朝が来て夜が来て、そんな日々の繰り返しさえ綱吉はただ遣り過ごすだけで精一杯だった。
ただただ後悔と焦燥感を持て余し、幾日か過ぎた頃だった。
綱吉は枕に顔を埋めて、涙を滲ませていたとき
控え目なノックの音が、窓の方から鳴って、綱吉は緩やかに顔を上げた。
長い睫毛を伏せたまま、窓の外に立っていたのは待ち焦がれた骸。
綱吉は泣き出しそうに歪めた顔を隠しもせずにベットから裸足のまま降りて、よろめくように骸に駆け寄った。
窓の外、骸は未だに目を伏せたまま。
乾いた音を立てて開いた窓に、骸は苦しそうに唇を開いた。
「どんな顔をして会えばいいのか分からなくて、でもきちんと謝りたく、て」
声を押し殺すように涙を流した綱吉は、言葉を遮るように骸に抱き付いて何度も首を振った。
「俺が、酷いこと、言ったから・・・!」
堪え切れずしゃくり上げたとき骸の大きな手がそっと背中に添えられて、綱吉は息を詰めた。
「・・・中に入っても、構いませんか?」
何度も頷く綱吉を宥めるように背中に手を添えながら、
病室の中に入って後ろ手にカーテンを閉めた骸に、綱吉は抱き付いた。
骸の手が、優しく背を滑る。
「ごめんなさ、い・・・!」
「いいえ、謝らなければならないのは僕です。
君の気持ちも考えずに怖い思いをさせてしまいましたね・・・本当にごめんなさい。」
綱吉は涙を流しながら骸の胸に擦り寄るように首を振って、骸にしがみ付いた。
背中を滑るだけの手に、抱き締めてくれない腕に、綱吉は焦れてしがみ付く手に力を込めた。
「俺、記憶が戻らないんです・・・!」
「ええ、大丈夫ですよ。」
骸の静かな声、でも綱吉は首を振って懸命に言葉を紡いだ。
「でも俺、六道さんが好き・・・!」
叫ぶように出したかと思った声はそれでも涙に掠れていて
綱吉は呼吸を乱しながら、言葉を紡ごうと唇を動かす。
「六道さんが好きで、」
頬を包み込んだかと思った大きな掌は綱吉の顔をほとんど真上に向けて、
言葉を奪うように柔らかな唇が重なり合った。
幾度も食むように繰り返されたキスはやがて舌が触れ合って、
重なり合って絡まり合った。
息が吸えないほどのキスの中、綱吉の閉じた瞼からするりと涙が落ちる。
「思い出させてください・・・」
そっと離れた唇の間で呟くように言って、綱吉は濡れた瞳を伏せたまま骸のコートを握り締めた。
「六道さんのこと思い出させて・・・!」
懇願する声が消える前に綱吉の体がふわりと浮いた。
横抱きにされた綱吉ははっと頬を染めて骸の顔を見上げられずに、胸に顔を埋めるようにしがみ付いた。
柔らかく柔らかくそっとベットに体を落とされて、綱吉の鼓動は早まるばかりだった。
骸がベットに乗り上げたのを視界の端に入れて、きゅっと目を閉じた。
とんでもないことを言ってしまったのかもしれない。
恥ずかしくてはしたなくて、でも、後悔はしていない。
確かめるような仕草で骸の指先が赤くなった頬をそっと撫でる。
頬を撫でた指先はそのまま首筋に降りていって、綱吉はこくりと息を飲んだ。
「綱吉。」
ずぐりと心臓が跳ね上がって、綱吉は思わず目を見開いた。
すぐそこで綱吉を見詰める骸が、愛しそうに笑う。
「あ、」
ど、ど、ど、と鼓動が強くなる。
「・・・俺のこと、そう呼んでた・・・?」
骸は愛おしく目を細めて微笑むと、ゆっくりと頷いた。
指先は緩やかに降りていって、シャツのボタンをひとつひとつ、外していく。
露わになった柔らかい腹につと指が滑って、綱吉は皮膚を震わせた。
脱ぎ捨てられていくコート、真っ白なシャツ、晒された骸の白い肌に、綱吉は唇を震わせた。
