最近では一人でも商店街を歩いていると何か押し付けられる事がある。

前はよくツナヨシと歩いていたからそれを覚えているのだろうけど
ついでに声も掛けられる。

「おお、骸くん!」

何で名前知ってるんだ。(まぁ大体検討はつくが)

「今日は奥さんお留守番かい?」

「・・・っ」

恐らくツナヨシが妄想を撒き散らしながら歩いているのだろうけど
「あの子男ですからね・・・!?」と何度念を押しても一向に効果が上がらない。

顔は確かに女の子っぽいかもしれないが
どこをどう見たって完全に男だろうに
何でこうもツナヨシのおままごとに付き合ってやるのだろうか。

まぁ付き合ってやるのは構わないが、一緒にされたら大分迷惑だ。

甘いもの好きでしょう?とパン屋さんに声を掛けられ、
何で知っているのかと問うのも馬鹿らしいので(だって答えはひとつしかないのだから)
遠い目をしながら大人しくありがたく二人では多すぎるくらいの量のパンを頂戴した。

あまりの量に学校に持って行って犬たちにも食べさせようと、
パンの甘い香りに遠い目をしながら家の扉を開けた。

ベランダを開けているのだろう、廊下と部屋の仕切りの扉が強い風でバタンと勢いよく閉まった。

「・・・。」

いつも鍵を差し込んだ音を聞きつけて
犬のように玄関で待ち構えているツナヨシがいなかった。

もしかしてまた干乾びているのだろうか。


廊下を大股で歩いて「いるんですか?」と声を掛けながら扉を勢いよく開けた、時。


ぱあ、と目の前に光の粒子
飛び散った。


骸は目を見張って、薄く唇を開いた。


まるで細やかな雨のように降り注ぎ、きらきらと輝きを放ちながら光のカーテンのように
その向こうでツナヨシが同じように驚いて目を丸くしていた。


やがて光が小さくきらきらと消えていった時綱吉がふわと笑って
骸はまた目を見張った。


「骸!」

満面の笑みで駆け寄った綱吉にはっと我に返ってから
骸は呆れた顔で溜息を吐いた。

「骸!今何したんだ!?今まで何しても駄目だったのにほら!」

「君ねぇ・・・」

骸は呆れてぐったりとした目でツナヨシを見下ろした。



だってその背中に羽があったから。



「全然小さいけどでも、骸の声聞いた瞬間に出てきた!」

「はあ?どこで拾ってきたんですか、そんなもの。服破いてまで付けるものではないでしょう?」


ツナヨシの肘から下くらいの長さの羽は、とても白く、
白い、と言う言葉が当て嵌まるか分からないほど白かった。
まるでその色自体が光を生んでいるようなもので
骸はそんな色を見た事がなかったけれどでも、
ツナヨシの服の背中が破れている事の方が有り得なかった。


まったくと呆れながらおもむろに羽を掴み上げた。

「いててててて・・・・!!!!!」

「!?」

ぷらんと持ち上がってしまったツナヨシの背中から羽が取れる気配が全くなかった。
それどころか背中の皮膚が髪を引っ張った時の頭皮のように引き攣れていて
骸は思わず固まって手を離した。

「ふぐ・・・っ」

べちゃりと床に落ちたツナヨシだったが、
羽が出てきたのが嬉しくて飛び上がるようにして立ち上がった。

「ほら!」

嬉しくて嬉しくて骸に羽を見せようと背中を向けて迫っていくが骸は項垂れていた。

「・・・・・・止めなさい。」

ツナヨシの肩を掴んでくるりと自分の方を向かせるが
やっぱり見せたいツナヨシはまたくるりと骸に背中を向けた。

「・・・・・・止めなさい。」

自分の方を向かせて今度はきちっと肩を掴むが
ツナヨシはにゅっと羽を伸ばしてぱたた、と羽ばたかせた。
きらきらと光の粒子が落ちてくる。

「・・・っ」

骸は愕然と崩れ落ちた。
ツナヨシが来てからこのポーズを何回しただろう。
膝を突いて床に手を突いた。

ツナヨシは慌ててしゃがみ込む。

「む、骸!どうしたの!?」

どうしたの、じゃない。

「・・・何なんですか、それ・・・」

ツナヨシはきょと、と瞬きをしてからにっこりと笑った。



「言っただろ?俺、天使だって!」



骸は座り込んで絶望的な仕草で顔を両手で覆った。


確かに初めて公園で会った時にそんな事を言っていたけれども、
誰がそんな馬鹿げた話しを信じると言うのだろうか。

でも確かにツナヨシは人間じゃないと言われた方がしっくりくる気がしないでもない。

その常識を遥かに超越した行動や、箸の使い方も食べ物の名前も知らないのだから
それで普通に人間です、と言われた方が問題があるように思う。

それにいくらツナヨシが華奢だからと言って、骸が片手で持ち上げられる訳ないのだし
そんな当たり前の事さえツナヨシの非常識っぷりに紛れて消えてしまっていたのだけれど。

信じるか信じないかで言ったら信じられないし、信じてもいないのだけれど
認めてしまった方が全てが丸く収まるのが否めない。

有り得ないと言うのならもうずっと有り得ない事が続いていたのだけれど
とんでもないものを拾ってしまったという予感は的中していた。


本当にとんでもない。


「骸・・・」

ツナヨシは神妙な面持ちで生気のない骸の手を握った。


「骸。何か心配事があるみたいだけど、大丈夫だからな?骸には俺が付いてる!」

と言って天使は笑った。


だからツナヨシがいるから心配なんだって。


きらめく羽を柔らかくはためかせながらにこにこ笑うツナヨシは
大事そうに骸の手を握ってて、骸は遥か遠くを眺めていた。


「骸の声って、聞くと凄くドキドキするんだけどでも、凄く安心もするんだぁ。」


頬を染めてえへへ〜と笑う隙間に好き、と聞こえた気がした。

ツナヨシは照れてまたえへへ〜とだらしなく笑った。


骸の生気のない目は大気圏を突破する勢いで遠くを眺めていた。





生まれて初めて好きと言われた相手は、女性でもなければ人間でもありませんでした。




09.06.21