彼の人の幸せを願うなど出来ない。

 
己が愛されないならいっそ殺してしまいたいと。
 
 
だからどんなに足掻いても手に入らないのなら死んで。
 
 
後からちゃんと、追い掛けるから。
 
 
 
 
白いスーツが死装束に見える。
 
ボンゴレ十代目に収まってから、
彼は好んで白いスーツを着る。
それは彼なりの覚悟なのだろうか。
 
骸は綱吉を見るたび、いつも思った。
 
 
 
青い空に溶けるように白いスーツがよく映えて
その背中をそっと押せば、彼は容易く空に落ちる。
 
「骸!」
 
気配を絶っていたつもりだったが、
どうにも綱吉にはいつも勘付かれてしまう。
 
無邪気な笑顔で迎えられて、
骸はそっと目を細めた。
 
手を伸ばしても触れられない距離にいる。
これで殺そうと思っていたのだから笑える。
 
 
無邪気な笑顔は一転、不貞腐れた顔になった。
 
「お前さぁ!勝手にどこ行ってたんだよ!?もう何回目だよ!
いい加減俺だって・・・っ!」
 
膝を着いた骸は、綱吉のその細い手を取り恭しく額づけた。
 
口を開けば死ねだの消えろだの物騒な事を言う骸のらしからぬ行動に、
綱吉は思わず目を見張った。
 
伏せていた瞼をゆっくりと持ち上げ、
今まで見た事もないような静謐な瞳で見上げる。
 
綱吉は息を飲んだ。
 
まるで愛でも囁くように、告げる。
 
「一緒に死んで、くださいますか?」
 
水に濡れた瞳は躊躇う事なく応えた。
 
「おお、いいぞ。」
 
「・・・は?」
 
飄々と快諾されてしまった。
あまりの軽さに言い出だした本人が訊き返す。
 
「何がですか?」
 
「え?一緒に死ぬんだろ?いいぞ。
つかはぐらかすなよな!お前には言いたい事が腐るほどあるんだ!
いいぞ、一人になりたい時はそりゃ誰にでもあるけどな
連絡付かないとかマジ」
 
「ちょ、っと。待ちなさい。」
 
「何だよ俺の話はまだ終わってないぞ!」
 
「僕の話しも終わってませんよ。」

お互いむっとして睨み合った後、折れたのは綱吉だった。
 
「ああ、もう!分かったよ。俺の話は「あっち」に行ってからゆっくりって事でいいよ。
あ〜あ、何で俺はこんなにお前に甘いのかな。信じらんない!」

綱吉は自分で自分に怒りながら腕を組んだ。

確かに今「あっち」と言った。
骸は自分が言い出した事なのに
眉根を寄せるしか反応が出来なくなっていた。
 
「で?どうする?」
 
「はい?」
 
「ああ、言っておくけど俺は苦しいのは絶対嫌だからな。
焼死はなしな。あと溺死もヤダ。知ってるか?焼死って熱いだけ熱くて
最後は結局窒息死らしいぞ。だったら始めっから窒息でよくね?」
 
「ちょ・・・」
 
「?あ、まさかお前焼死が良かったとか言わないよな?
絶対ヤだからな。ホントお前って悪趣味だよな。知ってたけど。
そんなに焼死が良かったら一人で燃えてろよ。隣で俺は首でも括るから。」

「君」

綱吉はハッと眉根を寄せて骸の言葉を手で制した。

「待てよ。そんな事したら俺が骸を燃やして自殺したようにも思えるな・・・
そもそも焦げてる骸の横で俺がぶらさがってるのって
ギャグにしか思えないんだけど・・・」

綱吉は眉根を寄せたまま思わず小さく吹き出した。

骸はとうとう口を薄く開いて固まってしまった。
世界広しといえど、骸にこんな顔をさせられるのは
綱吉だけかもしれない。
骸が黙り込んだのをいい事に、
綱吉は尚も喋り続ける。

