厚い雲の向こうではきっともう陽が暮れ始めている。

薄暗い部屋の中で、ベットの中で、骸は綱吉を抱き込んだままぼんやりと窓の外を見た。

気紛れに空から落ちてくる雨は冷たそうで、散り始めた桜の花びらを窓に張り付かせている。

手を伸ばしても届かない硝子に張り付く桜の、もっと奥には誇らしげに花を揺らす桜の木。
まるで花びらを散らすように雨の雫を落とす。

綱吉が綺麗だと言うから綺麗だと思う。骸にはそれで十分だったしそれ以外考えられなかった。



昨日の夜は帰りが遅くて、並んで歩いた桜並木の下には人は誰もいなかった。
遅くに降り始めた雨のせいかもしれない。

傘も差さないで細かな雨と一緒に降り注ぐ桜の花びらを綺麗と言ってはしゃぐ綱吉ばかりを見ていた。

淡いピンクの隙間をきらきらと光る雨の雫。

不意に頬に落ちて張り付いた花びらに気付いていない横顔に、笑う。


部屋に入ったらそのままもつれるようにセックスをして、終わったら肌を触れ合わせたままベットの上で古い映画を観て、
一緒に風呂に入ったりしたら、結局寝たのは朝だった。


昼過ぎに目が覚めたときもまだ灰色の雲は空に居座っていた。


綱吉が作ってくれた遅すぎる昼食を食べたらまたセックスをした。
キスは、スクランブルエッグの味がした。


それからまた少し、眠ってしまったようだ。


腕の中の綱吉も小さな寝息を立てている。

二人で過ごす休日はとても少なくて、けれど、だから予定は立てないことが多かった。

せっかく二人きりでいられるのに、外に出るのはもったいないから。

それでも夕飯ぐらいは、デートらしく外で食べてもいいかもしれない。

「・・・夕飯は、外に行きますか?」

四方に飛び跳ねる柔らかな髪を撫でて問うと、綱吉は寝惚けた目をとろんとさせてんー、と曖昧な音を出した。
その後にむくろーと不明瞭な声で言って甘えるように鼻先を骸の首元にすり寄せる。

骸は瞬きをしてから笑うと、綱吉を抱き締め直した。

「やっぱり外に行くのは止めましょう。」

裸のままの肌を触れさせ合って、綱吉はまたんー、と曖昧な音を出して微笑んだ。

骸は綱吉の髪に顔を埋めて目を閉じて笑う。


外に出ればこの子はボンゴレ10代目。
けれど二人でいるときはただの沢田綱吉、自分だけのもの。
だから、今だけは。


窓の外、ちらちらと散る桜の花びらもこの子も、とても綺麗。




2010.04.04
お家デートなむくつなv