性描写アリ


綱吉はいつもより早く家を出て大学に向かった。
そしてひとつ息を吐くと、友人の山本にいつも通りに声を掛けた。

「おはよう、山本」

「おう!今日は早ぇな」

「うん・・・ちょっとお願いがあって」

少し口篭るような素振りを見せた綱吉に、柔らかく首を傾げる。

「どうした?」

「今日さ、山本の家に泊まってもいいかな・・・?」

「いいぜ」

あっさりと笑顔で頷いた山本に、綱吉はほっと息を吐いた。

「ありがとう。・・・それでさ、俺ちょっと出掛けなきゃいけないから、山本が帰る頃に直接家に行ってもいい?」

「お、サボリか?」

軽く言って笑う山本に、綱吉はちょっとねと笑う。
学校が終ったらメールをするという約束をして、綱吉はほとんど走るようにして門を出た。

それから綱吉は普段乗らない電車に乗って、降りたこともない駅で降りて、目に付いたファミレスに入った。

山本からメールが来るのを、店の隅でただじっと待っていた。

日が少し傾き始めた頃に山本からメールが入る。

夕飯は言葉に甘えて山本の家でごちそうになることにして、待ち合わせはせずに直接山本の家に行った。
家に着くと山本はまだ帰ってなかったが、連絡をしていてくれたようで父親が家に上げてくれる。

綱吉はほっと息を吐いて家に上がった。

夕飯は山本の家族と一緒にとって、とてもにぎやかに過ごした。
綱吉は携帯をジーンズのポケットに入れっぱなしにしていたが、鳴ることはなく夜を迎える。

「そろそろ寝るか」

「そうだね」

すっかり話し込んでいて、時計を見ると午前一時だった。
ちらと携帯を見るがデジタルの数字が時間を刻むだけだった。

「電気消すな」

「うん!おやすみ」

「おやすみ」

電気が消え、部屋の中は仄かな暗闇に沈む。

綱吉は布団を鼻先まで被って、携帯のディスプレイに目を向けた。


骸は、他の人と違う雰囲気がある。


生まれも育ちも海外だということもあるし、人との付き合い方が日本で生まれ育った自分とは違うのかもしれない。
綱吉は海外には観光でしか行ったことしかないけど、地域によっては近所同士家族のように付き合って自由に家を出入りもするそうだ。

骸には今日出掛けるとは言わずに来た。偶然骸に出会わないように、わざわざいつもと違う行動をしてみた。
もしこれで何度も電話が掛かってきたり、どこにいるのかと問い詰められるようなことがあったらそれはおかしい。

でも、連絡はない。
メールすらない。

だからきっと、育ってきた環境の違いのせいなんだ。
鍵のことは家に帰ったとき、骸がいつも通りに迎えてくれたら訊けばいい。
一人で考え込むからおかしな方向に考えてしまうんじゃないだろうか。

綱吉は自分に言い聞かせて瞼を落とした。


さほど時間が経たない内に、綱吉はまた瞼を持ち上げた。

山本の穏やかな寝息が聞こえる。

ディスプレイのデジタルの数字がまた時を刻んだ。

綱吉は携帯を掴むと立ち上がった。


ひんやりと冷えた空気が体を包む。
山本が寝ているのを確認してから起さないようにそっと部屋を出た。

転ばないように暗い階段を足で探りながら降りて行く。
一階に辿り着くと中庭の雨戸は締まっておらず、月明かりが差し込んでいた。
家の人たちもみんな眠ってしまったようで、家の中はひっそりとしている。

綱吉は硝子越しに月を見上げて、冷えた空気に携帯を握ったまま手を緩く擦り合わせた。

(・・・六道さん、もう寝てるかな)

着信のない携帯を開いてぼんやりと思う。

電話帳を呼び出して通話ボタンに親指を置いた。

(もう遅いし・・・迷惑、かな・・・)

