無意識に呼び掛けると、そっと痣の上に手を添えられた。
「教員は何をしていたのでしょうねぇ?止められなかったのなら手を上げた人間と同罪だ。」
そわっと背筋が粟立った。
冷たい、冷たい声。
「あ、違う、んだ、本当に急だったから・・・」
「そうやって君は、人の事ばかり。」
深く吐き出された溜息と共に、柔らかくベットに倒されてしまう。
骸の肩からはらはらと長い髪が落ちて、綱吉の頬をくすぐった。
体が離れてしまったのが不安で、ゆるゆると腕を伸ばすと
指先を甘く噛まれて綱吉は思わず息を詰めて目を見張った。
「あれ程よく見ているように言い聞かせたのに、この結果です。」
「父、さん・・・?」
そ、と痣を撫でられて、綱吉を見る瞳はいつもと変わらず優しいのに、
冷えた表情は人形のようで、底冷えがする。
ただふと、骸は綱吉以外には、こんな表情しか見せないんじゃないかと思った。
担任の青褪めた顔や、施設の先生の憂いを帯びたような顔を思い出す。
「あの学校は僕のものですから。使えない人間は必要ありません。」
心のどこかでは少しだけ予感していたような、
学校で担任に父さんに言わないでと思わず口に出していたのがここで繋がったような、
「だって大事な綱吉を、他の人間が運営する学校になど通わせられない。」
「・・・でも、・・・俺が、」
骸は言葉を遮るように瞳を閉じて眉根を寄せると、小さく首を振った。
「どうして庇うの?」
悲痛な声に、言葉が詰まった。
骸こそ、どうしてそんなに悲しい顔をするのだろう。
骸にそんな顔をさせたくない。
けれど、言葉が出て来ない。
目を見張ったまま動けない綱吉の鼻筋を、骸の長い指が滑っていく。
「本当は僕がずっと、綱吉の傍にいたいけれど、」
骸の声が切なさを帯びて、けれどすぐに冷たいものへと戻る。
「綱吉は、この傷が痛む度、この痣を見る度に、手を上げた人間の事を思い出すのでしょうね。」
許せない、と再び呟く。
「君の中を僕以外のものが支配するなど、」
小さな唇の上を這っていた指先が、小さな歯を押し開いて舌の上を滑った。
長い指は、舌先でする愛撫のように舌を柔らかく絡め取り、頬の内側へと滑り込んだ。
「・・・っ、」
頬の内側の傷に緩やかに爪を立てられて、鈍い痛みが走った。
大きな目を更に見開いて、水に揺れた瞳で見上げると、骸はそっと目を細めた。
「この傷が痛む度、僕を思い出して。」
引き抜いた指は唾液で濡れて、骸は綱吉と目を合わせたまま
その指をちゅ、と口に含んだ。
色を纏わせたその仕草に、綱吉は思わず息を飲んだ。
頬が赤く染まっていくのが分かった。
早まる鼓動に合わせて口の中の傷がじくじくと脈を打つ。
押さえ付けられている訳ではないのに、体が全く動かない骸から目が逸らせない。
微かに震える喉に、骸の人指し指がそっと触れて
そのままゆっくりと下がっていく。
シャツの一番上のボタンを弾いた指は、ゆっくりと胸元に下りていって
二番目のボタンも弾いた。
「可愛い綱吉・・・」
濡れた唇が愛おしそうに言葉を紡いで、
最後のボタンを弾くと、シャツが肌蹴て薄い体が露わになった。
「・・・ぁ、」
恥ずかしくて鼓動が煩くて、儚い声を漏らしてしまうと
骸は緩やかに微笑んでジャケットをゆっくりと脱ぎ落した。
瞬きも忘れたように大きな目を濡らす綱吉の顔の横に手を付いてそっと唇を重ねる。
甘く下唇を吸われて、綱吉は小さく震えて息を漏らした。
「僕の事しか、考えられないようにしてあげる。」
吐息が掛かるほどの距離で囁かれて、綱吉はは、と息を詰めた。
今でも骸の事ばかり考えているのに、これ以上どうやって考ろと言うのだろう。
綱吉は自分の呼吸が静かに乱れていくのを遠くで自覚する事しか出来なかった。
自分がどんな顔をしているのかも分からなかった。
シュル、と音を立ててネクタイを引き抜いて、ベットに乗り上げた骸は
カッターシャツのボタンをゆっくりと外していく。
骸の白い肌が零れていって、
綱吉は息を飲んで、ただ骸の長いを食い入るように見詰める事しか出来なかった。
大きな手がおもむろに体を撫で上げて、綱吉は小さく震えた。
