女の子日ネタ注意


ひんやりとした色合いの洗面台で、骸の白い手が靴下を洗う。
トイレには勢い良く出る水の音が響くだけだった。

綱吉は個室の扉に寄り掛かって、上履きの爪先を擦り合わせた。その足は片方靴下を履いていない。
綱吉は眉尻を下げて鏡に映る骸の下を向いている顔を見て、また眉尻を下げると俯いた。

「これは僕のロッカーに干しておきますね」

ぎゅうと靴下を絞って蛇口を捻った。水音が止まる。骸の唇は柔らかく微笑んでいた。

「何か訊かれたら、僕にジュースを零されたって言えばいいですよ。ほら、ここに座って」
「あ…」

柔らかく腕を引かれたままに、綱吉は濡れていない洗面台に腰を預けた。
骸はその前に屈み、靴下を履いていない綱吉の足首を掴んで静かに持ち上げた。

「あ…、いいよ、自分でやるよ…!」

慌てて足を引っ込めようとするけど、骸は拘束を解いてくれなかった。
骸は何も言わずに濡れたハンカチを綱吉の足首に滑らせた。少し冷えた布の感触に、綱吉は睫毛をふると震わせた。

白い足首に薄い血の跡が伸びて、消えた。
綱吉は頬を赤くして、緩く唇を噛んだ。

「オレが自分で零したって、言った方が、みんな納得すると思う」

骸は睫毛を持ち上げて、綱吉に視線を合わせた。綱吉がへにょんと眉尻を下げると、赤と青の瞳は楽しそうに柔らかい光を乗せた。

再び伏せられた骸の長い睫毛を見詰めて、綱吉は弱々しい溜息を吐いた。

「……迷惑掛けて、ごめん…いつも、ごめんね…」

言うと骸は目を見張って勢い良く顔を上げた。
綱吉が驚いて動きを止めている内に、骸は立ち上がる。スカートの裾が大きく揺れた。

「僕は!君の事を迷惑と思った事は一度もありません…!」

骸のそんなに切迫した声を聞いた事がなかった綱吉は、動揺した。いつも静かな表情は泣き出しそうで、綱吉まで泣きそうな気持ちになった。
骸の睫毛はゆるゆると伏せられていき、瞳には水の膜が張る。きらきらとして、綱吉は思わず息を飲んだ。

「君に、僕の気持ちはちゃんと伝わっているのかな…」

唇を静かに引き結んだ骸に、綱吉はハッと我に返った。

思わずその腕を伸ばす。
今度は綱吉に抱き締められた骸が目を見張った。

「…伝わってるよ…」

肩口に顔を埋めた綱吉がぽつりと呟く。

「オレも…骸が…すき」

骸は大きく目を開いた。

そっと上げられた綱吉の顔は、赤く染まっていて、骸と同じ位、その瞳に水分を湛えていた。
こつりと額がぶつかる。

「…だいすき」

骸はまた少し泣き出しそうな顔をして、そして、互いに唇を寄せ合い、重ねた。
世界がまた、二人だけを残して切り離されていく。


2012.04.03