了←クロ 犬クロ表現アリ

玄関を開けたら、ツナヨシがお出迎え。

ただいまのキスをせがむので、脳天にチョップをかまして部屋に入る。

「骸、骸!」

ブルーのもこもこの後ろをピンクのもこもこが追い掛ける。

「何ですか、」

「今日ね、今日ね、クロームの家にお昼ご飯食べに言ったんだ!」

「よかったですねー」と心にもないような口調で言って、夕飯の準備がされているこたつに入った。

いつもならツナヨシとは思えない機敏な動きで夕飯の支度を整えるのに
ツナヨシはもじもじしながら一緒にこたつに入ってきた。

もちろん骸の隣。

「・・・っ」

顔面を引き攣らせた骸に気付きもせずに、ツナヨシはもじもじする。

「それでね・・・クロームたちが俺の誕生日会してくれるんだって・・・」

「よかったですねー」と引き攣る口元を押さえてまた心にもないような口調で言ってテレビを点けた。

「それでね、骸と俺の愛の巣を使ってもいいですか?ってクロームが言ってた!」

「・・・っ」

引き攣る顔面を掌で覆うように押さえて、骸はぎりぎりと声を出すから
ツナヨシは恐怖でざぁ、と顔を青褪めた。

「・・・愛の巣ではありませんが、それでもよければどうぞ、」

ツナヨシは骸の凶悪な顔面の恐怖にぶるぶるしながら、骸に隠れた。

「あ、あのな・・・それとクロームから伝言、」

「何ですか?」

「『黙っていられなかったの。でもツナヨシくんが喜んでるからいいと思います。』だって、」

骸はごん、とテーブルに額を打ち付けて、ツナヨシはびくっとしてまた骸の背中にぴったりとくっついた。
そしてツナヨシはぽわんと頬を染めて、骸の背中に指でくるくると円を書き始めた。

「・・・っ」

「骸が・・・言ってくれたんだろ・・・?気付いたら誕生日過ぎてたけど・・・嬉しいよ。」

バレたなら仕方ないけど、

「過ぎてるのか・・・!!」

「うん!」

「うん、じゃない・・・!」

「あとね、クロームのことなんだけど、」

骸はぴくりと眉を跳ね上げた。

クロームの勝負服を見てしまってからずっと気になっていて
ツナヨシにクロームの恋愛事情を聞くように頼んでおいたのだ。

もちろん、骸が聞いたとは言わせないようにして。

「・・・何て言ってましたか?」

以前クロームは本当にどういう訳かまったく分からないのだけれど、笹川に熱を上げていて、
けれど笹川はクロームが友達が欲しくてデートに誘っているのだと馬鹿な勘違いをしてくれて
遊びに行くとなると(笹川的に)気を利かせて妹を連れて来ていた。

骸はその時初めて笹川を人間だと認識したが、元気のないクロームを見ると殴ってやりたい気持ちにもなった。

まったく親心とは複雑だが、笹川の妹とは今でも仲良くしている。

初めて女の子の友達が出来たと報告してきた時はとても嬉しそうで、安心したものだ。

笹川とも何もないようなので、結果的に笹川よくやった。

ヒト科の生き物と認めてやらないこともない。

「笹川センセーとは今でも遊びに行くって、でも京子ちゃんっていうお友達も一緒なんだって!」

確か京子は笹川の妹の名前だ。

よしよし、それなら許してやらない事もない。

「それで最近は犬でもいいかなって思う時があるんだって!」

骸はごん、と額をテーブルにぶつけた。ツナヨシはびくっと体を跳ね上げた。

「・・・っ」

犬「でも」という言い草に些か同情もしたし、これでクロームの好みが何となく分かったが
それとこれとは問題がまったく違う。

それならまだ千種・・・でも駄目だけど、どちらかと言うと千種・・・も駄目だけど。

額をぶつけた時のまま一人悶々とする骸の背中で、ツナヨシが明るい声で続ける。

「でもしばらくは骸さんとツナヨシくんの恋を見守るわ。頑張ってね、骸さん、だって!」

「なぜ最後僕に語りかけてるんですか・・・!?」

「って、言っておいてねって言われた。俺、言ってないからな!」

「・・・っ」



バレてるし。


*


ピン、ポンと軽やかな呼び出し音が鳴って、ツナヨシは急いで玄関を開けた。

「いらっしゃい、クローム!」

「・・・来ちゃった★」

クロームの買い物袋を受け取って、もこもこスリッパを勧める。

「・・・かわいい。骸さんも履いてるの?」

「うん!骸は青なんだ!」

クロームはにやっとしてしまった可愛らしい唇を掌で覆う。

「・・・じゃあ早速お料理しようか。」

「うん!」

台所に並んで立って、貰い物の野菜もダンボールから出してシンクに置いていく。

「誕生日ケーキは骸さんのバイト先で作ってくれるって。」

「うん!ありがとう・・・。今年は父さんと母さんには会えなかったけど、
でもクロームたちが一緒にいてくれるから、寂しくないんだ!」

えへへ、と頬を染めて嬉しそうに笑うツナヨシに、クロームも柔らかく微笑んで腕まくりをした。

「・・・骸さんの私生活は、仲のいい私たちさえ知らないような謎のベールに包まれていたの。」

おお、とツナヨシは興奮気味に声を上げた。

「お家に来たのも今日が初めてなの。みんなそう・・・
だから、ツナヨシ君が一緒に住んでるって聞いてとても驚いたわ。」

クロームは珍しく、その大きな目が細くなるまで笑った。

「骸さんと一緒にいてくれてありがと。」

「あああそんな俺、居候の分際だから!」

「・・・嫌だ。骸さんそんな事言うの・・・本当にデリカシーがないんだから。」

捻った蛇口から緩く零れる水で手早く野菜を洗っていって、
ツナヨシは料理の本を見えるように開いて置いた。

包丁を握って慣れた危なっかしくもちゃんと皮を剥いていくツナヨシに、
クロームはまた小さく微笑んだ。

「・・・これからも骸さんと一緒にいてくれるの?それともいつかお家に帰ってしまうの?」

ツナヨシは大きな目をはっと瞬かせて、ふよふよと睫毛を漂わせた。

「俺、骸のこと大好きなんだ。」

「うん。」

「みんなのことも大好きなんだ。」

「うん。」

「でも、父さんと母さんもみんなも、大好きなんだ。」

クロームはそっか、と呟くと、よしよし、とツナヨシの頭を撫でた。

「でも、離れてしまっても、会えるものね。」

ぱっと顔を上げたツナヨシはクロームの柔らかい眼差しと目が合うと、
「うん!」と頬を染めて笑った。

「美味しいご飯たくさん作ろう。」

「うん!」

ごろごろとシンクに転がるじゃがいもが水に濡れて土の色を濃くしていく。

(また会えるよな・・・帰っても会える、かな・・・)


ほんの少し過った不安も、土と一緒に流してしまうように、ツナヨシは水の中に手を入れた。


09.11.02