頬の痣が治るまで学校には行かないように言われた。


痣くらいで学校を休むのは気が引けたが、骸があまりにも言うし
自分が思う以上に周囲に影響を及ぼす事が分かったから家で大人しくしてる事にした。



学校の事は気になった。



使えない人間は必要ないと言っていた。
もしかしたら学校で何か起こっているかもしれない。
綱吉に知る由はないのだけれど。



綱吉はふと鏡を見て、首元にいくつも付けられている鬱血を見て頬を赤くした。



あれから毎日骸に抱かれている。



まさかあんな所に男を受け入れる日が来るとは夢にも思わなかったけれど
骸と体を合わせるとこうなる事が必然だった気さえしてしまう。


まるで骸の熱を体の奥底に刻まれるような行為は、
思い起こすだけで体中が心のすべてが灼け付くようだった。


人を愛する事が、愛される事が、こんなにも狂おしい事だとは思わなかった。


(わ・・・!俺昼間っから何考えてんだろ・・・)

自分の溜息で我に返った綱吉は、一人で顔を赤くして台所へ向かった。

持て余した時間は料理の練習をしている。

煮詰め過ぎてしまったり焦がしてしまったりしたのは最初だけで
今は何となく料理のようになっていて、骸が美味しいと言ってくれるから
もっと頑張ろうと思った。

今日は夕飯の時間に戻って来られないらしいから、
昼過ぎに帰って来てくれると言ったのでお菓子を作る事にした。

骸と一緒にお茶を飲むのも、とても好きだった。


綱吉は生クリームを混ぜながら、やはり頭の中は骸でいっぱいだった。



柔らかいその仕草も、甘い香りも、その声も表情も
灼け付くような熱さもすべてが綱吉の胸を苦しくさせる。


一瞬だけ垣間見たその冷たい温度でさえ、愛おしく思えてしまう。



(ん?)

焦げた匂いで我に返って、ふとオーブンを見ると黒い煙を上げていた。

「わ・・・!」

慌ててオーブンを開けたが、もう遅かったようでスポンジの表面は真っ黒に焦げていた。

(ああ・・・混ぜて焼くだけなのにどうして失敗するかな・・・)

作り直す時間はないし、出来合いのスポンジを買いに行っている間に骸が帰って来てしまうかもしれない。
骸とは少しでも長い時間一緒にいたいから、それは避けたい。

綱吉は大きく溜息を吐いた。

今日のお茶受けは苺と生クリームだけになってしまった。







「おや?」

テーブルの上にはヘタを取って綺麗に盛り付けられた苺に生クリームが添えられていた。
綱吉は頬を赤くして俯いた。

「ごめん・・・焦がしちゃった・・・」

骸は小さく笑うと、膝の上に綱吉を抱き上げた。
肌を合わせるようになってもやっぱり恥ずかしくて身じろぐと
宥めるようなキスが額に落とされた。

「楽しみにしていたのに。」

柔らかく咎めたその声は、全くなにも気にしていないのは分かったけれど
楽しみにしていたという言葉が嬉しくて、だから余計に申し訳なくなった。

「ごめん・・・」

恥ずかしそうに謝る綱吉に、骸は微笑み掛けた。

「それなら替わりのものを頂かなくては。」

「うん・・・苺しかないけど・・・」

「食べさせて。」

かぁ、と頬を赤くした綱吉に二人だけだからいいでしょう?と囁く。

フォークを取ろうとした手を柔らかく包まれる。

「手で。」

「手で・・・!?」

楽しそうに笑っているけれど、冗談ではなさそうだ。
綱吉は大きな苺を手に取ると、戸惑いがちに骸の口元に差し出した。


唇を薄く開いて覗いた白い歯で赤い苺をゆっくりと噛む。
瑞々しい苺の水分が溢れて綱吉の細い腕に伝っていった。


濡れた唇が弧を描いて、綱吉の腕を伝った水分を追って伸びた舌先が腕を舐め上げた。


骸の舌先が皮膚に触れただけで体がそわそわと波を打って
綱吉は堪らず肩を竦めるとぎゅっと目を閉じた。


拙い仕草に、骸は目を細めた。


「綱吉もどうぞ。」


綱吉が手にしていた残りの苺を小さな唇に柔らかく押し付ける。


そっと唇が開いて小さく苺を噛み締めた。


溢れた水分が小さな唇の端から流れてその頬を濡らし、細い首筋を濡らしていった。


骸は苺ごと綱吉の唇を噛んだ。


じゅわと溢れた果肉と一緒に骸の舌が綱吉の口内に入り込んで
果実の甘い香りが鼻腔を満たした。


「・・・ん、」


鼻に抜ける声を思わず漏らして舌を擦り合わせた。

夢を見ている気持になった頃、骸の舌先が頬を濡らした水分を辿り始めた。
滴った水を追って首筋に落ちて鎖骨を甘く噛んだ。

は、と綱吉は息を詰まらせた。

骸の大きな手が服の中に滑り込んでくる。

「ぁ・・・・、会社、戻るんじゃないの・・・?」

「戻りますよ。ですが、我慢出来ない。」

言って微笑んだ骸に綱吉は頬を染め上げた。

「ん・・・っ」

首に歯を立てた骸は、綱吉に頬を寄せた。

「狡いよ、父さん・・・」

涙を滲ませた目をそっと伏せる。

「狡い?」

甘やかすように優しく問い掛ける。

「・・・俺ばっかり、父さんに夢中で。」

くす、と笑い声が落ちて来て、綱吉ははっと我に返った。
夢の中にいるような気持になっていて、随分恥ずかしい事を言ってしまった。
かぁ、と赤くなった頬に、骸はキスを落とした。

「僕の方が綱吉に夢中なのに。」

「そ、んな事・・・ないよ・・・」

「いいえ。僕の方が綱吉を愛してますよ。」

甘やかなキスをして睫毛が触れそうな距離で見詰め合う。



「・・・閉じ込めてしまいたい・・・、」




狂おしいほどの愛をもって囁かれた言葉に綱吉は、悦びで体を震わせた。






09.05.02                                          NEXT