きをした。

顔にこそ出ないけど照れているのが分かるから、綱吉はくすぐったくなってもぞと身じろいだ。

「・・・それなら帰りに君の行きたがっていた店に行きましょうか。」

「え!うん・・・!お、覚えてた・・・!!」

「覚えてますよ。綱吉じゃあるまいし。」

「な・・・!俺だって覚えてた!」

薄暗い部屋の中に腕が伸びて、骸の方を向く綱吉の頭の下に腕が滑り込んできた。

(わ・・・、う、腕枕・・・っ)

そのまま背中に添えられた手が綱吉をずるずると引き寄せる。
いよいよ近くなった距離に、綱吉の胸の奥で鼓動が増す。



温かい体温はいつでも綱吉を安心させてくれて、でも、いつでも甘い痺れを伴わせていたこと。
今、ようやく思い出す。



「君といると楽でいい。」

「・・・何だよそれ〜・・・嬉しくないんだけど・・・」

「いい意味でですよ。愛想笑いをしなくて済むから。」

「・・・。」

呆れたような眼差しも、いつでも泣きたくなるくらい柔らかかった。

綱吉は無意識に滲んでしまった目元を骸の胸にぐりぐりと押し付けた。

「何してんですか。鼻水付けないでくださいよ。」

「付けてないから・・・でも、さ・・・よかったの?あの女の子たち・・・」

「え?」

「今日、一緒に帰ってたじゃん・・・」

ああ、とさして興味もないように言って、ちらと綱吉に視線を落とした。

「見てたんですか?」

「・・・たまたま。」

「それなら知ってるでしょう?」

「え?」

「くっ付いて来たので校門まで一緒に行っただけですよ。」

「でも鼻の下伸びてた。」

「伸びてませんよ。」

「ご、5ミリくらい伸びてた!」

まったく、と骸は溜息を落とす。

「何の因果で君のことなんか」

「なぁ・・!」

「世間には君より素直で賢くて器用な人間は五万といるのでしょうね。」

「何だよ、喧嘩売ってんのか・・・!?」

骸は何も言わないでころんと綱吉の方を向いた。

どきりと鼓動を跳ね上げた綱吉の赤い頬に、そっと手が、触れる。


「でも僕は、そういう人間には興味がありません。」


頬を染める綱吉はふわふわと睫毛を彷徨わせて、恥ずかしいから不機嫌になるけど、
骸はただただずっとそんな綱吉を見詰めている。


そして頬に触れた手が愛おしそうに綱吉を撫でる。


「僕は馬鹿で間抜けで、でもいつも明るくて、笑ってる優しい君にしか興味がありません。」


うっかりはっと視線を上げてしまって、かち合った瞳はすぐそこにあって
その瞳がいつも以上にはっきりと、確かな熱を湛えていた。


見ないようにしてたのに。


だって、逸らせなくなってしまうから。


こつりとぶつけた額の下で、骸は長い睫毛を伏せた。


「綱吉が僕のことをまるで意識していない事実を突き付けられたような気がして、
でも君と距離を置いても忘れられるはずなんかないと分かっていました。」


夢みたいだ、と骸が言うのなら、綱吉だってそう思っている。


「それこそ本当に、物心ついた時から君のことだけが、ずっと好きだったから・・・」


「俺は、気付くのが遅かっただけで・・・でもきっとずっとお前のこと好きだったと思う・・・
好きな子とか、全然いなかったし・・・」

「鈍感。」

「う、うるさいな・・・」


さっきからもうずっと煩い心臓の音が、骸に聞こえてないかが心配で
でもそっと近くなった唇の距離に、綱吉は睫毛を震わせてから、静かに瞼を落とした。


「あの子たち本当に一緒に寝てんの!?」

「あそこまで仲良いと気持ち悪いわよねぇ〜」


ゲラゲラ、と。

豪快な笑い声が届く。


どうやら旦那さまを放っておいて続いていた井戸端会議はほろ酔いで気分がいいらしい。

「・・・。」

「・・・。」

睫毛が触れ合うほどの距離で、骸と綱吉は目を合わせてぱちりと瞬きをした。

「・・・寝ますか。」

「・・・そだね。」

ごそごそと布団の中に納まる。




いつだって格好のつかない俺たちは、


でもきっと、それくらいがお似合い。





誓いのキスの代わりに今は、抱き合って眠るの。




2010.02.20
部屋でいちゃいちゃしてていい雰囲気になって押し倒したときに母親が帰って来て
「プロレス?まだまだ子供ねぇv」なんて言われて「・・・今度にしますか。」「・・・そだね。」とか
そういうドタバタで愛を育んでいくと思いますw

vvvkoucoさんに捧げますvvv