絡み付くように背中に両手が滑っていって、背中を反らせた綱吉の唇は塞がれた。
ぬめる舌が絡み合って、初めて感じる粘膜の感触に、それが骸のものだと思うと眩暈がした。
は、と堪らず息を吐き出しても解放されずに、舌を吸われて歯を立てられて、
執拗に唇と舌を愛撫された。
心臓が壊れそうなほど高鳴って、白い肌は淡く色付いていた。
気が狂いそうなほどのキスを受けながら、きつく抱き締められると
骸の素肌と綱吉の素肌が強く重なった。
骸の肌も熱くって、体が頭が沸騰しそうだった。
「・・・ん、」
うわ言のように意味のない音を漏らすのが精一杯で、
いつの間にか下肢も露わにされていた事に気付きもせずに、
骸の熱い肌が誰にも見せないような所に触れて、思わず目を見開いて唇を震わせた。
骸は苛烈な熱を湛えた双眸でうっとりと綱吉を見詰めた。
「可愛い僕の、綱吉・・・」
ぎゅう、と強く胸の奥を掴まれるような切なさに襲われて、
小さな子供のような呻き声を漏らして骸に縋り付いた。
さっきからずっと、骸の甘い香りがして、心が灼け切れそうだった。
骸のしなやかな腰に華奢な足が縋り付くと、
骸の濡れた唇が色付く首筋に吸い付いていった。
薄く皮膚を吸われて、鮮やかな鬱血がいくつも散っていく。
辿り着いた薄い胸の先端を柔らかく食むと、綱吉の震える唇から儚い声が漏れた。
歯を立てられたり柔らかく吸われたり、執拗な愛撫が続けば
与えられる快楽に翻弄されて、綱吉は骸の頭を抱え込むように体を丸めた。
「・・・っは、・・・ぁ、父、さ、」
骸の舌先は胸の間を通って、臍の窪みに入り込んで、
幼く控え目な、それでも腹に付くほど勃ち上がった綱吉のそれにゆっくりと這っていった。
「・・・や、あ、・・・っ」
みだらに勃ち上がるそこに骸の舌が這って、恥ずかしくて泣き出しそうな声を漏らすが、
骸は全てを口に含んでしまった。
「あ・・・っああ・・・っ」
ちゅ、ちゅ、と口の全てで吸い上げられて、
自分でした事もなかった綱吉は簡単に精を吐き出してしまった。
「・・ぅ、あ・・・っ」
体を震わせて水の堪った瞳から涙が零れた。
骸は口の中の綱吉の精液を飲み下すと、綱吉、と首筋にキスをした。
熱い吐息が掛かって体を震わせた綱吉の、涙を吸い取る。
「ああ・・・っ」
骸の長い指が綱吉の体に入り込んで、堪らず声を上げて腰を反らせた。
「うああ・・・っ」
長い指は柔らかく滑って蠢き、肉を押し広げていく。
「ねぇ、綱吉、」
熱を孕んだ声はどこまでも綱吉を掻き乱す。
「僕の事好きですか?」
切なさを帯びる濡れた声は綱吉の耳元で囁かれる。
水に濡れた睫毛をゆっくりと持ち上げて、綱吉は息を詰めた。
灼け付くような目をした骸の、色を乗せた目元に、酷い眩暈がした。
骸のそんな目が自分を映しているのかと思うと、体が震え上がるほど嬉しくて、切なくて。
「僕の事、好き?」
繰り返し問われて、綱吉はほとんどうわ言のように呟いた。
「・・・好き、・・・大好き・・・」
ふわ、と笑った骸の笑顔に全てを忘れて見惚れた。
「僕も、大好きです。」
「ああああ・・・っ!」
指とは比べ物にならないほどの骸の体が、肉を割って体の中に入ってくる。
苦しくて苦しくて、だけど骸と繋がっているのだと思うと、
悦びに体が震えて涙が零れた。
骸は綱吉の涙を舌先で受けて、唇で吸っていく。
骸の背中に腕を回して縋り付くように抱き締めると、骸はうっとりと微笑んだ。
「好き、綱吉、好き・・・」
ベットが軋み上げる音と共に繰り返される甘やかな言葉は、
呼吸さえ奪うように心を縛り付けていく。
溺れると思った。
目に見えないものに溺れるようにもがく手は、
ただひたすらに骸の背中を掻き抱く。
汗が滲む背中に腕に骸の長い髪がしっとりと吸い付く。
見えない鎖に繋がれて鼓動さえ支配されていくような錯覚に捕らわれて、
少しの恐怖と多大な悦びに体を震わせて、
苦しさの中から滲み始めた快楽に頭が灼け付く。
「すき・・・、」
捕らわれていくのはそれでも、綱吉にとっては悦びでしかなかった。
09.04.16
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