「随分懐かしい名前を出すね。」
ある意味で今一番聞きたくない名前を意外な人物から告げられて、
綱吉はそう返すのが精一杯だった。
微かに震えた唇に、気付いて欲しくないと思った。
「俺の所に苦情が来たぜ。」
投げ付けるように目の前に放られたケースががちゃんと音を立てた。
「・・・?何?これ。」
薄い透明のケースに収まっていたのはCDロムだった。
手には取らずに眺めるようにしてから、不思議そうにリボーンを見上げた。
リボーンは翳った目元を鋭利に滲ませ、綱吉を見下ろしていた。
「てめーの寝室の映像だ。仲良く映ってんぞ。」
ざあ、と血の気が引くのが分かった。
骸が寝室に来たのはあの雨の日の一度きり。
それならあの日の出来事がすべて、「これ」に収められていると言うのだろうか。
「な、んで、お前・・・こんな、」
愕然と目を見開き、その瞳の奥に宿ったのは強い怒りだった。
椅子を跳ね飛ばすように立ち上がりリボーンの胸倉を掴み上げるが、
リボーンは表情すら崩さすに、その腕を払い退けた。
「骸とは二度と会うな。」
華奢な体は床に打ち付けられ、それでもきつく睨み上げると
リボーンは腕を振り上げた。
殴るような動作を見せた腕はそれでも綱吉の胸倉を掴み上げるに留まり、
意外だったのはリボーンがそのまま綱吉の耳元に口を寄せ、
綱吉にしか聞こえない声で血でも吐くように告げた。
「いいか、これはてめーだけの問題じゃねーんだ・・・!
骸の事を思うなら口応えすんな・・・!」
目を見開いた綱吉の襟首を乱暴に離すと、
苛立ちを隠しもせずに転がる椅子を蹴上げた。
「分かったな・・・」
綱吉が掠れる声で分かった、と呟くと、
リボーンはロムを床に叩き付けた。
自然を装いリボーンの革靴がロムを踏み潰すと、ぱきりと小さな音が鳴った。
その亀裂の深さを見て、リボーンが怒りを向けているのは綱吉に対してではなく
ましてや骸に対してでもないのを悟った。
綱吉は滲む目を両手で覆った。
だけど不謹慎にも綱吉は安堵していた。
骸との事をひた隠しにするのはとても嫌だったから。
けれど知れ渡る事と理解して貰う事は全く別物だというのは綱吉にも分かっていた。
いつでも頭に血が上り易いリボーンは、いつでも冷静になるのも早いから
綱吉は部屋を整えてからリボーンの元へ向かった。
廊下へ出るとリボーンが壁に背中を預けて、綱吉が出て来るのを待っていた。
立ち尽くす綱吉に口の端を吊り上げ、上出来だ、と揶揄を込めた褒め言葉を吐いたから
綱吉は微かに力が抜けた。
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