綱吉は寝不足にも慣れつつあった。
どんな事にも時間が経てば慣れてしまうという
どうでもいい自信がまた一つ増えた。
そもそもリボーンの存在自体が非常識極まりなく、
更にマフィアだとか十年バズーカだとか
綱吉の周りには非常識が溢れ返っている。
けれど、いつの間にやら日常に溶け込んでいる。
なので、骸の事も慣れるかと淡い期待を抱きつつも
心のどこかでもう一人の綱吉が絶対無理と言っている。
せめて骸がもう少し友好的ならと考えて
ぶるぶると頭を振った。
それはそれで耐え難いものがある。
だって骸が爽やかな笑顔で
「こんにちはボンゴレ」なんて言ってきたら
天変地異の前触れかと思って腰を抜かすだろう。
でも、何だかそれだけじゃないような気がする・・・
綱吉は骸が来るようになってから
答えのない疑問をずっと頭で繰り返している。
いや、答えはきっとあるのだろう。
確かな答えを持つ骸。
何かしらヒントを持っているだろうリボーン。
だけど二人とまともな会話が出来ない。
と、言うよりしてくれない。
(一体どうしろと)
綱吉の中にあるだろう答えも出ないまま、
いつものように考えるのを止めた。
だって分かんないんだもん。
綱吉はキャンドルに火を点すとアロマポットの中にゆっくりと入れた。
(うん・・・いい匂い)
心成しか本当に眠くなってくる。
アロマなんて小洒落たものは綱吉には無縁だが、
学校で獄寺にプレゼントされたのだ。
「眠れないと仰ってたので少しでもお役に立てればと!」
と渡された包みは、女の子が喜びそうな可愛いラッピングがされていた。
獄寺の事だから、枕元に置くとよく眠れると言われている水晶か何かかと思ったが
開けてみたらまともな発想のものだったので
今年三番目くらいの驚きだった。
「オイルはツナヨシブレンドにしました!」
とよく分からない事を大声で言う辺りは
やっぱり獄寺だが。
リラックス効果があるオイルを中心にブレンドしたとか
長々と説明してくれたのだが
綱吉が眠れない原因はただひとつ骸だけなので
リラックス効果があってもなぁと思ったが、
やっぱり純粋に嬉しい。
常にリボーンに引っかき回されているので
こういう気遣いは身に沁みる。
(骸好きかな、こういう匂い・・・)
思ってすぐぶるぶると頭を振った。
(いやいやいや別に骸関係ないし)
「僕が何か?」
「む・・・っ!!」
またぶつぶつ言ってしまってたのかと綱吉は慌てて口を塞いで
ぎちりと固まった。
口を抑えるのが遅すぎるのは分かっているけど
氷点下の視線が突き刺さる。
(う、うう・・・)
どこから口に出していたのだろうか
いつからそこにいたのだろうか
けれど悶々としていたのは綱吉だけだったようで
骸の視線がアロマポットに移った。
その視線はぎりぎり零度くらいで
綱吉がアロマポット以下であるのが分かった瞬間でもあった。
「これ焚くと、よ、よく眠れるって聞いたから・・・!」
思わず喧嘩腰になると骸は鼻で笑った。
(こ〜の〜や〜ろ〜)
綱吉はぎりぎりと歯を食い縛った。
いつまでもやられっぱなしじゃいられない。
「べ、別に骸の為じゃなくてこれは」
「どうでもいい。」
「うぐ・・・」
やっぱりやられっぱなしだった。
綱吉は諦めのいい子である。
口では骸に絶対勝てないと分かると、
遠い目でふふふ、と笑った。
そうだよな、どうでもいいよな、とぶつぶつ言い出す。
これはツナヨシブレンドって言って
リラックス効果があってよく眠れるんだ、と
全てを諦め過ぎてキャンドルの炎に話し掛ける暗い子になった。
骸は当たり前のように綱吉を無視して上着をハンガーに掛けた。