ツナヨシが貰ってくる食べ物の量は半端じゃない。
白菜丸々一個とか、どうしろと言うのだ。
自炊はしないので大抵腐らせてしまうから、捨てる時になるとツナヨシはああ・・・と
眉尻を下げて悲しそうな顔をする。
腐ったトマトとか口の中にねじ込んでしまいそうになるので
ツナヨシが見ていない時に捨てるようにしている。
だけど量が半端じゃない。
さすがの骸も食べ物を粗末にしている罪悪感なんか少しづつ沸いてしまったりして
自炊でもしようかなぁ、なんて遠い目をし出した頃の話し。
いつも通り貰い物を整理していて、ふとテーブルに置かれたシャンプーのボトルが目に入った。
もうなくなるから持って入れと言ったのにすっかり忘れているようだ。
お粗末な歌声が風呂場から聞こえてくるのはいつもの事で
骸はいつも以上にプンプンしながらシャンプーのボトルを持って風呂場の扉を思いっ切り開けた。
「これ持って行けと言いましたよね!?」
バシャン、と勢い良く水飛沫の音が響いて、
バスタブに収まったツナヨシと目がかち合う。
え、と思わず声を漏らしたのは骸だった。
ツナヨシは大きな目を更に大きくして、泣き出しそうな顔をしていた。
頬は赤く染まっていて、その細い体を抱き締めるようにして骸を見上げている。
一瞬間が開いた後、骸はボトルをタイルに投げ付けて勢い良く扉を閉めた。
扉の向こうから一切音がしない。
骸も釣られて息を潜めてしまった。
何今の顔。
裸を見られた乙女が恥じらっているような?
けれど骸はすぐふと笑った。
いやいや、恥ずかしい?誰が?何を?
見たくもない裸を見せつけられて迷惑していたのは骸の方で。
「・・・。」
でもそういえばここ最近は服をちゃんと着ていた。
でもそれは骸の躾の賜物で。
(下らない。)
骸は脱衣所を出ると、再び貰い物の整理に取り掛かった。
ツナヨシはバスタブの中でドキドキと跳ね上がっている胸を押さえた。
(み、見られた・・・?)
かあ、と顔が熱くなるのが分かって、バスタブの中でもじもじしていたが
本当に見られたかどうか、骸が立っていた位置まで行ってバスタブの方を見遣った。
(うう・・・見られたかも・・・)
確認してみたけど、やっぱりちょっと見られたかもしれない。
赤くなる頬を手で覆ってから、あれ?と首を捻った。
今まで服を着ているのが恥ずかしいと思っていたけど、
(アレ・・・?)
今は骸に裸を見られた方が恥ずかしいと思った。
風呂から上がったツナヨシは、壁に背中を擦るようにして
なるたけ骸から離れて部屋を移動した。
骸の背中を見るだけで心臓が飛び出てきそうで、
とてもじゃないが目を合わせられないし近付けない。
骸はそんなツナヨシを、前を向いたまま目で追った。
「・・・お、お風呂どうぞ・・・、」
ぎこちなく言って、ベットの隅に体を寄せる。
骸が勢い良く立ち上がったので、ツナヨシはぴょん、と体を跳ね上げて
ベットの上で何回か体をバウンドさせた。
「心臓が口から出そうだから止めろ・・・!」
「はあ?」
あんぽんたんなのはいつもなので取り合わないが、
真っ赤に染まった頬を見ると、何かイラっとした。
身に覚えがあるから。
今更裸を見られて恥ずかしいとかどうかしている。
別に見たい訳じゃないから、というより見たくないから
存分に隠して頂けるならそうして欲しいし、そうなってるから問題ないのだけれど
これでは骸が風呂場を覗いたような状態だ。
ぎゅっと目を閉じて両腕を突っぱねて頬を赤くしているツナヨシを完全に無視して
骸は風呂場に向かった。
骸が部屋を出て行ったのを感じてツナヨシはそろそろと目を開けて
脱力してベットに体を沈めた。
(鎮まれ心臓・・・鎮まれ心臓・・・)