しばらく躊躇った後、通話ボタンを押した。
出なくても、遅くに電話してしまったことをちゃんと明日謝ろう。

少し間を開けて、耳元で呼び出し音が鳴る。


耳元の音が途切れて、背後で、呼び出し音が鳴った。


綱吉は目を見開いた。


耳に当てたスピーカーから呼び出し音が聞こえる。


一度途切れて、また、すぐそこで呼び出し音が鳴った。


綱吉は見開いた目の睫毛を震わせて、たどたどしい仕草で振り返る。


途中、呼び出し音が途切れ、通話を知らせる音がした。


月明かりが照らす廊下、すぐそこに、ブーツを履いたままの骸が立っていた。


耳元に携帯を当て、綱吉と目が合うといつもと同じ、優しい笑みを浮かべた。


「こんばんは」


スピーカーからも同じ声が聞こえて、そこにいるのが間違いなく骸だと認識する。

綱吉は引き攣る様に息を吸い込み、思わず手から携帯を落とした。

骸は携帯をコートのポケットに入れて、柔らかく笑いながら動けなくなった綱吉に歩み寄る。

「沢田くんから連絡を貰うと、嬉しいですね」

ブーツが廊下を踏む度に、きしりと小さな音がする。

「でも心配しましたよ。いつもと違う行動を取るから・・・」

落とした携帯をそっと拾い上げていつも通り優しく微笑むと、綱吉の手に戻した。

「な、なんでここ」

震えるようなか細い声に、それでも骸は変わらない微笑みを浮かべている。

「恋人の行動範囲を把握しておくのは当然でしょう」


違和感を感じるほどいつも通りに言って、綺麗に笑う。


「この家に山本武が住んでいるのも、彼の家族構成も、この家の間取りもぜんぶ把握してます」

伸びた腕が綱吉を通り越して、襖を開けた。

「だから、この家のどの部屋が開いているのかも知っています」

後ずさるようにした綱吉とそのまま部屋に入り込み、後ろ手に襖を閉めると一気に唇を重ねた。

大きな掌に頬を包まれて、重なった唇の柔らかさと熱さに綱吉は眩暈がした。
冷えた唇が急激に熱を孕む。


薄暗い部屋でも瞳の色が分かるくらいの距離で、骸はそっと微笑む。


「君は僕の恋人である自覚が少し足りないようですね。許可もなく他の男の家に泊るなんて、浮気と言われても仕方のない行為ですよ?」

世界が反転した錯覚を覚え、気付けば畳に体を横たえていた。
小さく震える綱吉に、骸は悲しそうな顔をした。

「そんなに怖がらないでください。怒っている訳ではなんです。山本武は君に対して危害を加える素振りもないし、性的な対象として見ている訳でもないようなので、大目に見ます」

