6月6日日曜日。
ちゅんちゅんと小鳥がさえずるいつもの朝に、
綱吉はおはようと言って寝癖を撫でながらベットの端に正座をした。

骸は半身を起してそんな綱吉を何となく見ている。

綱吉はあーとかうーとか言いながら瞳をうろうろと彷徨わせた。

「何ですか?」

「おおおお・・・っ」

長い睫毛の下で鋭利に光る赤と青の瞳。
相も変わらず絶対零度の視線に蹴落とされるように、綱吉は背中から床に落ちてその勢いで後ろ向きにでんぐり返りをした。
体育の時間もこれくらい機敏になれたらいいのに。

ちゅんちゅんと小鳥が泣いている。
否、泣きたいのは綱吉の気持ちだった。

「えーっと・・・ですねぇ・・・」

綱吉はよろよろしながらも頑張ってベットの端に戻るとまた正座をした。
これは大事なイベントなのだと自分に言い聞かせて大きく息を吸った。

「骸・・・そろそろ誕生日だよね・・・」

「だから何ですか?」

「おおおおおお・・・っ」

凍て付く視線に笑ってしまうくらい驚いて体を跳ね上げ転げ落ちた綱吉は、また後ろでんぐり返りをした。

そうかベットの上にいるから落ちるのかと二回目で悟った綱吉は、
ベットの上から降り注ぐ凍てつく視線から青くなった顔を精一杯逸らす。

「あー・・・やっぱり誕生日って言ったらプレゼントかなって」

ベットの上の骸、床に正座する綱吉。

最早この部屋がどちらのものか分からないが

無言の圧力に若干涙目になりながらも綱吉は頑張らなければならない。

一年に一度のことだし、お祝いしたいじゃないか。

「高い物は無理だけど、な、何か欲しいものとかある・・・?」

突き刺さる視線がふと視線が逸らされたのが分かって綱吉はそろおっと目線を上げた。

珍しく逡巡するような素振りを見せた骸に、プレゼントのリクエストを期待した綱吉は正座のまま姿勢を正した。

「あ!あと物騒なのもなしな!リボーンに膝かっくんしろとか、リボーンにチョップしろとか、そういう物騒なのなしな。」

リクエストを貰えるんじゃないかと嬉しくなってえへへと笑った綱吉だったが、
笑った顔のままみるみる顔色を失くしていった。

突き刺さる、殺気を孕む冷気。

「う・・・ぐ、」

綱吉は変な音を出すのが精一杯だった。

「君に、僕の望む物を用意出来るとは思いませんが。」

「なあ・・・!そんなの分か、リマスヨネ・・・・」

マイナス100度の視線に不自然なくらい顔を背けて
綱吉は取り繕うためにへへへと乾いた笑い声を漏らした。

(くそぅ・・・怖いけど聞き出してやる・・・!)

「あ、あのさぁ!ってもういねぇ・・・!!!!」

意を決して顔を上げたのにそこにはもう骸の影すらなかった。
替わりに窓が開いていて、灰色の低い雲が広がっている。

慌てて窓から体を乗り出すと、骸は何事もなかったようにすたすたと歩いているではないか。
あれ俺ちゃんと質問してたっけ?と自分の記憶に疑念さえ抱くようなさっぱりとした後ろ姿に、綱吉は無意識に声を掛けた。

「骸・・・!」

無視だった。

(くっそ・・・)

無視とか可愛いものではないのかもしれない。
何て言うかもう存在すら掻き消されているような、ああそうかそれが無視かと思い直す。

どれだけ足が長いのか、骸はもう豆粒ほどになっていてあっという間に曲がり角へ消えた。

何で無視するかなと歯噛みして、今度会ったら文句を言ってやろうといつも思うけど、言わない言えない。
だって怖い。

一人窓の桟に齧り付くようにして悶々としていると、背後からひたりと不吉足な足音が響いた。

綱吉はぎちりと固まる。

不吉でしかない、この足音。

ひたりひたりと近付いて来る。
いっそ部屋の鍵を掛けてしまいたいが、そんなことしたら命がないかもしれない。

ばあんと壊す勢いで勢いよく開いた扉に、びくうっと体を跳ね上げても綱吉は振り返らなかった。

そこにいるのは誰だか分かっている。
可愛らしいお顔を持ったキング・オブ・デビル、我らが家庭教師のリボーン様だ。

リボーンはとことこと綱吉に歩み寄ると、骨をへし折るような勢いで綱吉の肩を叩いた。
綱吉はびくっと体を強張らせて顔を青くした。

「困ってるようだな。」

だが声は機嫌がいい。ますます怖い。

「いえいえいえとんでもございません少しも困ってませんむしろ生きていて楽しでい、いい、いた・・い!!!!」

掴んだ肩をありえない状態まで無理矢理捻るふわふわのおてて。
綱吉は痛みに涙目になりながらその力を半分でもいいから分けて欲しいと切実に思った。

「困ってるよなあ?」

有無を言わせぬ強い口調に綱吉は素直に項垂れた。

「こ、困ってます・・・」

ほとんど無理矢理言わせたのに「始めからそう言えばいいんだよ。」と罵られ、綱吉はううと涙目になる。

「骸の誕生日プレゼントだろ?」

「な、何で知ってんの・・・!?」

言ってからああそう言えば読心術なんて胡散臭い特技があったなと思い至った。

「聞いてたからな。」

「聞いてんなよ・・・!!」

抗議してみたものの平手一発で黙らされた。いつものことだけど。

「俺は骸の欲しいもん分かるぜ。」

「え!?」

期待で目をキラキラさせた綱吉に、リボーンは顔面を盛大に引き攣らせて「きめぇ」と吐き捨てるように言った。

負けない。
綱吉は心に決めて笑顔のまま涙目になる。

「ちょっと教えてよ・・・」

「ちょっとでいいのか?」

「ううん・・・!!ぜんぶ!!」

「仕方ねぇなぁ。」

機嫌がいいようだ。
かえって怖いが今は震え上がるのも我慢した。
骸の欲しい物がどうしても知りたい。

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