妄想全開
暗闇にはもう随分と慣れた。
足元だって惑うことはない。
低く黒い雲が立ち込めていようと、その向こうに空があると思えば目に見えないものはひとつもなかった。
床を鳴らすことなく足を落として、ベッドに目を向ける。
簡素な白い布が豪奢な金色の髪を引き立てていた。
瞼を落とし眠る姿はまだ幼く、年に釣り合わない風格はきっと、あの燃えるような瞳のせいなのだと思う。
白い喉元。呼吸を繰り返す。
柔らかな皮膚は水分をひきらきらと反射しているようにさえ見えた。
黒い革の手袋をそっと脱ぎとって、無造作に床に落としていく。
ベッドに辿り着くとその上に乗り上げて、呼吸を繰り返す喉元に温まった指先を静かに絡めた。
両の手を添えて緩やかに力を込める。
「デイモン」
子供の悪戯を咎めるような声色に瞳を上げれば、いつの間にか燃えるような瞳が目を覚まし、まっすぐに見上げてきていた。
デイモンはくすと笑う。
「寝た振りとは趣味がお悪いことですね」
「今更だろ」
「それもそうですね」
何事もなかったように微笑んだデイモンはベッドに腰を掛けるようにして床に足を付き、ブーツを脱ぎ落とす。
「ねぇ、私の欲しい物が分かりますか?」
上半身を起こしたジョットはまた少し微笑んだ。
「それはお前にしか分からない」
もう片方のブーツを床に落として、デイモンは猫のようにベッドの上を歩き、ジョットに顔を寄せた。
睫毛が触れそうな距離まで近付くと、デイモンは囁くように、でもはっきりと言った。
「ジョット」
ただ名を呼んだだけなのか、欲しい物の答えなのか、曖昧な間を訂正もせずにデイモンはジョットの胸に頬を預けた。
じんわりと熱を上げる皮膚。
鼓動が惜しみなく聞こえる。
「すべてを壊して私とだけ生きましょう?」
ジョットは微笑むと、顔も上げないデイモンの髪をそっと撫でた。
「それは出来ない。けれど、お前のことは守る」
分かりきっていた答えに、それでもデイモンは睫毛を伏せる。
掌がまた髪を滑っていく。
「つまらない男ですね」
「それなら離れるか?」
明らかに笑いを含む声に、デイモンは忌々し気に眉根を寄せた。
「その上、ろくでなしだ 」
柔らかく笑うジョットの顔は、見なくても分かる。
長い睫毛に光を滑らせるようにして笑うのだ。
ジョットの掌が、宥めるように体を撫でる。
デイモンは瞳を細めてからゆったりと体を起こし、瞳を合わせると微笑んだ。
「例えば」
シーツの上に置かれたジョットの手に、そっと指を絡める。
「例えば絶対に手放したくない美しい鳥がいたとして」
緩やかに瞬きをしたジョットに「例えば、ですよ」と揶揄するように告げると、ジョットは柔らかく微笑んだ。
「その鳥が大空に羽ばたく姿を見たいという切実な想いと、そのままどこかへ行くというのなら、その翼を折って握り潰してしまいたくなる衝動の、
両方を合わせ持っていたとしたら、どうしますか?」
何てことないように、デイモンは笑みを崩さずにいる。ジョットは揶揄するでもなく真摯な声で応えた。
「それなら、握り潰してみたらいい」
緩やかに目を見開いたデイモンは瞳を揺らした。その視界の中で、ジョットはただ真っ直ぐにデイモンを見詰めている。
絡めていた指先に力が込められて、デイモンの指は思わずぴくと動いた。
「それでも潰れなければきっと、それが運命だ」
静かな部屋の中、音もなく見詰め合う。目を見開いたままのデイモンが、呟くように言った。
「・・・貴方は、本当に酷い人ですね」
「それでも、お前の望む物すべては叶えられない」
そっと伸びた手がデイモンの頬を包むと、どちらともなく寄せられた唇が重なる。
食むように繰り返されたキスは思いの外柔らかいもので、その最中に伸ばされて絡み合った舌は、唇が離れても暫くは惜しむように絡み合っていた。
デイモンは熱を解放するように上着を脱ぎ落した。
「貴方に最強のボンゴレを捧げます」
「俺が望んでいるのはそんなものではない」
「いいえ」
白いシーツに背中を押し付けられたデイモンは、微笑みもせずにジョットを見詰めている。
「それが貴方を閉じ込める堅牢の檻になればいい」
柔らかく微笑んで濡れた唇を開こうとしたジョットの胸倉を掴んで引き寄せ、デイモンは表情を険しくさせた。
「お喋りはもう終わりです」
そのまま首に腕を回して強引に唇を合わせると、呼吸まで止めそうなキスを繰り返す。
夜の闇は二人を隠す。
けれど隠し切れない想いは二人の秘密に。
ねぇ聴こえていますか。今にもこの胸を突き破ってしまいそうなほどの。
2010.12.4
妄想全開でお送りしました(笑顔)
スぺたんってボンゴレ大好きじゃないですか。
確かに初代組だから特別思い入れがあるのかもしれないんですけど、それにしたって大好き過ぎるじゃないですか。
ボンゴレ大好き=ジョットだ〜いすきv と思ってしまうの私。