中将×御曹司

ふわっと大正ロマン風ですが資料見てません・・・っ
事実と異なってますがパラレルと思いご容赦ください!


骸軍服 
綱吉着物で女装(男設定です)
男同士が普通に結婚結婚言って結婚します





冷酷なまでの冷静さと判断力で冷血の軍人と異名を取る六道骸は、
稀代の智将と謳われ、ただの23歳で中将まで上り詰めた。


血も涙もないと言われるが、骸だって人の子。


長年の想い人を前にすれば、舞い上がることもあれば間違えることも、ある。




運命の出会いは骸が16歳の、とても暑い夏の日だった。


その頃もうすでに、骸を形成するものは冷静と言う名の冷酷さだった。
上流とまではいかないが、それなりの名家に生まれ何不自由なく育ち、
名門の進学校へ進み、このまま行けば六道家の跡取り、後は安泰だ。

骸は学ランの詰襟をきっちりと閉じ学生帽を目深に被り、
陽炎立ち昇る真夏の道にマントを翻して歩いていた。

葬式のような黒尽くめは自分を形作るものと酷く似ているから落ち着く。

汗も掻かずに歩きふと視線を上げて、骸は白い肌に浮かぶ色の違う瞳を見張った。

揺れる陽炎の向こう、蝉の鳴き声を聞き真夏の光りを遮る真白いレースの日傘、
淡い水の色の着物を着た人がこちらに向かって緩やかに歩いて来ている。


伏せられた睫毛は白い頬に影を落とし、それでもその瞳の煌らかさは遠目でも分かるほどだった。


短い髪に男だとすぐ分かったのだが、骸は目が離せなくなり、遂には足を止めてしまった。

けれどもその人はよろめいたかと思うと静かにその場にしゃがみ込み、
骸は考えるより先に駆け出してその人のすぐ傍に膝を付いた。

「大丈夫ですか!?」


日傘の陰で淡い色の髪が揺れる。


ゆったりと持ち上がった長い睫毛、同じように淡い瞳は水に濡れたように揺らめき骸を見上げた。


その瞳と目が合った瞬間に鼓動が、跳ねた。


高鳴り続ける鼓動を誤魔化すように、骸は静かに言葉を紡いだ。

「大丈夫、ですか?」

「・・・お見苦しいところを・・・」

心苦しそうに伏せられた瞳に、骸は緩やかに首を振った。

「お気になさらないでください。お家はどちらですか?お送りしましょう。」

「あの・・・!」

思わず、と言うように掴まれた手。

細く白い指は真夏と言うのに冷えていて、その指先にどきりとした。
目を見張る間もなくその指は慌てて離された。

「失礼致しました・・・!」

「いえ、」

骸は触れられた手を引くことも出来ずに、思わず瞳を伏せた。

「少し休めば良くなりますので・・・」

「ですが、」

伏せた視界の端で細い指先が日傘の柄をきゅと握ったのが見えて、
骸が引かれるように視線を上げた先で、伏せられた瞳が長い睫毛の下で苦しそうに揺らめいた。

「・・・家の者が要らぬ心配をしてしまいます。どうか、お忘れください、」

「失礼します。」

「あ、」


華奢な指からひらりと日傘が道に落ちた。


随分と、無礼なことをしていると自覚はあったがどうしても放って置けなかった。


骸は華奢な体を静かに、横抱きにした。


恥ずかしさから逸らされるその人の顔を見ることなんて、骸にも出来なかった。
ただただ胸を打つ鼓動の速さが伝わらなければいいと願っていた。

「それならばせめて日陰でお休みください。すぐそこに使われていない停留所があります。」

小さな木造りの建物は、日向よりは幾分かは涼しくて骸は内心ほっとした。

こんな所にとは思ったが、今は仕方がない。
同じように木で造られた長椅子にそっとその人を下ろすと、
道に置かれたままになっていた日傘を拾い上げて戻った。

「本当に、何とお礼を言っていいか・・・」

「いいえ、大したことはしてません。どうぞ、横になってください。
人が来ても中を覗かないように、僕が入り口で見てますので。」

「いえ!そんなことまでして頂けないです、」

「こんな所にお一人で置いて行く訳にはいきません。」

言葉を遮るように言って、骸は外したマントを長椅子の上に敷いた。

「こんな所にお一人でいると知ったら、ご家族はそれこそ心配するでしょう。
僕が傍に居ます。少しお休みください。」

少し強引なくらいの口調で言って微笑むと、その人は大きな瞳を揺らして骸を見詰め、
そして、柔らかな白い頬は淡い色に染めて、笑った。


骸は呼吸も忘れ、高鳴る鼓動に翻弄される。


恥じらいを乗せるように伏せられた睫毛は静かに瞬きをした。


「お優しい方ですね・・・」


鈴の鳴るような声に、蝉の鳴き声さえ耳に届かずにただただ、己の鼓動を聞く。


「あの・・・はしたないのですが、帯を緩めても宜しいでしょうか・・・?」

はっと我に返った骸は慌てて踵を返した。

「どうぞ。何かありましたら、お声を掛けてください。」

「ありがとうございます。」


入り口を塞ぐように立った骸の後ろで、ささやかな衣擦れの音がする。


骸は意識的に瞼を落として心を鎮めるように努めた。


この年ですでに女馴れしている骸だったが、こんな想いになったことは未だかつて一度もなかった。
ほんの少し瞳が合った、ただそれだけのことで全身が心臓になったようなー・・・


