「くだらないですよね。」

麗らかな午後の日差しに似つかわしくない乾いた声で言って、骸は紅茶に口を付けた。

綱吉はスーツ姿ではあるけれど、靴下を脱ぎ捨てた素足をソファの上でこしこしと擦り合わせてから
また膝の上に置いてある本に視線を落とした。

綱吉の息抜きの時間に決まって現れて話したいだけ話して去って行く男に
綱吉もいい加減慣れてしまって、たまに適当な相槌を打っては恐ろしい目に遭ったりもするが
あまり学習はしない。

「そうかなぁ。」

「そうですよ。」

今の話題は綱吉の膝の上の本のことだ。

神話というか、地方に伝わっている民話というか、まぁそういった類の話し。
真偽のほどは定かではない。

それなのに骸は頭っから否定に掛かる。

「でもさぁ、まあいい話しじゃん。王様も心入れ替えたし人の話しを聞くようになったし、
みんなも心入れ替えて、雨降って地固まるってやつだよ。」

「はあ?確実な意思を持って自分を殺そうとした人間を許して傍に置く気持ちも
命を狙ったにも関わらず許しを受け入れて傍にいる人間の気持ちも分からない。
僕は盾突く人間は皆殺しです。」

「俺、命を狙った奴を傍に置いて一緒にお茶したりしてる人も、
命狙ってたのに傍にいて一緒にお茶したりしてる人も知ってるぞ。」

「イカレてますね、死んだ方がいい。」

「本気で言ってんの?」

「はあ?」

「別にいいけど。」

「何なんですか。」

骸は呆れたように溜息を吐くと、長い足を組み直してすっと目を細めて笑った。

「もし君が僕に盾突いても、泣いて這い蹲るなら許さないこともありませんよ。」

「え?」

綱吉は驚きに呆然として、膝の上の本のページをペラペラと落としていった。

「は?」



「お前は、俺だったらそんな事で許してくれるの?」



「・・・。」





『口が滑った。』
骸は綱吉には甘い。
多分そんなことしなくても許しちゃう。





月明かりの中に、車から降りてくる。

すぐに人に囲まれて、笑う。

こっちは見もしない。

随分と離れた距離、気付く筈もないしこのまま姿を消しても知ったことではないだろう。


でも何だか頭にくる。


『ボンゴレ』


声には出さない。聞こえる筈もない。くだらない。


踵を返そうとしたら、ひょこりとこちらを向いた。

向いて、小走りに近付いてくる。



いや、まさか



目の前に辿り着くと、瞳を大きく瞬かせて不思議そうに見上げてきた。





「呼んだ?」





嘘だろ





『どうやら聞こえてしまったようだ』
骸と綱吉はテレパシーが使えると思うの





滑らかな皮膚を口に含んでちゅうちゅうと唇を滑らせる。


綱吉は困惑している。


いきなり向かい合わせに膝の上に座らせられたかと思ったらこれだ。


そんな間もちゅうちゅうと唇が滑っている。

骸は酷くご満悦な様子で、こんな機嫌のいい骸はそうそうお目にかかれない。

けれども、だからこそ、綱吉は困惑している。


「お前さぁ・・・、」


若干の不機嫌を滲ませた声にも、骸はご機嫌なまま。


いい加減痺れを切らした綱吉は、むと口を曲げた。





「何で鼻ばっか吸うの?」






『フェチ』
骸は沢田綱吉フェチだと思います
どこでも舐めたい、口に入れてみたい
鼻だけじゃ済まないことを、綱吉はまだ知らない



09.12.23