今回だけですよ、と優しく言って綱吉の頬にキスを落とした。

「ただ沢田くんにはもっと自覚を持って欲しいので、もう我慢するのは止めにします」

服の中に掌が優しく入り込んで、綱吉の肌を撫ぜた。

吸い付くようなキスに、じわりと涙が滲む。
呼吸まで奪うようなキスの間に思考は霞み、意識は定まらなくなる。

唾液が絡み合い、ようやく離れた唇の隙間で呼吸をする。

骸の掌が柔らかな尻を滑り、綱吉はそこでようやく下穿きを脱がされていたことに気が付き目を見開いた。呼吸が短くなる。

色違いの瞳は震える綱吉を映しても幸せそうに細められて、掌は愛おしそうに体を辿っていく。

濡れた唇で骸は微笑み、綱吉の柔らかな腿を胸の前で交差させ、そして体を寄せた。
呼吸も震わせる綱吉に、そっと顔を寄せる。

「歯止めが利かなくなるといけないので、少しの間、待っていてくださいね」

優しく言って腿の間に差し込まれた熱に、綱吉は息を詰めた。

腿の間の固く熱く張り詰めたそれが何なのか、考えるまでもなく分かる。

骸はまるで性交でもするように体を揺らした。

綱吉の唇に優しいキスを贈る。

「こうするの、二回目なんですよ」

鼻先を擦り合わせて優しく囁く。

「君はすっかり眠っていて、気付いてもいませんでしたね」

骸が楽しそうに笑って、腿の間が灼け付きそうに熱を帯びる。
綱吉は数日間、腹の上に広がっていた精液を思い出す。

「可愛かったのでそのままにしていましたが」

乾いてしまいそうなほど見開かれた眼球のすぐそこで、骸が艶めかしく眉根を寄せて、閉じた瞼の先で睫毛を震わせた。

腿の間で脈が刻まれ綱吉の薄い腹の上に、熱い精液が広がった。

じんわりと熱が広がり、灼け付きそうになる。

ゆるゆると持ち上がった瞼の下の色違いの瞳は濡れていた。

綱吉は息を詰める。

骸の掌が腹の上の精液を混ぜるようにして、そして白く濡れた手で綱吉のそれをやんわりと握った。

肩を竦めるようにびくりと体を震わせた綱吉に、骸は柔らかく微笑む。

「・・・可愛い」

じゅる、と濡れた音を響かせて掌が上下に滑ると、綱吉はきつく瞼を閉じて睫毛を震わせた。

「・・・ここも、こんなにして・・・」

濡れた声が瞼の向こうで聞こえて、骸の指先はほんのりと淡く色付いた後孔を滑り、そして容易く進入した。
綱吉は両膝を擦り合わせ、体を震わせる。

体の中で骸の長い指が生きもののように動く。その度に綱吉はふるりふるりと体を震わせた。

「柔らかくて熱くて、気持ちが良さそうですね」

熱っぽく囁かれて、綱吉はぴくんと肩を震わせた。


痙攣するような後孔に、熱が押し付けられる。

ずるり、と粘膜が擦れる音がして、一気に体を埋め込まれ、綱吉ががくんと背中を反らせた。


「・・・体の相性もいいようですね。こうしているだけで、気持ちがいいです」

濡れた声に、隙間なくびっちりと埋め込まれている感覚に、綱吉は唇だけで短い呼吸を繰り返した。

ずるり、と一気に引かれると、綱吉のそれが弾けて、腹の上に自分の精液が飛び散った。

もう一度奥まで貫かれれば、綱吉は体を震わせ精液が勢いを増す。


腹の上で二人の精液が混ざり合う。


骸は濡れた息を吐いてキスを落とすと、甘い声で囁いた。


「気持ちいいですか?」


綱吉は濡れた瞳を薄く開け睫毛を震わせると、
ほんの微かに、小さく頷いた。頷いた拍子に目尻から涙がぽろと落ちた。


骸はとても嬉しそうに笑い、慈しむように綱吉の髪を撫ぜた。

それだけでも綱吉はひくんと中を引き攣らせた。


だって、気持ちいいのだ。


骸の掌が体を撫でると、舌が皮膚を這うと、熱が体を穿つと。
その度に体中の細胞が悦び、震える。


口内に入り込んだ舌を迎え入れて自ら舌を伸ばした頃にはもう、世界のすべてが遠くなっていた。


「あ・・・っ六道さん・・・っ」

体の中を往復する熱に堪らず名前を呼ぶと、骸は幸せそうに微笑む。

例え骸が何であれ、どうしようもなく骸に惹かれていたのはもう、間違えようがないのだ。
それを今更覆すことの方が、綱吉にとっては難しいことだった。


体の奥で熱が放たれて、混ざり合う。


もうどちらの熱なのかまるで分からないけれど、脈を打って吐き出される精液を受け入れて震える。
睫毛が触れるような距離で見詰め合い、再びキスを交わした。

「引越しの準備はもう出来てますか?」

優しく言って髪を撫でる手に、綱吉は甘えるように小さく首を振った。

「君の隣人は君の扱いが悪いので、もう近付けたくないのですよ。だから早目に引越しましょう」

綱吉は目を見開いて、睫毛を震わせた。

「・・・見ててくれたの・・・?」

骸は優しく微笑んで肯定した。

「ずっと見てますよ」

綱吉は細めた目を潤ませて骸の首に腕を回した。

「・・嬉しい・・・早く二人きりになりたい・・・」

「僕もそう思ってました。それなら部屋はもう隣人に返しますね」

綱吉は骸に優しく撫でられながら頷いた。

「隣の人は、どこにいるの?」

「あの部屋の浴槽の中で待って貰ってます」

目を見開いた綱吉の視界の中で、骸はいつも通りに微笑んだ。

「あの部屋を借りてから一度も浴槽を開けてないので、中で何をして過ごしているかまでは分からないのですが」


骸はとても綺麗に笑う。


目を見開いたままの綱吉の意識は遠くなりやがて暗闇に飲まれた。


薄れていく意識の中でも、次に目が覚めたときは海の傍にいるだろう予感がした。


海の傍の、あの美しい家に二人きりでいるのだろう。


それでも綱吉は、抗う気など少しもなかった。
幸せに包まれるように瞼を閉じる。



2010.11.12
やっこさんに押し付けます!すみません・・・私は・・・楽しかったです(ry)