大学から帰って来て一息吐いたとき、部屋のチャイムが鳴った。
大学の友人はいきなり来たりはしないので、チャイムを鳴らしたのが誰なのかは分かる。

綱吉はぱっと顔を上げて微笑むと、急いで玄関の扉を開けた。

開けるとそこには思った通り、微笑んでいる骸がいた。

「ちゃんと相手を確認しないとドアを開けてはいけませんよ?」

「あ!はい、えへへ」

また骸に柔らかく注意をされてしまって、けれどそれすら嬉しいように綱吉は笑った。

「これ、お裾分けです」

言って渡されたのはトマトソースのかかった柔らかそうなチキンだった。
とてもいい香りがして、綱吉は思わずわあと声を上げてから受け取ったが、ほんの少し眉尻を下げて骸を見上げた。

「・・・いつも貰ってばっかりで・・・」

「料理は趣味なので構わないですよ。それに食べてくれる人がいる方が作り甲斐があります」

何て事もないように言って骸は微笑むから、綱吉も釣られるようにして笑ってから「そうだ!」と思いついたように声を上げた。

「あの・・・よかったらご飯一緒にどうですか・・・?あ!って言っても俺が用意出来るのはご飯とインスタントの味噌汁くらいですけど・・・」

「十分ですよ」

すぐに優しい声が答えてくれて、綱吉は目を見開くようにしてからかあと頬を淡く染めた。

「それなら僕はもう一品くらい作ってきますね」

「え!」

「僕は全然気になりませんが、その間に部屋を部屋を片付けるなら待ってますし」

言われてはっとして自分の部屋を振り返ると、取り込んだままの洗濯物や、レポート用紙が散らばっていた。

「わ・・・!は、恥ずかしいから片付けます・・・!」

「分かりました。それではまた後で」

微笑んでから出て行った骸をほわと目で追って、玄関の扉が閉まる音で我に返った。

(か、片付けよう)

綱吉は骸の手料理のいい香りを嗅いでから、急いで部屋を片付けた。


米をといだのにスイッチを入れ忘れるという失態を犯したのだが、骸は料理と一緒に炊き上がったご飯まで持って来てくれた。

結局綱吉が用意したのはインスタントの味噌汁だけだった。

恥ずかしくて仕方なかったのだけれど骸は美味しいと言ってくれて、お湯で溶いただけだけど嬉しい気持ちになってしまった。

綱吉は箸でお椀の底をぐるぐるとかき回しながら、ぼんやりと味噌汁を見詰めた。

(・・・俺が味噌汁作ったら、喜んでくれるかな・・・)

「どうしました?」

「え!わ!あの!」

どきりと心臓が跳ね上がって、誤魔化すように箸をぱたぱたと動かした。
真っ赤になってしまって、でも骸が言葉を促すように優しく笑い掛けてくれたから、綱吉はもごもごと口を開いた。

「あの・・・俺でも味噌汁作れるかなー・・・と思って・・・」


さすがに喜んでくれますかとは訊けなくて、もごもごと呟くと骸はすぐに微笑んだ。

「それなら一緒に作ってみましょうか」

「え・・・!教えてくれるんですか!」

「ええ。僕は沢田くんの作った料理が食べてみたいです」

淡く頬を染めてお椀に視線を落としてしまった綱吉に、骸はそっと目を細めた。



一緒に食器を洗ってから、綱吉はせめてもとコーヒーを淹れた。

骸は食事の終わったテーブルの上に、おもむろにパンフレットを広げた。
綱吉は反射的に覗き込む。パンフレットの写真にはどれも一軒建の家が映っていた。

「別荘を買おうと思ってるんです」

「べ、別荘・・・!?」

「はい」

何て事もないように微笑む骸に、綱吉は思わず感嘆の息を吐いてしまった。

綱吉の周りで未だかつて別荘を買うと言う話を聞いたことがない。
イメージとして別荘を買うのは裕福な人だと思う。
純粋に凄いと思って言葉を失くしていると、骸は海と一緒に別荘が映っているパンフレットを開いた。

「僕としてはあまり人目に晒したくないので、こうして分散して建っている物件がいいと思うのですが、」

「?」

言葉の意味が分からずに柔らかく首を傾けた綱吉に、骸は眼鏡の奥で微笑む。

「沢田くんはどこがいいですか?」

「お、俺ですか・・・!?」

「ええ。もちろん」

なぜ自分の意見なのだろうと思いながらも、パンフレットの白い建物が海と似合って綺麗だったので目を奪われた。

「あ・・・俺もここ・・・綺麗だと思います・・・」

言うと骸が嬉しそうに笑ったので、綱吉は目を見張ってから淡く頬を染めて俯いた。


2010.10.09