日は沈み庭先に夕暮れの影が落ちる。
風が少し冷たくなったので、綱吉は庭に渡る窓を静かに閉めた。
リビングにしんとした静けさが満ちて、見てもないテレビの音がこそこそと流れる。
綱吉はふと足を止めて立ち尽くした。
台所に向かう奈々の背中は昔と変わらず、懐かしい夕闇の色に浮かぶ姿に時間を遡った気がした。
一度瞬きをして我に帰ると椅子を引き、台所の食卓に座った。
「もうちょっとで出来るからね」
声は少し年を重ね
「うん」
でもそれはきっと自分も同じ。
変わらない夕飯時の香り。
不意に振り向けばそこに中学生の自分がいるかと思った。
部屋の奥からはランボの大声が聞こえて、走り回るイーピンの足音、夕飯の手伝いをするビアンキ、階段の上からは騒がしい友人達の声。
けれども振り向いても静寂の夜にその影は見付けられなかった。
もう一度奈々の背中に視線を向ける。
寂しくないのか、とか。
そんな無責任な事は訊けなかった。イエスと返ってきた所で、傍になんていてやれないのだから。
柔らかくてあたたかい匂い。
綱吉は頬杖を突いてそしてそのまま体を傾けた。
「かあさん」
小さな声で呟く。
「なぁに?」
変わらない優しい声。
「…ん、なんでもない」
くす、と奈々が笑う。
今はまだ恥ずかしいけれど、いつかは言えるだろうか。
ありがとう。
大好き。
あなたの子供に生まれてよかった。
2012.12.7