食堂から庭を一望出来るようにしている。
夜でもその造りが映えるように設計させたので、雰囲気はとてもいい。
目の前の綱吉は量は少ないが食事をぱくぱくと食べるので、見ていて気持ちがいい。
まったく綱吉を見ていると食が進む。
「庭、綺麗でしょう?」
骸が思わず話し掛けると、綱吉は食べる手を止めてそっと庭に目を移した。
「・・・うん。綺麗だなって思ってた。」
言って綱吉はまた食事を始める。
骸は口元に手を当ててしまいそうなのを何とか堪えた。
普通の会話をしてしまった。
綱吉と食事をしながら普通の会話をした。
感動の渦に飲まれていると、綱吉がぽつりと呟いた。
「・・ここはとても、静かだね。」
ふと庭を見た綱吉の睫毛が寂し気に揺れて、それを見た骸も寂しくなった。
凪から綱吉の情報を聞き出して知ったのだが、実家にいるときは大勢で食事をしていたらしい。
そこには凪も入っていて、夕飯時になると親戚やら何やらがわさわさ集まって来て大層賑やからしいのだ。
それが急に二人になる。
それはとても寂しいだろう。
「明日から、凪も一緒に食事をしましょう。」
「・・・え?」
驚いたように骸を見た綱吉に、微笑み掛けた。
「二人よりは賑やかになりますよ。」
綱吉は骸を見詰めたままふわふわと睫毛を揺らして、そしてそっと呟くように言った。
「・・・いいの?」
「ええ。僕はそういうのは気にならないので。」
睫毛を揺らした綱吉は静かに俯いてそれからふわと微笑んだ。
笑った。
ふんわりとじんわりと胸の奥に柔らかな熱が広がっていって、骸も思わず微笑んだ。
綱吉が嬉しそう笑うと、嬉しくなる。
綱吉が悲しそうにすると、悲しくなる。
だから少しでも笑っていて欲しいと思ってしまう。
「あ、凪!明日から一緒にご飯食べようね。」
給仕のために食堂に入って来た凪に、綱吉は嬉しそうに話し掛けた。
「・・・宜しいんですか?」
「ええ。」
「ありがとうございます。それなのにおやつにウニを食べてしまって・・・恩を仇で返すような真似を、」
「僕はそんなにウニに固執してませんからね?」
「甘くて美味しかったね。」
ね!と笑い合う綱吉と凪を見ていると微笑ましくて仕方がない。
「そうですか。それはよかった。」
何て幸せなのだろう。
凪がもう少し小さかったらまるで親子のようではないか。
じんわりと幸せな気持ちが広がる。
本当に、「綱吉を見ていると食が進みますね。」
綱吉はぎちっと固まって目を呆然と見開くと顔色を悪くした。
おかしなことを言ってしまっただろうかと骸は早急に言葉を反芻した。
なるほど確かに”美味しそうに食事をする綱吉を見ていると釣られて食が進む”と言った方がいいのかもしれない。
「綱吉を見ていると食が進みますね。」
言い直そうとしたのに同じことを繰り返してしまった。
更に顔色を悪くした綱吉の手元のフォークからぽろりとオリーブの実が落ちた。
美味しいそうに食事をする綱吉を見ていると食が進むのは確かだが、
嬉しそうに笑う綱吉を見ていても食が進むからやはり口に出した言葉の方が骸の中では正しい。
が、一般的に言ったらちょっとおかしいのかもしれない。
また同じことを言いそうになって押し黙る骸と綱吉の反応を見た凪はオロオロとしてから、頑張ってフォローした。
「骸さまがボスのこと好きって。」
がちゃんと音を立てたのは骸だった。
「ちょ、凪」
豪快なフォローに珍しく言葉に詰まった骸をよそに、綱吉が勢いよく立ち上がった。
「凪に変なこと言わせてどういうつもりだよ・・・!!信じらんない!!」
「綱吉!待ちなさい、」
「や!知らない!!」
ナプキンをテーブルに叩き付けるようにして食堂を出て行ってしまった綱吉を目で追って、
凪はしゅんとしてしまった。
「骸さま、ごめんなさい・・・」
綱吉と自分の仲を取り持つために尽力してくれる凪が本当に娘のように思えてくる。
しゅんとしてしまった凪に、骸は微笑んだ。
「大丈夫ですよ。元はと言えば僕が悪い。」
「財産を僕にください。命を懸けてお守りします。場合によっては綱吉さんを放棄しても構わないと考えております。と言ったことが尾を引いているんですね・・・。」
「そんなに忠実に再現しなくていいですからね。こうしましょう、肝心なことは僕から綱吉にきちんと伝えるので、
凪はそれとなく僕の想いを匂わせてくれたら助かります。」
「分かりました。」
凪は力強く頷いてから、綱吉を追って行った。
「ボス、骸さま臭ってるかしら。」
「あの人そんなに臭いの・・・!?」
よし、凪には後できちんと説明しよう。
骸は心に決めて若干遠い目をした。
2010.06.02
まだ続きます初夜 長いよ!!