大きな掌が、綱吉の胸元を滑る。
「・・・君が、混乱しないようにずっと沢田くん、と呼んでいました。
けれどそれが君を不安にさせてしまっていたこと、申し訳なく思います。」
「六道さんは、何も悪くないです・・・」
「綱吉、」
ちゅ、と音を立てて食まれた唇に綱吉は頬を上気させる。
長い指がするりと腰骨を撫でるように下着の中に忍び込んできて、滑り始めた指先はゆっくりと下腹部を撫でる。
熱を孕む指先に綱吉は緩やかに息を詰めた。
骸は綱吉をとても愛した。
舌と掌と唇を使って体中を愛されて、ついには足の指先まで口に含まれた。
その間中ずっと解かれていた骸を受け入れるだろう箇所は、
はしたなくも骸を受け入れるように熱を上げ続けている。
一度骸の口の中で達してしまって恥ずかしくて仕方なかったのだけれど、
それでもすぐに羞恥も消し飛んでしまうくらい愛された。
蕩けた綱吉の頬に幾度も短いキスを落とした骸は、そっと囁くように言った。
「・・・いいですか?」
綱吉は熱い頬のまま小さく頷いた。
どのくらい経ったのかも分からなくなるくらいの時間の中で、
肌を合わせるように重なった体、解き解された後孔に押し付けられた熱に綱吉は息を飲んだ。
自然に上がり始めた呼吸を宥めるように何度もキスが降ってくる。
覚悟していたよりもまるで痛くなくて、体内に入り込み始めた熱に、骸の優しさにじわりと涙が滲む。
綱吉が荒い息を吐き出すと呼吸に合わせるように少しずつ奥に入り込んでいく。
一番奥まで入ると、綱吉の体がひくんと引き攣れた。
足を開いて骸を受け入れて、きっと今とても恥ずかしい格好をしている。
けれどもそれ以上にただ骸と体を繋げていることに嬉しさで視界が滲む。
骸の熱が体の中を往復する毎に、体の中をせり上がってくるような快楽を感じる。
入れられるのがこんなに気持ちいいものとは思わなかった、けれどそれはきっと相手が骸だから。
つと落ちる涙を吸うように柔らかい骸の唇が何度もキスをしてくれる。
乱れていくような骸の呼吸に、そわりそわりと背中が波を打つ。
短くなる呼吸の合間に堪らず短い声を漏らしながら、
綱吉は体も心も熱に浮かされ、
けれど、その奥底に、混ざる感情、
駄目。
絶対零度の炎に灼かれるように。
駄目だ。
壊死するような痛みを伴い。
気持ちよくなってはいけない、
でも、
「ぁ、」
きもちいい。
いけないのに、
怖い。こわい
黒の中の赤。
こわい
怖い!
「綱吉!」
はっと我に返るように瞼を持ち上げれば、
冷たく冷えた鉛のような感情の一部分が心の奥に顔を覗かせていて
体に熱はあるのにがちがちと奥歯を噛み合わせ続けるほど震えていた。
上気していた頬は、いつの間にか色を失くしていた。
幾らか呼吸を上げた骸が心配そうに眉を顰めながら、優しく綱吉の頬を摩った。
「・・・まさかまたこうして君に触れられるとは思ってもなくて、
つい夢中になってしまいました・・・痛いですか?」
優しい瞳の色、綱吉はまた涙を落した。
やっぱり自分の思い過ごしだと、よく分からずに納得して骸の背に回していた腕に力を込めた。
「・・・痛くないです、」
「無理しないで。止めてもいいんですよ?」
綱吉は小さな子供のように首を振った。
「気持ちいいんです・・・最後までしてください・・・」
強請るような言葉に骸はそれでも優しく微笑むから、綱吉は自分から顔を寄せて唇を重ねた。
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