ツナヨシはドキドキと煩い胸を何度も撫でた。
(・・・胸が苦しい)
小さく丸まってから、はっと飛び起きた。
空になったシャンプーのボトルを置きっ放しにしてしまった。
骸をまた怒らせてしまう。
ツナヨシは駆け出して脱衣所の扉を開けた。
「ごめん骸・・・!ゴミそのままに」
「え?」
振り向いた骸はまさに今Tシャツを脱いでいるところで
その白くてしなやかな背中が半分ほど見えていた。
「・・・・!!!!」
ツナヨシは面白いくらい体を跳ね上げて慌てて駆け出した。
ドカンと大きな音がしてガシャンガシャンと音がしてゴツっと音がして
最後にうう・・・と呻き声が聞こえてきた。
恐らく慌てて何かにぶつかって、また何かにぶつかって、
何かに頭をぶつけてぐずっているのだろう。
骸は顔を引き攣らせた。
少し落ち着け。
それより先に人の背中を見てその反応は失礼だろう。
慌てて逃げるような背中はしていないと、
洗面台の鏡に映る自分の背中を見てまた顔を引き攣らせた。
何か頭に来る。
湯船に浸かってるから余計に頭に血が上る。
のぼせそうになった頭で部屋に入ると、ツナヨシは部屋の隅っこで
妙に姿勢よく体育座りをしていた。
その頬はまだ赤い。
骸がじろ、と睨むとツナヨシは前を向いたままぴくんと反応した。
そしてまた壁に背中を擦るようにして移動を開始した。
どうしても骸と距離を保ちたいようだ。
更に頭に来たので骸はツナヨシに向って一直線に歩いて行った。
ツナヨシは盛大に慌てて駆け出しそうになったので
ばん、と壁に手を付いて行く手を阻んだ。
ツナヨシは体を跳ね上げて反対側に駆け出そうとしたので
ばん、と壁に足を付けて行く手を阻んだ。
脱出を諦めたツナヨシはずるずると腰を落としてとうとう座り込んでしまった。
骸はしゃがんでツナヨシを不機嫌に正面から見据えるとツナヨシは顔を逸らしてしまった。
頬が赤い。
何かイラっとする。
「君ねぇ、」
「・・・・、」
「はい?」
小声でごにょごにょ何か言ったので、聞こえないから耳を寄せると
ツナヨシが小さく丸まろうとしたので腕を掴んで姿勢を保たせた。
ツナヨシは耳まで赤くして顔を逸らしたまま呟いた。
「・・・煩悩ってこういう事言うのかな・・・」
「はい?」
「俺、骸の事好きなんだと思う・・・」
「はいはいそれはどう、も・・・」
それはもう何回も聞いているが、ツナヨシは馬鹿だから
馬鹿のひとつ覚えのように言っているだけだと思っていたし、
室内でのストーキングも衣食住を与える者に対しての服従のポーズくらいにしか思ってなかったが、
今、煩悩と言ったか?
「・・・・。」
骸はしばらく考え込むようにしてからすっと立ち上がった。
ツナヨシは縋るような目で骸を見上げている。
今にも泣き出しそうに潤んだ目と赤い頬は、可憐な乙女が愛の告白をしているような顔で、
愛の告白?
「・・・・。」
体を見られて、見て、性を意識して自覚した、という事だろうか。
性を意識?
「君・・・男、ですよね・・・?」
凄惨な事故によって何度か見てしまったが、確かに男だった。
ツナヨシは頬を赤くしたまま小さく頷いた。
ああ、それならやっぱり友達としてとかそういう事だろう。
気持ちを立て直した骸だったが、ツナヨシの口から決定的な事実が告げられた。
「・・・普通、男の人って、女の人を好きになるんだろ・・・?
でも、俺はそういうのじゃなくて、骸が男の人でも関係なくて・・・その・・・骸が好き・・・。」
それは愛の告白以外の何物でもなくて、
甘やかな言葉はいろんな意味で脳髄を直撃して粉砕した。
言っちゃった!と言ってツナヨシは小さく丸まった。
骸は遥か遠くを眺めている。
生まれて初めて好きと言われた相手は男でした。
09.04.30