「やっぱり死に方は合わせた方がいいよな。
あ、拳銃でお互いの頭ぶち抜くってのどう?」

綱吉は人差し指で拳銃を真似て、
膝を付いたままの骸の額に指を添えた。

「ちょ、と、君・・・ここに座りなさい。」

骸は我慢も限界に達して自分の前を指し示した。

「ん?おお。」

綱吉はきょとんとしながら腰を下ろした。

「ふざけてます?」

若干苛立ちを滲ませた骸に、
綱吉は心外だと眉を吊り上げた。

「ばかやろう!俺がこんな事冗談で言うと思うか!?」

怒られた。

確かに生き死にに関して敏感な綱吉が
軽々しく(しかも楽しそうに)死ぬ話しなどしないだろう。

むう、と口を歪めた骸に、綱吉はふと表情を和らげた。

「ああ、やっぱり拳銃は駄目だな。俺にお前は殺せない。」

「・・・・・。」

複雑な色を瞳に浮かべた骸に、
綱吉はもっと柔らかく笑った。

「俺に骸は殺せない。だから一緒に死んでくれるって言うなら
願ったり叶ったりなんだけど。」

「・・・は?」

「だから、俺はお前が思う以上に卑怯って事だよ。」

骸は怪訝な顔をする。

「そんなの分かってますよ。」

虚像を愛した覚えはない。
出掛かった言葉はあと一歩の所で出て来ない。
いつもそうだった。

「え、ホント?なら話しは早いな。だから、お前を遺して死ねないって事。
俺以外の人間と幸せになって欲しくないんだよ。
死ぬのは嫌だけど、お前とならいつ死んでもいい。ずっとそう思ってた。」

強い覚悟を秘めたその美しい瞳は
真っ直ぐに骸に向けられているもので
だから

「・・・はあ?」

それって

「・・・・死ぬ理由がなくなってしまったのですが。」
 
「ええ!?」
 
目を見開いた綱吉を見て
ああ目が落ちてしまいそうだと見当違いの事を思った。
 
「お前・・・!まさか俺の事からかったのか!?」
 
綱吉の頭の中も相当見当違いだと思った。
 
「まあ結果的にはそうなってしまいますか。」
 
綱吉はみるみる内に、とても分かり易くしょげていって
最後はがっくりと肩を落とした。
 
「死ぬ気マンマンだったのに。」
 
なんという緊迫感のないセリフだろうか。
悪いのは自分ばっかりじゃないなと骸は堪らず遠い目をした。
 
ぶっすりと機嫌の悪い綱吉は目の淵に水を湛えて
骸を睨み付けた。
 
「キス一回。」
 
「は・・・!?」
 
困惑する骸の首に腕を巻き付けて
睫毛が触れそうな距離で綱吉は不満を漏らす。
 
「お前が俺のものになるってぬか喜びさせた罰。」
 
骸は唖然とした。
 
「き、みは本当に鈍い男ですね。呆れる・・・」
 
自分の事をすっかり棚に上げた骸は「煩い!」と罵られ、
綱吉は骸を罵ったのと同じ唇でキスをした。
 
薄く唇を離した綱吉は大層不機嫌だった。
 
「駄目だ。全っ然腹の虫が収まらない。」
 
了承も得ずに再び唇が合わせられた。
 
だからそんな事をしたらますます死ぬ理由がなくなるのだと
 
骸はこの際だからと自ら舌先で綱吉の唇を割った。
綱吉は驚いたがすぐに骸を受け入れて
溶けるほどの極上のキスを交わした。



頭から叶わないと決め付けた頑固者たちは愚かにも
死ぬことばかりを考えていて
思い詰めて思い詰めて一歩足を踏み出してみたら
相手も全く同じ事を考えていたという馬鹿らしさ。



いつまでたっても離れない唇を持て余す事もなく、
このまま食べてしまおうかなんて思う事も全く同じで。

 
 
こんなにも思い詰めていた日々が滑稽過ぎて目も当てられない。
 
 

ああ今日も空は間抜けなほど晴れ渡っている!












09.02.19
重さを知っているからこそ陽気に死にたがる
頑固者と言う名の臆病者
この二人はきっとこの後
周囲の人間が開いた口が塞がらないほどの
バカップルになると思います
死ぬ時は一緒だぞ★っていうノリで!
骸ツナ骸?
でも最後は綱吉が折れるので骸ツナ(笑)