テーブルの上に並べられた料理はとても美味しそうで、とても種類が豊富だった。


そしてそのとんでもない量に若干引いた。


すべてが山になっている。

まぁ味は保証出来るし、余ったら持って帰らせればいいのだと
骸は引いた気持ちを何とか元の位置に戻した。

「・・・あんた昼間部にいるよね?何してんの?」

千種のテーブルを挟んだ正面に不機嫌そうに、しかし堂々と座っているお隣の獄寺が
同じ学校の昼間部だという新事実が発覚した。
でも果てしなくどうでもいい。

「るっせぇな!ツナヨシさんの誕生日を祝わない手はねぇだろ!」

「・・・ホモなの?」

「誰だ今ホモっつったの。」

「おっさんが一人紛れてるびょん。」

犬の隣に狭そうに座っているジャンニーニはぱたぱたと手を動かした。
よく見る光景だ。

「いやですね〜おっさんじゃありませんよ〜。こう見えてもあなたたちと3つしか変わりませんよ〜」

ジャンニーニが20歳だという新事実が発覚した。
どこをどうしても見えないし、果てしなくどうでもいい。どうでもよすぎる。

「嘘ら!」

「・・・禿げなの?」

「誰ですか今禿げって言ったの・・・」

骸は口元を引き攣らせている。

獄寺とジャンニーニが混入するのは想定の範囲内なのでまぁ・・・ね。
ちょっと口元の引き攣りの手助けをしている部分はあるが、骸がさっきからずっと嫌な予感がしているものは他にあった。

骸はバイト先で受け取ったケーキの箱をちらりと見遣った。


何だか大きい気がする。


それだけでぐったり出来る。
普通のホールケーキの三倍くらいの高さがある。

力作だとディーノとランボが得意気な顔をしていた。
あの二人が作るものも大層味がいいので嫌な予感がする方がおかしいと自分に言い聞かせ、
すでにもしゃもしゃ料理を食べ始めている犬を殴っておいた。

「やっぱり誕生日のイベントはろうそく消すところからよね。」

「そうら、そうら、ろうそく吹き消すやつやったらいいんら!」

クロームがテーブルの真ん中にどっしりと置かれているケーキの高い箱を、
そっとゆっくり持ち上げていった。

次第に少しずつ、見えてくる姿。

骸は無意識に息を詰めて見守って、そして


「・・・っ」


絶句し顔面を引き攣らせた。

獄寺は「なあ・・・!」と声を上げて顔面を引き攣らせた。

骸と獄寺意外はおお!と感嘆の声を上げている。


ホールケーキが三つ、重なっている。


そのすべてが淡いピンク色のメルヘンなチョコでコーティングされ、
クリームの色は限りなく白くケーキの側面をまるでレースのように飾り、
デコレーションされたクリームの薔薇は限りなく甘いピンク。
散りばめられた金色の小さな小さな球体のカラースプレーがきらきら。


ケーキのてっぺんにはハートの形をしたティアラのような美しい飴細工が乗っていた。


これは、まるで、


「ウェディングケーキみたい・・・」

ツナヨシはうっとりと頬を染めた。

「・・・そういうことでしたか、骸さん。」

「違いますよ・・・!」

「よかったれふね、骸しゃん!」

「違うと言っているでしょう・・・!?」

「キース、キース、」

「クローム・・・っ」


「書類切ってフラワーシャワーしますか〜」

「その書類切っていいんですか・・・!?」

「早くケーキ入刀してくらはい〜!」

「するか・・・!何考えてんだあいつら・・・!!」

バースデイケーキと言ったはずだ。

ハッピーバースデイのハの字もない。

「・・・婚約発表会と誕生会を兼ねてるって、私が言っておきました。」

「クローム・・・っ!!!!」

引き攣る顔面を押さえる骸を完全に置いて、とにかくお祝いムード一色の室内に静かな声が響いた。

「ちょっと待ちやがれ。」

いつものことだけどみんな好き勝手話し出した時、獄寺は至って冷静に騒ぎを止めた。

「こんなの別にただのケーキじゃねぇか。」

馬鹿にしたりそういう雰囲気ではなく、至って冷静に事実を述べる姿は頭が良さそうに見える。
いや、実際かなり洒落たウエディングケーキに見えるのだが、
今日はツナヨシの誕生日会だ。誕生日ケーキなんだと骸は自分に言い聞かせる。

好き勝手言っていた口ぐちは、とりあえずは閉ざされた。

「そうですよね。」

思わぬところから救いの手が入り、骸は血管が切れるのは免れたが感謝はしない。

一瞬にして場を鎮めた獄寺は、おもむろにナイフを手に取った。

「ツナヨシさん、切ってください!」

獄寺はツナヨシにしか向けないような満面の笑みでナイフを差し出した。

「俺が切っていいの?」

「もちろんすよ!ツナヨシさんの誕生日なんすから。
あ、でも危ないから俺もお手伝いしますね。」

ナイフを握った小さな手を、上から包み込むようにして獄寺の手が重なった。

「ありがとう!」

「いえいえ、じゃあ切りましょうね。」

満面の笑みの獄寺の手の上に更にがしっと手が重ねられた。

「・・・待ちなさい。」

「ああ?
これはただの誕生日ケーキっつったよなぁ?」

「言いましたね、そうだと思いますよ。」

空間を捻じ曲がりそうなほど凶悪な笑みを浮かべ睨み合う骸と獄寺に挟まれたツナヨシは
ぞおっと顔色を失くして震え上がった。

けれども獄寺の手と更にその上から骸の手にがっちりホールドされている訳で、
抜け出そうにも抜け出せない。

ぶるぶる震えるツナヨシを他所に、骸と獄寺はじりじりと睨み合っている。
そろそろ空間が歪みそうだ。

「・・・おもしろい。」

「面白がるなよブス女!ぐふ・・・っ」

犬の横面に容赦なくクロームの可愛らしい手がめり込んで僅かに動いた空気が
ケーキ入刀を目論む手の力とそれを阻止しようとする手の力の均衡を崩し、
ナイフがばちんと一番上のホールケーキを叩いた。


一番上の小さいホールケーキがぐらり、と揺れた。


「あ、」

「うわ!」

「げ、」

「あ!」

「オヨ」

「あ・・・」

「ああ!」


あー!!!という七人分の絶叫がアパートに響いた。



フライドチキンの上にダイブしたケーキも、クリームまみれになったチキンも
骸と獄寺が責任を持って美味しく頂いた。



09.12.07