どれくらいそうしていたのか、背中にいくらか元気を取り戻した声が掛かった。

「本当に、ありがとうございました・・・お陰さまで随分と良くなりました。
家はすぐそこなので、もうひとりで歩いて帰れます。」

「そうですか、それは良かった。」

ほっとして後ろからそっと差し出されたマントを反射的に受取り、
そのまま視線を滑らせてその人の姿を目に映そうと振り返り、骸は息を飲んだ。


少し着崩れたように開かれた襟と胸元。


体調が戻った白い肌には薫るような柔い汗が控え目に浮かび、
血色の戻った頬は淡い色を湛え、水に濡れるような瞳が骸を見上げた。


「あの・・・お名前は・・・?」

骸ははっと我に返った。
一瞬でも脳裏を過った邪な心を悟られたくない一心で、ついついこんなことを口走ってしまう。


「名乗るほどの者ではありません。」


そしてその人を残したまま、立ち去った。


のち、激しく後悔。


あの流れで行けば、骸だって彼の名前を聞くことが出来たのに。
何て馬鹿なことを言ってしまったのか。

骸は舎弟に散々八つ当たりをしてから、彼を捜すように言い付けた。


けれども思いも寄らぬ早さで彼の名を知ることになる。


彼の名前は沢田綱吉。
骸より一歳年下の15歳だった。

なぜそれほどまでに早く見付かったかと言うと、
彼は、彼の実家は誰もが知っているほどの名家だったから。


この国の最大の財閥、沢田財閥の御曹司だったのだ。


何ということだろうか。
今更会いに行ったら礼目当てと思われても仕方がない。

それにそれほどまで身分があるのだから、普通は一人で出歩かない。
あの日は本当に、ごくごく稀なことだったのだろう。

所在が分かっているのに会いに行けない歯痒さから激化した八つ当たりの中で
舎弟が骸に報告した内容に、骸は運命を感じて手を休めるほどだった。

聞けば綱吉は生まれつき体が弱く、学校には行かずに家で華や茶を習って教養を身に付けているらしい。

まるで花嫁修業ではないか!

更に綱吉には兄がいる。

財閥は長兄が継ぐことが決まっているそうなので、
綱吉を花嫁にすることは沢田の家にも都合は悪くないだろう。


体が弱いと言うのなら守ってあげたい。
自分の身よりも家族を思い遣るその優しい心もすべて守って、
冷たい指先を温めてあげたい。


骸は生まれて初めて明確な目標が出来た。

綱吉を妻に迎え、生涯を掛けて守り抜き、綱吉を幸せにする。


そのために骸はあっさりと学校を辞め、泣いて止める両親を振り切り軍へ入隊した。

今のままでは綱吉と身分が違い過ぎる。
骸の家もそこそこではあるが、沢田の家からしたら地位などないに等しい。
天地が引っ繰り返っても綱吉を妻になど迎えられないだろう。

この国での軍の社会への影響力は絶大で、軍での地位がそのまま社会での地位になる。
今のままではどう足掻いたって身分は手に入らないから、軍で地位を手にする他ない。

幹部になれば両親だってよくやったと手放しで喜ぶことだろう。

骸はその自信があったし、是が非でも幹部にならなければならない。


すべては、綱吉のために。


元々女とは名前も碌に覚えていないような付き合いしかしていなかったので、
手を切るのは容易いことだった。

もう絶対に綱吉以外の人間には触れない。
もっと早くに出会えていればと後悔すらした。


確固たる地位を手にするまで綱吉には会わないと決めたのだが、
やはり遠くからでもその姿を見ていたい。
少しでも、喜ばせたい。

骸は10日に一度外出が許される日に、綱吉に花を贈った。
それは七年もの間続くことになる。

綱吉は花の世話をするのが好きらしいと聞いたので、鉢植えにした。
綱吉に育てて貰えるなら、花だって骸だって幸せだ。

鉢植えと、ただ「綱吉様へ」と書いただけの文を添えて玄関先に置く。
始めの頃は使用人が不審そうにしながらも屋敷の中へ持って行っていたが、
その内に綱吉が自ら取りに出て来るようになった。


名前しかない文を手に取って、余白に詰まっている骸の想いを汲むように柔らかく指を滑らせる。
そしてとても大切そうに鉢植えを抱えて屋敷に戻って行くのだ。

その姿を見て骸はいつも決意を堅くした。


必ず綱吉を、幸せにする。


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